見出し画像

アジアの美術史

西アジア芸術の流れ

 1はじめに

  西アジアの芸術は最古の文明といわれるメソポタミア文明とともにはじまった。シュメール人の小さな都市国家(1)にはじまり、周囲国の干渉や領地の拡大が西アジア芸術に変化をもたらしていく。そしてシルクロードによって「四騎獅子狩文錦(2)」や「鳥獣文綴織陣羽織(3)」など、遠路日本にも西アジアの影響を示唆する美術品を数多残すこととなった。

 2古代 

 ウルの王墓出土品「ウルのスタンダード」はシュメール文化の代表作例である。箱の形状をしており、平和と戦争を表裏それぞれにラピスラズリと貝殻の象嵌で表現している(4)。兵士の装備からは紀元前2500年も前から高度な戦争が行われていた事実がうかがえる。 
 後にアッシリアが台頭し、オリエント統一を成した。拡大した領土は外敵からの干渉を受けやすく、くわえて頻発する属州の内乱から軍事主義的な支配にならざるをえなかった。ニネヴェの遺跡から出土した北宮殿壁面「帝王ライオン狩り」の浮き彫りには異時同図法によってあらゆるアッシュルバニパル王の雄姿と、最期まで戦うライオンの姿に覇者たる不屈の王の姿が投影された(5)。
  アッシリア崩壊後、アケメネス朝ペルシアによって再びオリエントは統一された。アッシリアの高圧的支配と変わって、属国の文化・宗教に寛容な統治がみられた(6)。「アパダーナの東階段浮き彫り」に属国の使節が多様な文化を持ち寄り謁見する様子(7)がみられ、オリエント諸国の美術が統合された。

 3ヘレニズム 

 アレクサンドロス大王の東方遠征の勢いにアケメネス朝はやぶれ、ギリシア文化が融合した「ヘレニズム文化(8)」へとむかう。アレクサンドロスの死後、メソポタミア・イラン地域でアルサケス朝パルティアが興る。ハトラという都市はイランとローマの境界都市であり、パルティアの軍事拠点であった。「ハトラ遺跡」の建築様式はギリシア風である点から、ローマとイランの関係は戦争にとどまらず、文化的にも影響しあっていたといえる(9)。 
 イラン高原を含む領土は東西交易の中心地であり豊かゆえに他国からの干渉も受け続ける宿命にあったが遂に次代ササン朝がローマに勝利し、ペルシアは国力を取り戻した(10)。国情に安定をもたらすことができた強力な帝王像をペルシア独自の技法・打ち出し嵌め込み技法によって立体的に表現した「シャープール二世猪狩図銀皿(11)」は当時代の代表作例である。

 4イスラーム化 

 ササン朝はアラビア半島から到来したイスラーム勢力に制圧された(12)。イスラーム最古の建築物である「岩のドーム(13)」や、サファヴィー朝時代の王のモスク「イスファハーン(14)」は既存の伝統技法を取り入れ、イスラームの世界観を融合させながら確立していく傾向を持つイスラーム美術史の集積といえる。
 イスラーム美術の装飾は飾り文字・幾何学模様・植物模様が主となり、文字や無限に展開する計算された幾何学模様はイスラームの世界観そのものを表現している(15)。そして現在もなお、イランはイスラーム国家であり続けている。

註 
(1)前川和也『図解ーメソポタミア文明』河出書房新社、2011年、16頁。 (2)児島健次郎・山田勝久・森谷公俊『ユーラシア文明とシルクロード』雄山閣、2016年、237頁。 (3)桝屋友子『すぐわかるイスラームの美術』東京美術、2009年、141頁。 (4)前川和也『図解ーメソポタミア文明』河出書房新社、2011年、32頁。 (5)同書、112頁。 (6)八尾師誠『イランの歴史』明石書店、2018年、51頁。 (7)金子典正『アジアの芸術史ー造形篇2ー朝鮮半島・西アジア・中央アジア・インド』藝術学舎、       2013年、80頁。 (8)大戸千之『ヘレニズムとオリエント』ミネルヴァ書房、1993年、14頁。 (9)八尾師誠『イランの歴史』明石書店、2018年、72頁。 (10)同書、77頁。 (11)金子典正『アジアの芸術史ー造形篇2ー朝鮮半島・西アジア・中央アジア・インド』   藝術学舎、2013年、82頁。 (12)八尾師誠『イランの歴史』明石書店、2018年、165頁。 (13)桝屋友子『すぐわかるイスラームの美術』東京美術、2009年、18頁。 (14)同書、30頁。 (15)同書、43頁。

 参考資料・文献 
・大戸千之『ヘレニズムとオリエント』ミネルヴァ書房、1993年。 ・桝屋友子『すぐわかるイスラームの美術』東京美術、2009年。 ・前川和也『図解ーメソポタミア文明』河出書房新社、2011年。 ・金子典正『アジアの芸術史ー造形篇2ー朝鮮半島・西アジア・中央アジア・インド』藝術学舎、   2013年。 ・児島健次郎・山田勝久・森谷公俊『ユーラシア文明とシルクロード』雄山閣、2016年。 ・八尾師誠『イランの歴史』明石書店、2018年。 ・柴田大輔・中町信孝『イスラームは特殊か』勁草書房、2018年。 ・米田雄介『すぐわかる正倉院の美術ー見方と歴史【改訂版】』東京美術、2019年。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?