バケツリレー方式の人道支援ロジスティクスへの応用

バケツリレー方式(bucket brigade protocol)は,生産ラインやピッキングラインの自己組織化方式として広く用いられている.元々はは,トヨタの部品工場でToyota Sewn Products Management System (TSS)という名称で開発されたものであるが,Bartholdi—Eisenstein \cite{Bartholdi1998} によって1998年に形式化され,数学的に解析された.その後,多くの工場や倉庫で用いられ,成功をおさめている.

たとえば,http://www.bucketbrigades.com/を参照されたい.

基本になるのは,複数の作業場が上流から下流へと直線上に並んだ生産ラインであり,これを作業場数より少ない作業員で処理をすることを考える.作業の速度は作業員ごとに一定であり,移動速度は作業速度にくらべて早いので無視できると仮定する.作業員は上流から順に$1,2,\ldots,n$とし,追い越しはしないものとする.

作業員は以下のプロトコルにしたがって作業の処理を行う.

前方移動:作業が終了したら下流の作業場に移動する.もし最後の($n$番目の)作業員が最後の作業を終了したなら,上流に向かって移動する「後方移動」を行う.また,自分の次の作業員が後方移動してきて自分の位置まできたら,作業を次の作業員に委託して,自分は「後方移動」を行う.

後方移動:上流に向かって自分の前の作業員の作業場まで移動し,その作業を引き継ぐ.最初の作業員の場合には,最初の作業場まで戻り,最初の作業を開始する.

バケツリレー方式は昆虫が集団で餌を巣まで運ぶときにも用いられているので,その起源は蟻にある.日本においては,江戸時代の火消しが発案者かもしれない.

この方式の利点としては,作業者が自動的に適切な作業場に割り当てられるように自己組織化されることや,作業者が同じような作業を繰り返すので学習効果が得られることがあげられる.

ここでは,上のプロトコルを人道支援ロジスティクスにおける支援物資のトラックによる輸送に拡張する.これによって,大規模災害時における混乱した状況において,輸送手段の偏りを自動的に適正化することが可能になる.

支援物資供給地点 =>一次保管所 => 二次保管所 => 避難所

の4段階のサプライ・チェインにおいて,輸送を受け持つトラックの台数に対するバランスがとれていないため,物資の滞留が発生する.バケツリレー方式を応用することによって,自動的にバランスのとれたサプライ・チェインを構成できる.

一次ならびに二次保管所においては在庫が可能である.一次(二次)保管所に到着したトラックは,その地点にある程度の在庫があり,物資を搬出するトラックが十分にないと判断した場合には,その地点を通過し,次の地点(一次保管所の場合には二次保管所,二次保管所の場合には避難所)に直接物資を輸送する.

事前に,一次(二次)保管所に十分な在庫があることが確認されている場合には,保管所に立ち寄ることなく,下流の地点へ移動する.

二次保管所から避難所への輸送を行うトラックは,避難所からカンバンをもって二次保管所に戻る.ここに在庫がない場合には,さらに上流の一次保管所へカンバンを持って行き,必要な量を補充し,下流へと戻る.

バケツリレー方式との違いは,積み替え可能な地点が限られていること,必ずしもラインになっていないこと,トラックの種類が複数あること,などがあげられる. 

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