見出し画像

夫婦で歩くシャンパニュー歴史散歩7-1-3/シャンパニュ古代都市トロアヘの旅

https://www.youtube.com/watch?v=if2C2DXbYdY

『Le Dropkick Bar Troyes』を出てシテ通りRue de la Citéを旧市街の方へ歩いた。
「あら、いくつもストランがあるのね」
「ん。大聖堂へ向かう道だからな、旧い門前町だよ。少し先にトロア運河があるらしい。行ってみよう」
シテ通りは、どちらかというと寂れた通りだ。門前町の華やかさはない。
10分ほど歩いて運河にぶつかった。
「トロア運河はセーヌ川にもっと右の奥の方で繋がっている。この辺にトロアの城壁が建ち並んでいたようだ。当初はアウグスボナ トリカシウムAugustobona Tricassiumと呼ばれていた。そのころの街境がこの辺だったようだ」
僕らは運河に沿って左へ曲がった。
「ローマ時代に出来た街なの?」
「いや、もっと古い。先史時代の遺跡が周辺で幾つも発見されている。セーヌ/マルス/モーゼル川のおかげで、このあたりは新石器後期には集落として出来上がっていたんだよ。ケルト人の墓や、ケルト人の遺物が市内で幾つも発見されているらしい。ローマはね、ローマ街道を建設するとき、こうした古い集落を上手く利用したんだ。課役の問題や資材の問題を解決するためさ。ここはアグリッパ街道Via Agrippaが通った」
「アグリッパ街道って、リヨンで見たものでしょ?」

「ん。リヨンを中心にガリア全体に広がった。紀元前20~30年ころに建造された。全長は12000kmあったという。トロアの古名アウグスボナ トリカシウムAugustobona Tricassiumは、アグリッパAgrippaを含んだ意味で作られたんだろう。トリカシウムTricassiumは、この土地の先住者がトリカセス族だったからだ。そのトリカセスから、いまの名前トロアTroyesになったんだ。おそらく人々はアウグスボナ トリカシウムなんて呼ばないで、もっと古い名前のトリカセTricasseで呼んでいたんだろうな」
「アグリッパ街道って12000kmもあったの?」
「ん。リヨンからランスまで、そしてリヨンからラングルまで。そしてリヨンからミラノまで繋がっていた。商人たちはこの道を歩いてイタリアや各地からトロアにやってきたんだよ。そして水路だな。それがこの町を育てたんだ」
「なるほどねぇ」
「ローマの庇護下でトロアは緩慢だったけど商業城塞都市として伸びたんだ。ところが・・西からフン族が攻めて来た」
「フン族?あなたがハンガリーやフィンランドの語源になったと言ってたフン族?」
「ん。中央アジア、コーカサス、東ヨーロッパに住んでいた遊牧民だ。アッティラという名君が登場して急速に躍進した。彼らの西征は、ローマ帝国の外縁部・属州を中心に広がってる」
「シャンパニュー地方も、フン族に襲われているの?」
「ん。もちろんあった。有名なのはカタルーニャ平原の戦い Battle Of The Catalaunian Plainsでね。西ローマ帝国最後の大規模軍事作戦だと言われている」
それで、ローマは勝ったの?負けたの?」
「とりあえずフン族の侵略からシャンパニューを守っということになっているが・・憶えているだろ?ゲルマン人傭兵隊長オドアケルによって西ローマ帝国が滅ぼされたのは476年だ。すでこの頃のローマ軍は衰退していた。
それよりも重要なのは、フン族が傭兵としてゲルマン人を大量にこの戦いに注ぎ込んだことなんだ。実際ローマ兵と戦ったのはゲルマン部族だったんだよ。ところがアッティラ王が53年に亡くなった。名君を失ったフン族は揺籃した。その死に乗じて、彼らが連れ込んだゲルマン人傭兵が造反を起したんだ。ネダオの戦いだ。454年だ。」
「飼い犬に手を嚙まれた・・ということ?」
「ん。アッティラ王の後を継いだ蒙昧な将軍たちに何ができるわけでもない。このゲルマンの造反に敗れたフン族は、手に入れた領地を投げ捨てて東方へ後退したんだが、今度は何を思ってか東ローマになだれ込み、東ローマと戦い始め、469年に決定的な敗北をおこして、さらに退却。フン族の西征は終わったんだよ。短命だった」
「そこからゲルマン部族たちの同族戦争が始まるのね」
「うん、ゲルマン部族の中でも圧倒的な武力と統率力を持っていたフランク族がね、首領がクローヴィスに替わって、彼の発想の柔軟さで、この地方を経済的精神的に支配していたキリスト教を取り込んでみせたからね」
「その中心にトロアがあったのね」
「ん。明日はそのど真ん中にあった旧市街を歩きに行くつもりだ」
運河に並んでステンドグラス博物館がある。ここに寄った。
Cité du Vitrail(Hôtel-Dieu-le-Comte, 31 Quai des Comtes de Champagne, 10000 Troyes)
https://cite-vitrail.fr/


無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました