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鞭効果

モダンなサプライ・チェインを理解するための基本概念に鞭効果というのがある.これはロジスティクスの時代にはなかった概念であるが,サプライ・チェインでは基本の基本である.しかし,震災後に出されたどの報告書にも書いていない.これは報告書を作成している研究者たちが,物流(ロジスティクス)の専門家であり,サプライ・チェインの専門家ではないことに起因すると考えられる.

鞭効果とは,サプライ・チェインの下流の変動が上流に行くに従い増大する現象である.ビジネス書では,P & G の経営陣が最初に気づいたと書いてあることが多いが,それよりはるか昔から鞭効果は(別の名前で)知られていた.MITのForrester は1958年の論文でシステム・ダイナミクスとよばれる確定的シミュレーションを行い,その対処法について論じていた.これは鞭効果に他ならない.

ビジネスにおける鞭効果の原因には様々なものがあるが,震災の際の主な原因は複数の地点での情報伝達であろう.たとえば,避難所で簡易トイレが不足しているという情報は,マニュアル通りに市・県・国と伝言ゲームをしていくうちに増大していき,遠くの供給地点から大量の簡易トイレを避難所に輸送した頃には,すでに(水回りが復旧し)需要がなくなっていた,というのが典型である.

対処法としては,段階数を減らす(集積所から避難所へ直送),中央集権型の管理(市,県,国と伝言ゲームをしない),リード時間短縮(近場の供給地点から輸送),配分ゲーム(供給不足と供給配分)をさせない(避難所の御用聞きをしない)などがあげられる.

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