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黒海の記憶#14/商いの道・黄金の羊の毛皮

アルゴナウタイArgonautaiが示すのは、黒海東海岸奥地に、山河から豊富な金を産出する地があるということである。
黄金の羊の毛皮を求めてアルゴ号で航海に出たイアーソーンは、リオニ川を遡りコルチス(現クタイシKutaisi)でそれを手に入れた。ギリシャ神話の多くは史実を孕んでいる。この冒険譚も、ベースとなるべき交易がギリシャ人とコルキス人の間で行われていたということの間接証明だと言えよう。・・それが僕らが(シュリーマンのように)ギリシャ神話に心ときめかす理由だろう。同地に、人々の魂の残滓を求めて旅する・・理由だろう。

ギリシャ人は、黒海の奥に神界があることを語る。僕らは、それが遥か東北に広がるコーカサスの草原に何度も何度も立ち上がった文明群であることを、今は知っている。そしてアルゴナウタイArgonautaiが語る「黄金の羊の毛皮」の地が、コルキス王国であることを知っている。コルキス王国は豊かな土地だった。

コルキス人は、木製の特殊な容器と羊の皮を使って砂金を川から採掘していた。ストラボンはこう書く。
「この国の山の川には、蛮族によって採掘された多くの金がある。この国の山の川には、穴のあいた容器と羊の皮を使って蛮族が採掘した多くの金がある」
プリニウスはこう書く。
「コルキス地方で、スオウの国の一区画の処女地を発見した。コルキスのスアニ族の国で未開の大地を発見し、そこから大量の金と銀を採掘した」
実は古代ローマの歴史家であるアレクサンドリアのアッピアヌスもその著で「多くの川が目に見えない砂金を運んでいる」と書いている。「多くの川がコーカサス山脈から目に見えない砂金を運び、住民は厚い羊の皮を泉に入れ厚い羊の皮を泉に入れ、沈殿した金を集める」と。・・アルゴ号の目的は、黄金の羊の毛皮を手に入れる事。つまりも羊の皮による砂金の採集技術を手に入れる事だったと断言できよう。

それが具体的にどのような技術だったかというと・・金の吸着力を利用した方法だ。
金は重い金属で水で晒された場合、はっきりと積層する。そしてゆっくりと堆積物の底に沈んでいく。この金を吸い取るために土砂の中に羊の皮を引く。金の他、土や、枝葉は羊の皮に金が付着したのち、洗浄すると夾雑物は洗い流されて金だけが残る。
乾かすと・・まさに「黄金の羊の毛皮」になるわけだ。
この手法は、コルキスが秘匿していた技術だった。
同地は「貴金属の豊富な国」とギリシャ人が形容するに相応しい黄金の鉱床を持つ。現在でも相当量が産出されている。

ローマの歴史家アピアン・アレキサンドリンが「アルゴナウタイArgonautai」について語るとき、彼の視野にあったのは・・じつは神話のような「黄金の羊の毛皮」ではなく、現実に存在する「砂金に覆われた羊の毛皮」だったのである。
実はこの羊の川に砂金を吸着する手法だが・・19世紀まで同地まで利用されていた。

無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました