紅茶オレンジペコにオレンジの香りはしない理由
一般にオレンジペコとして販売されている紅茶は、セイロン系のブレンドが多く流通している様子で、くれぐれもオレンジの香りはしない。
というか、オレンジペコという銘柄がそもそも存在しない。
たぶん1970年代初頭に、オレンジペコのティーバッグを初めて見た。
目黒に住む従姉が、私を京橋の明治屋に連れて行って、高級な紅茶だと叙説して買い物カゴに入れた。
私はそのまま目黒まで付いて行った。
いざオレンジペコをティーカップに注いで二人で飲んだとき、
「あら、オレンジの香りがしないじゃない」
と不満そうにつぶやいたのを覚えている。
ペコとは茶葉の等級を表す用語で、ざっくり言えば葉の大きさに由来する。
上等とか下等とかの等級ではない。あくまでも形状である。
紅茶に限らず茶は葉を抽出して飲む。
フルリーフとはきざんだり砕いたりしない葉っぱそのものを意味する。
フルリーフの大きさは、茶の樹の上の枝ほど小さく、下の枝ほど大きくなる。
大きな葉がスーチョン、次に大きな葉がペコスーチョン、中間くらいがペコ、その上の小さな葉がオレンジペコ、一番小さな葉がティップと呼ばれる。
オレンジペコは先端から次に若い葉っぱで、まだ開ききっておらず、柔らかい。
この葉の形状による等級にも国際的な基準はなく、産地ごとに勝手に等級を選別している。
中国茶などはフルリーフで淹れることがある。
紅茶は、きざむか粉砕するか。これをブロークンと呼ぶ。
結局は葉の大きさの呼び名にすぎないオレンジペコ
ブロークン・オレンジペコは、オレンジペコの葉を2~3ミリ程度にカットし、そこに少量のティップを含む茶葉の呼び名だ。
これが紅茶として一番多く流通している。
これを商品の名前に冠したのがオレンジペコなわけだ。
一番多く飲まれている紅茶=オレンジペコという図式になる。
オレンジの葉っぱの大きさに近い茶葉かと問われれば、それはノーである。
あくまでも、枝先の上から二番目に小さな葉っぱを指す名称である。
19世紀に、リプトン紅茶の創業者サー・トーマス・リプトンがヨーロッパにオレンジ・ペコを上質な紅茶の代名詞として普及させたという説がある。
オレンジペコの名の由来
緑の葉が酸化して紅茶に変じるときに、乾燥したオレンジ色に見えるからだという説がある。
オランダの貴族、オラニエ・ナッサル家(後のオランダ王家)がオランダ東インド会社の貿易を掌握しており、ここで流通した紅茶をオラニエの紅茶と呼び習わすうちに、オラニエがなまって、オレンジとなったという説もある。
オレンジペコの大きさの葉で入れた紅茶はオレンジ色をしているからだというもっともな説があるが、じつはこの説がもっとも信憑性が薄いという。
結局のところ、真相は分からない。
オレンジペコはまぎらわしい上にややこしい。
葉の大きさを指す用語だから、セイロンにも、ニルギリにも、ダージリンにもオレンジペコは存在するわけで、何を指して「オレンジペコという紅茶」を意味するのかが分からない。
私の従姉が、オレンジの香りがしないとがっかりした1970年代から現在にいたるまで、相変わらず店頭には「オレンジペコ」と名付けられた紅茶が並んでいる。いまも「オレンジの香りがしない」と裏切られた気分になる人は少なくないのではないだろうか。
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