一所懸命と避難計画

米国の避難計画は単純であり,なるべく早く被災した地域から住民を待避させることを優先する.よくハリウッド映画で見かけるように安全な地域へ大移動するのだ.映画ではみんな車で移動するので大渋滞を起こすのだが,実際にはチャーターしたバスで政府が決めた移転先に集団で移動させることが,災害時のマニュアルに書いてある.

一方,我が国では被災地の「内部」にある避難所で我慢して頑張ることがマニュアル化されている.これは司馬遼太郎氏が日本人の本質を述べるときによく使われた「一所懸命(いっしょけんめい)」があるからだと思われる(一生懸命(いっしょうけんめい)ではない).日本の武士は農民から発生したものであるので,自分の所有する土地を守ることがほとんどの日本人の優先事項だと言うわけだ.そのため,先祖伝来の土地のそばで我慢する人が多いというのも理解できるが,ほとんどの現代人は土地への執着はないはずである.したがって,なるべく被災地外に移動させることが,我が国の避難計画でも第一の目標となるべきなのである.

テレビで被災地(熊本)の周辺地域の首長が「今後は自分のところにも(災害が)来るかもしれないので準備しておきたい」とコメントをしていたのを聞いて唖然とした.いますべきことは周辺(遠くても良い)地域の避難所に被災者を受け入れることだと思われるのだが,そういった発想は地方自治体の首長にはないのだろうか?おそらく,そういったこと(県をまたぐような意思決定)は国が考えるべきことで,県や市区町村の役割ではないと考えているのだろう.なるべく早く行うべきことは,空いている周辺地域の避難所や医療機関へ,チャーターしたバスや(病人は)救急車・ヘリで輸送することであるが,実際には逆に被災地に人員や物資を輸送することを優先しているように見受けられる.国レベルの避難計画を見直して今度に備えるだけでなく,現在被災地で疲弊している人たちを今すぐに周辺地域で受け入れるべきであり,そのための輸送・割り当て計画を立てることが重要である.飛行機の優先搭乗のように災害弱者を優先させることはいうまでもない.もちろん,「一所懸命」のため自分の家のそばにいたい人たちは残しておけば良い.米国のように強制移動させることは我が国には向いていない.

(追記)テレビ(NHK)で避難所の話をやっていた(2016/04/29)ので追記.この時点で県外への避難を言い出す人は皆無なようで,残念だ.ログハウスを(地震が起きている最中に)被災地に作って,将来の町作りをすれば良いという意見には吹いた.再び大きな地震が発生して避難所が倒壊する可能性もある.そのような悲劇が起こって大勢の人命が失われないと,避難計画の矛盾に気づかないのかも知れない.

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