開ける窓
朝、ものすごく明るい光が寝室に差し込んでいた。ベージュを買ったつもりのカーテンはほとんど白に近くて、白い光で部屋が満ちていた。娘に「起きてよ!」と促される。昨日遅い時間までたくさん泣いたから、あんまりうまく起きれない。多分娘はそれを察してくれて、一緒に横になってこちらを見ている。茶色の瞳がものすごく綺麗。こちょこちょしつつすこし話しているうちに、すこし元気が出て起き上がる。家中の窓を開けて壁についている扇風機をまわす。雨予報だったはずだが、ものすごく晴天だ。洗濯物をまわし、昨日の残ったお米で塩にぎりをつくって、ソーセージとスクランブルエッグを焼く。ふたりでいただきますをする。いろいろしているうちに0655の時間になったのでEテレをつける。オレ、ネコはふたりのお気に入りで、楽しく見る。洗濯物を干し、麦茶を入れ、着替えていつもよりすこしはやく家を出る。娘を園に送って、前の家の近くの大きな木のトンネルを走ってまた泣いてしまう。やっぱり大きい木がほしい。
一度家に帰って、ももちゃんに泣きつく。いつものように、うんうんと聴いてくれる。もう一度洗濯物を干して、とりあえず引っ越しの挨拶がてらまわりを散歩しようよ、というと、いいよ、と言われてふたりで手土産を持って外へ出る。歩くと風景が変わってたのしい。会えた人たちはみんな親切で気さくだ。狭い道を歩きながらじんわり汗が出る。帽子を被って来て良かった。なぜだが沖縄をおもいだして、すこし元気が出る。
お昼を食べて庭文庫へ向かう。ウェブストアで売れた本の発送作業をしていると開店時間になる。今日は短歌の会がある。短歌の話を聞きながら、ずっと短歌を書いた。初心者の会ということで、ほとんど短歌を書いたことがない人も書けるように、こんなふうに書いてみましょう、というパート分けが色々はあった。その中で、最初の五七五は心情を、後の七七は風景や情景を書いてくださいというところがあって、難しかった。心情ってなんだろう。さみしいは4文字、これを細かく伝えると2,000文字、そのあいだの17文字。短歌を書くぞとおもうと、たくさんかけることがわかって、嬉しかった。
短歌の会もおわり、園に娘を迎えに行く。緑のトンネルは、またわたしを切なくさせる。娘を迎えて、車の中でわたしの今の気持ちを話してみる。よくわからないな、という顔をしながら娘は、話を聴いてくれる。庭文庫についてからも、やっぱりかなしい、とふたりに話す。とりあえずお夕飯はお外で食べて、カーマで苗を買いに行こうというと、ふたりはいいよと言ってくれる。また前の家の近くを通って、やっぱりかなしい。「このかなしみをどう乗り越えたらいいのかな、乗り越えられる気がしない、木を植えたらマシになるのかな」と話す。ももちゃんはすこし笑っている。
お夕飯は久々に籠屋へ行く。アジフライ定食も、ホッケもうまい。つけあわせの肉じゃがが嬉しい。スイカまでついてくる。お腹がぱんぱんになって、カーマへ向かう。色々見るが、いまいちピンと来ず決めきれない。娘がブルーベリーがいい!というから、ブルーベリーの小さな苗を2つと、土を買って家に帰る。娘は食べ放題だー!と車の中で喜んでいる。食べ放題になるくらい実がつけばいいね、と話す。新しいお家につくと、「ただいま〜」と娘が言ってて、気持ちがあたたかくなる。風呂に入り、歯を磨いて、髪を乾かして布団にはいる。昨日と同じように窓をあけても、やっぱり緑のにおいがしなくてがっかりする。そこで、あれ?とおもう。寝室には南向きの出窓と、西側の掃き出し窓がある。西側の窓は猫がすこしだけ網戸を破ってしまい蚊が入りそうで閉めていたけれど、どう考えてもこちら側のほうが庭に面している。西側の大きな窓をいっぱいに開けて、カーテンも開ける。娘と布団にもぐりこむと、初夏にしては涼しい風と若い緑のにおいがする。娘のシャンプーのにおいもそこに混じり、急に幸福な感じがする。大きな老成した木の匂いはないが、若葉も匂いもいい。あんまりさみしくない。「ママ、さみしくなくなったかも!」と娘に言うと、「よかったね!」と微笑まれる。そして足を揉んでいるうちに娘は寝てしまった。これを書いている間も庭の草木の空気が入り込んできて、やっぱりわたしはすこし満足している。こう書くとめちゃくちゃバカみたいだ。この前、ここの窓を開けたときには、この匂いはしなかった。天気の問題もあるんだろう。明日も晴れたら夕方は娘とブルーベリーと野菜を植える。