テニスボーイの憂鬱

人生はテニスの
シングルスゲームを同じで、
誰かが誰かを幸福にすることなどできない。
他人にしてやれることなど
何もない。
他人をわかるのも無理だ。
他人を支配できないし、
支配されることもない。
人生はシャンペンだけだと思う?
そう吉野愛子は聞いた。
そう。シャンペンだけだ、
そう答えればよかったとテニスボーイは思う。
シャンペンが
輝ける時間の象徴だとすれば、
シャンペン以外は死と同じだ。
キラキラと輝いていなければ、
その人は死人だ。
キラキラと輝くか、輝かないか、
その二つしかない。
そして、もし何か他人に対して
できることがあるとすれば
キラキラしている
自分を見せてやることだけだ。
その自信がない時、
一つの関係が終わってしまう。

村上龍『テニスボーイの憂鬱』


黙れ


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