我が国の宅配業者の問題点

ちょっと聞かれたので、思いつく順に羅列しておく。

1. ラストワンマイル物流

最終の集積点(センターとか小さな郵便局)から個々の顧客への配送ならびに集荷を業界では「ラストワンマイル」輸送と呼ぶ。我が国の宅配におけるラストワンマイルの問題点は、「不在」の問題だ。誰が考えたのかは知らないが、必ず顧客からハンコもしくはサインをもらわないといけないというのが我が国のルールだ。これによって、宅配業者は、何度も顧客を訪問する羽目になる。

特に、集合住宅でも、各顧客に対して不在かどうかを確認した後で、荷物を持っていく必要があるので、諸外国と比べると遥かに手間がかかる。政治家や官僚は物流に関しては素人なので、業界全体で説得して、このようなくだらないルールは改定する必要があるだろう。韓国ではマンションの管理人に渡しておけば大丈夫なような法律になっている。こんな簡単なことがなぜできないのだろうか?

法律を変えるのは我が国では、時間がかかる。打開策として考えられているのは以下の施策だが、どれも成功していない。

役人が主催した「COOL CHOICEできるだけ1回で受け取りませんかキャンペーン~みんなで宅配便再配達防止に取り組むプロジェクト~」というのがある。

1回目で配送できたらポイントが貰えるとかあるが、誰が負担するのだろう。保育園に宅配ボックがあれば便利とあるが、1台幾らするか知っているのだろうか?素人の思いつきを集めたところで何の役にも立たない。

 a. 宅配ボックス

集合住宅内に設置されているものは使われているが,不足している.駅前に設置したものは誰も使わない。わざわざ自分で運ぶのも面倒だし、特に女性は自分が一人暮らしだと白状しているようなものだ。ストーカーを助長するような仕組みは危険すぎて使えない。

b. コンビニ受け取り

コンビニの業務は多義に渡り、バックヤードも貧弱だ。コンビニで宅配の荷物を受け取ると、そのために長蛇の列を作るので、周りの迷惑を顧みない人以外は使い辛い。実際に、コンビニでの受け取りは何度もキャンペーンをした割には少なく、数パーセントだと聞いている。

c. 宅配ボックスもしくはオキッパ

一軒家の場合、自宅の前にボックスを自腹で設置すると解決すると言われている。ただし、入りきらない場合や入れ方がわからない配送員の場合にはトラブルが発生する。オキッパが無料で配布されていたときに使ってみたが、配送員がちゃんといれてくれないとか、開け方が家族に周知されていないとかで結局倉庫送りになった。自腹で設置するとなるとさらに敷居が上がる。

d. 電気メーターから不在を検知

某大の研究員がこれを提案しているのを見かけた。電力会社が個人情報を別会社に自動的に送ることができると仮定したモデルなので、いわゆる絵に描いた餅モデルだ。同様に、ドローンを用いた配送も同様だ。我が国だと、電線に絡みとられて墜落する可能性が高いので、政府が許可するとは思えないので,これも絵に描いた餅だ.ロボットが運んでくれるというのも同様だ.

e. 2回目はユーザーに置き場所を指定してもらい勝手においていく

アマゾンはこれを導入したようだ。最初の不在での後ろめたさにつけこんで,自宅前とか幾つかの置き場所を指定して,2回目以降の不在を削減しようという作戦だ.アマゾンのようにECの元請けだと,なくなった場合には同じものを無料で運べば良いのでこれができる。通常の宅配業者は何が入っているかわからないので、全て保証すると言うのは難しいだろう。なくなったと嘘をつく詐欺にも注意する必要がある。

現状における正しい方法としては、過去の不在データ(あればだが)から、推奨システムなどで成功をおさめた手法(いわゆる機械学習の一手法)などを用いて、各顧客・各日時ならびに時間帯ごとの不在確率を推定するのが良いだろう。さらには、直前の不在履歴(2回3回と不在が連続している場合には、長期旅行と推測)とか附帯情報を用いて、推定値の改善を行うことが望ましい。

それができた後では、動的かつ不確実性をもつ運搬経路問題を解くことだ。履歴をドライバーに渡した端末で収集するなどは当たり前だが、そのようなビジネスモデルだけでなんとかなると考えている会社はおそらく失敗するだろう。この最適化はそれほど簡単ではない.強化学習もしくは最適化とブートストラップ+アンサンブルの融合手法が必要になる.

2. 2次集積地点への(からの)配送

小規模集積所と大規模集積所間の荷物の輸送は、配送計画問題になる。過去の、様々な歴史を引きずったアドホックな方法を用いている業者も多いが、基本的には、デポからの配送(delivery)と集荷(picvkup)が混在した、ソフトな時間枠付きの分割運搬経路問題(Split VRP)で、さらに複数回転を考慮したものが基本モデルとなる。

現場ごとに、様々な付加条件がつくが、往往にして無視して良い。例えば、1次集積地点間の直接輸送などは手間がかかるので、2次集積地点でソーティングするように統一して、全てデポと小規模集積所間の輸送とした方が、簡単かつ効率的になる。

ただし需要が多少ブレても大丈夫なように設計しておく必要がある。これには需要予測の精度が重要になる。

3. 2次集積所間のネットワーク設計

大規模集積所に集約したOD (Origin-Destination) フローを、最適な輸送手段(トラックとその種類、鉄道、船、航空機など)に割り振り、かつOD間のルートを決め、さらには到着点 (Destination)に対しては、入木 (in-tree)のネットワークを設計する必要がある。入木条件は、途中の積み替え地点では、発生地点 (Origin)の情報は消えているために必要な条件である。

現状では、適当な近い大規模集積地点に送ったり、荷物量によらず固定ダイヤで輸送をしているところが多い。特に、帰り便と併せて費用を削減する方法については、経験と勘でやっている業者はまだ良い方で、全く帰り便を積まない業者もあるようだ(これもくだらない法令によるものである)。

上記のことを達成するためのITが整備されていることも必須条件である。これが揃った後でなとら、プロジェクトが上手く動く可能性もある。少なくとも、集荷時にすべての荷物の重量と大きさを把握し、その発着地情報から、上記の諸モデルを動かす必要がある。大手ECから出る荷物は、経理用の情報だけで大きさは不明とかしているのなら論外だ。すぐに大きさなどもわかるシステムに変更する必要がある。

重要なことは、社内で、本当に危機感(このままだとオークションで安い宅配業者を選び始めた某A社に吸収される危険性が高い)を持って牽引できる人材を見つけることである。社内で、今までの方法を変更して効率化することを現場に説得できる力を持った人がいないと、改善方策の実施は不可能だからだ。現場は自分の経験と勘を否定されることを嫌う.また仕事のやり方を変えることを極度に嫌う.これを乗り越えるには,リーダーシップとそれなりのポジションが必要なのだ.



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