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災害物流コントロール・タワー

サプライ・チェインの最近の流行語の1つに「コントロール・タワー(管制塔)」というのがある.複数の会社や複数のERPシステムを統合して,中央で管制するためのシステムを指す用語で,2011年ごろに提案されたらしい.特に,オペレーショナル(できればリアルタイム)の意思決定のために,サプライ・チェイン全体の見える化をするためのシステムを指す.

SCMに関してはこういった流行語を追うのは愚の骨頂だと思っていたのだが,災害物流(より広くは人道支援ロジスティクス)に関しては,中央ですべての情報を管制して,すばやい意思決定を行うことは重要だ.それに対するキャッチコピーとしては,人道支援ロジスティクス(長いので災害物流)コントロール・タワーというのは悪くない.

災害発生地点からのの情報を得ることは難しいが,衛星映像,偵察ヘリなどを駆使して得た情報を1箇所に集めておき,適切は物流ならびに救助の指示を行う.災害はどこで発生するか分からないので,複数の拠点にコントロール・タワーを設けておき,そこに情報が集まるようなシステムを事前に作っておき,いざというときには被災していないコントロール・タワーを司令部とすれば良い.

救助ならびに支援物資輸送に用いる輸送資源には,GPSなどで移動情報をリアルタイムで集約し,それをでかい画面に映し出すなども必須アイテムだろう.それより重要なのは,被害規模から被災した人数を推定し,被災地周辺から集積所を選択し,そこに運ばれる救援物資の制御を行う最適化システムだ.これは意思決定というより,事前に最適化モデルを作っておき,幾つかの解の候補を意思決定者に示して,迅速に判断を行うことが望ましい.今までのように,関連部署に連絡して,みんなで話し合って決めているのでは間に合わない.

もう1つのSCM関連の流行用語にアナリティクスというのがある.人道支援ロジスティクスに対してもアナリティクスの適用が不可欠である.

アナリティクスは大きく3つに分類できる.

1. 過去を振り返るもの.記述的(descriptive)アナリティクスと呼ばれる.災害物流において,過去に発生した諸災害のデータを分析・整理して,何らかの知見を得ようというものがこれに相当するが,単に過去はこうやったというレポートだけでは,同じ災害は二度とは発生しないので,無意味である.しかし,ほとんどの報告書がこの範疇に属するものである.理由は簡単で,やりやすいからである.

4. 未来を予測するもの.予測的(predictive)アナリティクスとよばれる.台風や集中豪雨による水害などはある程度予測に成功しているが,肝心の地震やそれに伴う津波に対しては,ほとんどが(というより全てが)外れている.逆に,この地域は地震が発生する確率が低いとかいうレポートは,対策をしなくても大丈夫という間違った判断につながるので,予測的アナリティクスは害の方が大きい.熊本の震災などがその代表例である.(熊本県は,九州地方の災害対策の拠点として最適であるというレポートが震災直前に出されていた.予算を獲得するためのレポートであると推測されるが,熊本は地震が来ないので,ここを拠点とするべきだと書いてあったが論外である.)

5. 最適化を用いて将来に対する行動を指し示す.指示的(prescriptive)アナリティクスと呼ばれる.上述したように将来の災害は予見できないので,「もしこうなったら」(what if)形式の問いに対する対応の最適化が中心になる.たとえば,もしこの地方でこの程度の地震が発生したときには,この程度の避難民が発生するので(この部分は予測的アナリティクスである),集積所をこことここに設け,近隣の県の備蓄物資を緊急輸送すべきである,というのが指示的アナリティクスの例である.こういった「もしこうなったら」というのは,シナリオと呼ばれ,シナリオに対する指示はリコースとよばれる.リコースは,緊急時対応計画のことであり,これがとりやすいために準備をしておくことは最適化では即時決定(here and now)と呼ばれる.これは単なる訓練だけでなく,備蓄品の適正配置や,集積所の候補選び,輸送会社との提携などが含まれる.


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