サプライ・チェイン・クラウド・サービス

最近,サプライ・チェインの最適化をクラウド上で提供するのが流行のようだ.MITのSimchi-Levi氏はLogic Tools社でデスクトップ型のサプライ・チェイン設計システムを販売していたが,IBMに吸収され,その後ラマソフト社に転売されたようだ.彼は最近新しい会社を作りSCMのクラウド化を進めている.

以前からデスクトップ型のSCMツールは高価すぎて,意思決定力に欠ける日本の会社には,敷居が高いと感じていたが,クラウドなら低価格でお試しすることが可能だ.

たとえばスタッフスケジューリングシステムなどは,Apple Storeなどに日程の調整をするためのカレンダー機能に,給与計算などを入れたアプリがたくさん並んでいる.ほとんどが無料で,広告などで収入を得ようとしたものだが,筆者が考えているシステムはもう少し大規模なものだ.

末端のバイトや社員の入力画面は,これらのアプリと同様に,勤務可能な日程を入力するだけの簡単なIPhone(もしくはAndroid)アプリだ.これは,PythonのKivyというパッケージで簡単に作ることができる.これらの情報を統合して店長が全体の勤務管理をするためのアプリが裏で動く.これはIPhone(Andriod)アプリでも良いし,PCが使える環境ならブラウザ上で動くWebアプリでもよい.バイトからは希望勤務情報,店長からは必要なスタッフ数情報を受け取ったサーバーは,最適化を実行し,スタッフ数の過不足を計算する.不足した場合には,勤務可能そうな人にアプリ経由で打診し,必要なら適当なオークションを実行する(具体的にはバイトの時給の競りを行う).

最適化はPuLP経由で動くCBCや制約最適化のSCOPを用いる.組み合わせ爆発を防ぐなら後者が妥当な選択だろう.

他にも,勤務制約(たとえば夜勤明けは休日を入れるとか,月間の休日数の上下限など)のマスター情報は,店長側(もしくはチェイン店ならエリアマネージャー)で管理する.

他にも,配送計画システムやサプライ・チェイン設計システムなどが構築できる.これらには地図(GIS)が必要だが,最近はOpenStreetMapというフリーでそこそこのシステムが使えるので,それを使えばよい.地図情報は最短路計算などが重いので,自前でサーバーをもつ必要がある.

サプライ・チェインの実際問題でクラウドを使う場合には,「管理の階層」の概念が重要になる.具体的な例として店舗のスタッフスケジューリングを考えよう.

複数の店舗でスタッフの勤務スケジューリングを行うクラウドサービスの階層は以下のようになる.

バイトなどの個人のUI     -> 店長用の管理UI  -> (10店舗くらいをカバーする)エリアマネージャ用の管理UI -> 本社用の管理UI 

バイトなどのスタッフ個人個人はスマホアプリで個人のスケジュールを管理する.必要になるのは以下の情報である.

・勤務可能日と希望勤務時間(もしくはシフト)

・時給

・累積給与(税金対策のため)

・累積勤務時間(労働時間の制限対策のため)

・可能な仕事(スキル;たとえば接客や品出しはできるが,レジうちはできないなど)

これらのデータは個人だけでなく,店長用の管理画面でも見ることができる.店長用の管理システムでは,各日の各時間帯の必要人員(各仕事別でも良い)を入力とし,必要なスタッフのスケジュールを最適化によって決定する.ここが,他のスマホアプリと異なる点である.店長が入力するデータは以下のようなものが考えられる.

・日別,時間別の仕事の量

・休憩ルール(たとえば3時間働いたら必ず30分休憩とか,夜勤明けは休みとか;これは本社が入力しても良いが,店舗ごとに管理できる方が望ましい)

・スタッフ不足時のペナルティ

最適化した結果から,どの店舗でどのくらいのスタッフが不足しているのか,それとも余っているのかが把握できるので,エリアマネージャは別店舗からの応援などを提案できる.本社ではすべての店舗(想定されるのは1000店くらい)からの情報を受け取るので,ダッシュボード形式にして,毎月(毎週)の売り上げ,費用,スタッフ数などの変化を把握し,俯瞰した経営判断につなげる.



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?