7-H24.3.3支援物資配布

押し出しと引っ張りの境界

モダンなサプライ・チェインにおける中心的概念の1 つとして「押し出し
と引っ張りの境界」がある.つまり,どこまで見込みで生産し(これを押し
出(push) とよぶ),どこから受注を受けてから生産をするか(これを引っ張り(pull) とよぶ)を全体最適になるように決めようということだ.
災害時のロジスティクスにおいても押し出しと引っ張りの境界は重要だ.

1995 年の阪神・淡路大震災の際には,被災を受けた神戸市役所に大量の
支援物資が見込みで(押し出し形式で)輸送されたため,混乱をもたらした.2004 年の新潟県中越地震の際には,古着やトラック一杯のリンゴが(当然,見込みに基づいて)支援物資として輸送された.2011 年の東日本大震災の後では,見込みに基づいて大量の支援物資が輸送され,震災の1 ヶ月後には6 ヶ月分の物資が保管されていた.

東日本大震災の後で編集された報告書では,震災後「ある程度の期間が過
ぎたら」押し出しから引っ張りに移行し,さらに引っ張りフェイズにおいて
は,避難所から欲しい支援物資をファックスや電話で発注し,受注した物資
を輸送すべきだと提案されている.

押し出しと引っ張りの境界地点は,中継地点である.見込みにしたがって
(押し出し形式で)中継地点まで輸送し,そこで仕分けられた支援物資は避
難所などの需要地点に配送される.ここで輸送と配送という2 つの用語を区
別していることに注意されたい.物資の供給地点から中継地点までは,ある
程度大きめの容量をもつ輸送手段(たとえば大型トラック)で行われ,これ
を輸送とよぶ.中継地点から避難所へは,小さめの容量をもつ輸送手段(た
とえば中・小型トラック)で行われ,これを配送とよぶ.
配送の部分に関しては,押し出しフェイズから引っ張りフェイズの移行の
タイミングを明確化する必要がある.最初の避難所への配送は,おおよその
避難人数意外には情報が何もない状態なので,押し出しで行われる.その後,避難所の情報を(できるだけ簡易的な方法で)上流に伝え,引っ張りに移行する.この際に,避難所の「注文」(たとえば総菜パンや菓子パンの個数など)を聞くのではなく,食料や水や毛布を何人分・何日分必要かという情報を,できるだけ短時間で得る.(これには後述するカンバンつきパレットが有効である.)

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