フットボールの現場で用いられる英語

どーも、べーやんです。

  三か月のロンドン留学中に、Football Samurai Academyにてユース年代の育成のお手伝いをさせてもらいました。特にU-13のカテゴリーを中心に練習や試合に携わりました。U-13のプレイヤーは、主に日本語話者が4割、バイリンガルが4割、英語話者が2割といった割合でした。そして、U-13を指導するのはSimonさんというぱっと見ると気難しそうな中年のおじさんです。彼は当然英語話者ですので、トレーニングの説明や指示はすべて英語で行われます。日本語話者には、バイリンガルのプレイヤーが簡潔に通訳して、Simonさんの指導は行われていきます。


 このSimonさんは、実はマンチェスター・ユナイテッドユース出身で、あのDavid・Beckhamとともにプレーしていたそうです。身長もそれほど高くなく、スリムとは言えないボディであったので、最初は彼に疑問の目を向けてしまいました。しかし、その疑問もすぐに杞憂に終わります。彼の指導中に見せるボールタッチは只者ではない巧みさ。ちょっとしたパスやリフティングも技術の高さを感じました。


 さて、本題に戻りましょう。ご存知の通り彼はマンチェスター出身ということもあり、私のようなずっと日本で英語を学んできた日本人にとっては聞き取りにくいことも多々ありました。しかし、私はリスニングの訓練だと自らに言い聞かせ、可能な限りメモをするように努め、この記事を書くに至っています。それでは、とある日のトレーニングを時系列に見ていきましょう。


 まずはウォーミングアップです。彼の”Jog!”の声がかかるとプレイヤーは半径10mほどの円を作り、ジョグをはじめます。次に”Heels”の合図で左右の足のかかとを交互に触りながらジョグをします。10秒ほどで普通のジョグに戻りますが、”Knees”の合図で今度はもも上げをしながらジョグが始まります。さらに同じ要領でサイドステップも行われます。そして最後に“Change”の合図で5mほどダッシュが行われます。その際円は関係なくなります。余談ですが、最初の数回の練習では、この”Change”が、私にとっては“Cheense”というように聞こえ、バイリンガルのプレイヤーに「Simon何て言ってるの?」と尋ねざるを得ないほど、リスニング力はありませんでした。


 次に彼から”Any come!”=「みんな集まれ!」の声の後、25m×30mほどの長方形の中で4vs3プラス3フリーマンのトレーニングの説明が行われます。イングランドでは「フリーマン」という呼び名ではなく、“Magic man”という呼ばれ方が一般的です。ホワイトボードを用いながら、さらっと説明した後、プレイヤーにこう確認します。”Does it make sense?”この表現は彼の常套句です。単純に「わかったか?」という確認のための文となっています。そして実際にそのトレーニングが始まります。初めの5分ほどは、プレイヤーがルールを理解できていないと判断した場合にSimonから正しいルールでプレーしろという指示が飛びます。その後、指示は次第に具体的なものとなっていきます。”Win it”=「ボールを奪え(itはボールを表すことが多い)」、さらに”Shifted”=「切り替えろ」とプレイヤーへの守備から攻撃への移行の際の要求が続きます。さらに、ボールを奪われたプレイヤーに対しては、”Stop giving your ball away!”=「ボールを奪われるな!」と指示がとびます。また、ボールを保持したものの、慌ててしまいトラップミスやパスミスをしてしまったプレイヤーには”Don’t be panic!”=「パニックになるな」との指摘。当たり前のことかもしれませんが、それをしっかり指摘し続けることは、優れた指導者の条件の一つと思われます。


 15分ほどで一度全員を集め、ルールの変更が行われます。5本パスをつないだら、ゴールにシュートすることができ、入れば3点といった、プレイヤーにとって瞬時の判断を求める設定を設けます。さらに、このトレーニングをうまく進めるために何が重要かについて、次のような表現で彼は表現していました。”Less is important.”これは直訳すると、「少ないことが重要である」ですが、おそらくタッチ数を減らしてプレーすることがチームとして効果的に機能するということを伝えるために発したものでしょう。ルール変更後、さらに質の高いトレーニングが繰り広げられます。
そして、彼の練習の最後は必ずゲーム(試合)が行われます。私が驚いたのはこのゲームにおいて彼の指示は8割ほどがプレイヤーを褒めるものであったということです。当然、2割ほどは先ほどのような指摘や催促なのですが、”Good idea!”や”Great save!”、”Nice try!”といったポジティブな言葉が多くを占めます。彼は、ゲームではプレイヤーがゲームを楽しむことに重きを置いているのだと私は読み取りました。


 それでは、試合ではどうなのでしょうか。とある練習試合に帯同したときのことです。私が帯同した試合は6vs6(シックスビーシックス)というキーパーを含めて6人制の大会でした。ピッチのサイズはフットサルコートより少し大きいかなというくらいで、試合時間は1試合10分でした。予選リーグ5試合ほど行い、2位以上になれば決勝トーナメントに進めるというようなレギュレーションでした。


 実際の試合では、攻撃→守備の際や守備の際に自チームのプレイヤーに対して相手のマークを付かせる指示が多めでした。例えば”Pick up”, ”Get No.10”といった具合です。また、攻撃の際には、狭いピッチであることを意識して”Play quickly”, “Win it”, “Shifted”などと、シンプルな英語でプレイヤーの集中を途切れさせません。また、相手GKにプレスをかけにいったFWのプレイヤーに対しては、”Let him have it”=「彼にはボールを持たせろ」といった指示もとびます。また同じFWのプレイヤーが攻撃時にサイドに行ってしまったときには”I need you to stay central.”=「真ん中にいてくれ」という要求がありました。
試合と試合の合間には、”overload”=「数的優位」をつくって攻撃することや”transfer ball quickly”=「ボールを素早く送るように」とプレイヤーに催促していました。さらに、停滞気味の攻撃に対して、”As the ball is travelling, we need to move up”とプレイヤーに動き出しを求めます。


 残念ながら、この日はチームの調子も悪く、予選リーグでの敗退を余儀なくされました。その日の最後にチーム全員を集め、Simonはプレイヤーに質問します。”What do you think of today’s game?” 1人のプレイヤーが、パニックになってしまったと答えると、彼はうなずきながら次のように総括しました。”In small area, we need to pass and move. Our principle is to win it and shifted. This is massively important. And I wanna play quickly in throw-in and set-play.「小さなスペースでは、パス&ムーブが必要だ。私たちのプレー原則はボールを奪い、切り替えること。それらはとても需要だ。そして、スローインやセットプレーの局面ではよりはやくプレーしたい。」私は試合を見ていてなんとなく同じように感じてはいたものの、ここまで明確に言語化することができるSimonの俯瞰力に感銘を受けました。


 また、競り合いの局面で負けることが多かったため、”Do not polite in football. Have to compete.”=「フットボールでは謙虚になるな、競え」とも語っていました。私たち日本人の弱点ともいえるところをはっきりと突いてきます。
まだ書き足りないくらいですが、これ以上書くとTさんに長いと怒られそうなのでこのへんで。

 日本に帰国する前のラストの練習で思い切ってSimonにあなたにとってベストチームはどこなのかと質問をしました。てっきり、ユナイテッドユース出身の彼だから、サー・アレックス・ファーガソン時代のマンチェスターUだという答えを期待していたのですが、なんと答えは”City”の方でした。彼は、昔は異なるスタイルを好んでいたが、8年ほど前に考えを変えたそうです。彼ほどの経歴を持っていても、素直に哲学を変え、進化するフットボールに適応していく姿は指導者の鏡だと思いました。また、彼は”Football is simple”と何度も繰り返し、「メッシはたいていシンプルな正しい判断をしている、いつもではないけど。それで常に勝ち続けている。」というような主旨の言葉を語ってくれました。(英文ではすべて聞きとれなかったです、すいません。)イングランド人の指導者であっても、バルセロナやペップのフットボールを志向する姿に、日本の指導者はどう対抗していくべきなのかとふと思ってしまいました。


 そして、Simonによると、ユース時代Beckhamはサブであったこと、そしてPaul・Scholesが最も優れたプレイヤーであったことを教えてくれました。近年のイングランドのレジェンドとともにプレーしていたからこそ、見える世界もきっとあるのだろうと思います。そして同時に、彼の指導を受けることができるFootball Samurai AcademyのU-13選手のこれからの成長にも期待が高まります。

ご拝読ありがとうございました。

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