災害直後の支援物資供給システム

災害直後の支援物資供給システムが満たすべき公理を示した後で,具体的なシステムを提案する.

・コンピュータやインターネットの利用を前提としない.

途絶直後の応答フェイズでは,インターネットはおろか,コンピュータを使用して何かを計算することができない可能性が高い.熊本の震災では,避難所にipadを配布して何かやろうとしたようだが,途絶発生からだいぶ時間が経過してからでないと,役に立たない.重要なのは,被災から3日間であり,その間にコンピュータやインターネットの助けなしに,効率的な物流を行うシステムである必要がある.

・必要な支援物資の量や位置に対する事前情報を前提としない.

・需要の定常性を仮定しない.

災害の規模や場所は事前にはわからない.様々なシナリオの下で,事前準備をしておくことは重要であるが,応答フェイズにおいて需要量と位置がすべて既知ということは,ありえない.したがって,わからないデータを配送時に収集し,収集したデータに基づいて新たな配送経路を決めるといった,動的なシステムを構築する必要がある.さらに,需要は定常ではなく,日々刻々と変化する.したがって,システムも未知の将来事象に対応できるものでなくてはならず,アルゴリズムとしてはオンラインアルゴリズムが必要とされる.

・自己組織化 (self-organization)システム

自立的に効率化を図るようなシステムが望ましい.全体の情報を用いなくても,全体最適に近づくように個々のエージェントが協調して働くことが要求される.

これらの公理を踏まえシステムを構築したいのだが,ヒントになるのは,カンバン方式,バケツリレー方式(bucket brigade),事前巡回路戦略(a priori strategy)である.

カンバン方式(リーン生産方式)は言わずと知れたトヨタの生産管理の仕組みであり,必要異なものを必要なだけ生産する引っ張り(プル)型の仕組みである.最近は計算機を用いた電子カンバンも用いられるようになったが,単なる生産指示のための板(カンバン)で十分である.人道支援ロジスティクスの応答フェイズにおいては,避難所への支援物資の量を決めるために用いられる.

まず,避難所にはカンバンに対応する板(できれば荷物が載せられるパレット;以下パレット)を準備しておく.パレットは支援物資ごとに色分けしておく.たとえば食料は赤,毛布は青,清潔用品は白といった具合である.さらに,パレットには避難所の位置(住所,緯度・経度)や情報(名称,収容人数など)が記載されたカードを収容しておく.避難所に(最初の1回目はプッシュ方式で)物資を供給したトラックは,これらのパレットを回収し,集積所に戻る.集積所では,パレットの色に応じた支援物資を載せ,再びトラックに積み込み配送を行う.これによって,避難所における支援物資の在庫量の上限は,パレット数分に抑えられるので,避難所が支援物資で埋まってしまうようなことは避けられる.事前に配置するパレットは,避難所の最大収容人数に応じて決めておき,備蓄品を上に積んでおく.その後,すべての備蓄品が使用されたパレットだけを回収して,配送指示を行うことによって,避難所の支援物資在庫量の適正化が自動的に行われる.

バケツリレー方式

人道支援ロジスティクスにおける輸配送ネットワークは多階層である.供給地点を出発した物資は集積所を経由して避難所までは運ばれる.この際,何階層が望ましいのかは事前にはわからない.通常は,県単位の集積所,市区町村単位の集積所,避難所の3階層を想定してマニュアル化されているが,市区町村に任せると,そこで物資が停滞してしまうことが多いようである.場合によっては,県単位の集積所でも,物資が停滞して,非効率なロジスティクス・システムになってしまうこともある(熊本大震災のときがそうであったように).これは,バケツリレー方式とよばれる自律型システムを用いることによって,解決できる.

事前巡回路戦略

トラックがどのような順序で避難所を経由すれば良いかは,比較的難しい最適化問題(配送計画問題)になる.これは,事前巡回路戦略で解決できる.

事前に準備しておくのは,日本中のすべての地点(メッシュ)に対する事前巡回路である.これは避難所だけではなく,新たに避難所になる可能性がある地点もあるので,メッシュに対して行う方が良いかも知れない.これを集積所になる可能性がある地点をデポと仮定した配送計画問題を解くことによって,巡回順を決めておく.面倒な場合には,巡回セールスマン問題でも良い.

Bartholdiが提案した空間充填曲線による事前巡回路と異なる点は,橋や川や山などの障害物を考慮することであり,OpenStreetMapを用いた実距離(移動時間)を用いた最短路を計算して行う.

これには膨大な時間がかかるが,PySparkなどで並列で行い,結果を記入したカードを集積所近辺の役所に保管して,いざというときに備えておく.

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