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ベルジュラック05/サンテミリオン村歩き#50

https://www.youtube.com/watch?v=56Uf5jHXUFU

観光センターQuai Cyranoを出た後、川沿いのサルヴェット通りQuai Salvetteへ出ると、すぐ傍左側に公園が有った。現代作家の彫像があった。
「あら、なんか不思議な銅像ね」嫁さんが言った。
彫像の前にあるプレートを見た。
「ダニエル・ウルデという人の作品だそうだ」
「羽があるの?変な金色の仮面?神様??」
「ん。Désillusion Totaleという名前だ。完全なる幻滅?かな」
「へえ」嫁さんの興味はすぐに消えた。
「それより前のお店。小雨なのにテント出してカフェやってるのは、それだけ観光客が多いということなのにかしら?」
しかしテーブルに付いている客は誰もいなかった。僕らはそのまま川沿いの道を歩いた。少し先にアンシアン通りRue de l'Ancien Pontというのが左に有った。これを曲がった。
「どこへ行くか決まってるの?」嫁さんが言った。
「この先にタバコ博物館があるそうだ。そこへ寄りたい」

海岸通りから少し奥に入ると、すぐにMusée du Tabacと書かれた看板が有った。博物館は三階建ての古い建物だった。
「ここは1600年代に作られた邸宅だそうだ」
「ふたつの大きな大戦をベルジュラックは通り過ぎたが、爆撃はなかったんだな。旧い建物がそのまま残っている」
受付を済ませて中には入ると大きなホールだった。
「建物そのものも博物館に納められそうなところね」嫁さんが周囲を見回しながら言った。
内部は大きく改造されていた。入館すると目の前に大型のタバコ乾燥機とタバコの歴史を紹介するパネル・ディスプレイが並べてあった。ビデオが流れていた。
「タバコって新世界のものでしょ?」
「ん。アルゼンチン・ボリビアあたりに、ニコチアナ・タバカムの原型があると言われている。ナス科の低木だ。マヤ文明の遺産だ」
「ということは欧州にタバコがはいってきたのは、大航海時代以降なのね」
「ん。1493だな。この年からヨーロッパには様々な植物が新大陸から運ばれている。トマトもジャガイモも唐辛子もこの時からだ。最初は「噛む」ことで服用していた。コカもそうだ。コカの葉っぱを噛む。タバコの葉も同じように噛むんだ。あるいは葉を煮出して汁にしたり、煮詰めてペースト状にしてた」
「噛みタバコって今でもあるわよね」
「ん。鼻から吸い取る嗅ぎタバコというのもある。タバコを"吸う"のは、もっと北部・中央アメリカの地域なんだ。タバコを喫煙するという方法を知ったのは、バハマ諸島/カリブを"発見"した奴らだ。それなんで、タバコの話をする書籍の中にはコロンブスが発見したと書かれているものもある」
「コロンブスが発見したの?」
「彼の書いた日記の中にタバコの話がある。1942年10月15日にインディオが「彼握りこぶしほどの大きさの彼らのパンを少しと、水を入れた瓜殻と、赤土を粉にして練ったものと、乾いた葉っぱを持っていた」とある。この乾いた葉っぱがおそらくタバコだろう。この航海に同乗したラス=カサスは『インディアス史』という本を書いているが、この中で「この草は乾いた葉につつんであって、紙鉄砲のような形に作られており、その一端に火をつけ、反対の端を吸って、息と共にその煙を吸うと、肉体が眠ったようになり、ほとんど酔っぱらったようになる。それで疲れが治るのだという。この紙鉄砲を、彼らはタバコと呼んでいる」と書いている」
「なるほどね」
「しかしタバコの木をスペインへ運んだのが彼じゃないことは分かってるし、彼の残した文書の中にタバコについて書かれたものは以降ない。コロンブスは黄金に執着していたから、そんなもんには関心なかったんだろう」
目の前に様々な喫煙器具が飾られていた。
「TABACOというのはインディオたちの言葉だ。タバコを吸うための器具のことを指していたらしい」
「へえ~カンガルーと同じで。アレなんだ?わからない(カンガルー)がそのまま名前になっちゃったの?」
「ははは。きっとそうだ。
タバコをヨーロッパへ運んだのは、おそらく彼に続いて入ったポルトガル/スペインからの侵略者だちだろう。ポルトガルやスペインから侵入したコンキスタドール(征服者)たちだろうな。ニコチンは緊張緩和機能や覚醒効果が際立っている。初めて煙草に出会ったコンキスタドール(征服者)たちは狂喜したにちがいない」
「コカインも?」
「ん。コカもタバコともに同時期、先ずスペインに入っている。先ずはスペインの王室貴族の間で広がった。。少し遅れて、乾燥させたタバコの葉を燃やしてその煙を吸うという方法が知られるようになると・・喫煙ということな・・これが定着して一気に広がったんだ。タバコは吸煙するのが一番体内にニコチンが入り込みやすい。15~20秒で身体全体に伝わるといわれている。タバコは噛むものと吸うもので広がったんだ」
「なるほどねぇ」
「フランスに入ったのは1500年代半ばでね、フランス大使ジャン・ニコJean Nicotが病弱だった若き王フランソワ2世に頭痛薬として献上したことからだ。フランソワ2世の母カトリーヌ=ド=メディシス Catherine de Médicisがこれを常用したのが始まりだ。ジャン・ニコが献上したのは嗅ぎタバコだったそうだ。このフランス大使ジャン・ニコJean Nicotがニコチンnicotineという名前になった」
「あら、人の名前なの」


無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました