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金融封鎖と新円発行#03/俗説として、預金封鎖と新円はGHQの司令によって行われたという話がまかり通っているが、事実は違う。SCAPIN337が発令されるより前から、大蔵省は戦時負債と戦後処理によって膨れ上がった借金は、国民から一律財産を搾取し、それを持って埋めるつもりでいたのである

絶対に解けない「ゴルディアスの結び目」というものがある。
アレキサンダー大王はこれを解いている。彼は手にしていた剣を持ってこれを断ち切ったのだ。
戦後、最大の「ゴルディアスの結び目」を解いた男が渋沢敬三だ。彼は己がつぶれることを覚悟して、これを断ち切った。多くの人は「多少の犠牲はしかたない」と事もなげに云う。しかしそう放つ者が犠牲側に回ることは無い。渋沢敬三は、自分が犠牲側に回ることで「ゴルディアスの結び目」を断ち切ったのである。
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GHQからSCAPIN337が出されるひと月ほど前の1945年10月29日。大蔵省より「財政再建ニ関スル件」というレポートがだされている。ここには「インフレーションの抑制と経済の再建をはかるため財産税を創設するとともに、同税収上の技術的必要もあり新円の発行と預金の封鎖を実施する」という構想が示されている。
つまり俗説として、預金封鎖と新円はGHQの司令によって行われたという話がまかり通っているが、事実は違う。SCAPIN337が発令されるより前から、大蔵省は戦時負債と戦後処理によって膨れ上がった借金は、国民から一律財産を搾取し、それを持って埋めるつもりでいたのだ。

少し遡って経緯を追う。
この「財政再建ニ関スル件」という大蔵省レポートが出された翌日、10月30日に大蔵省主税局から「財産税創設案要綱」がだされた。これは国民の全財産に対し一回限りの課税を行うというものである。そして31日には「財産増価税創設案要綱」が出されている。これは戦争利得者に対し財産増価税を賦課するというものであった。
この二つの要綱は11月5日に閣議了解を受け「財政再建計画大綱要目」に盛り込まれている。実はこの中に、財産税および財産増価税の徴収に際しては「新様式の日本銀行券を発行し現銀行券と強制的に交換せしむる所存」であると書かれているのである。
つまりSCAPIN337が発令される10日も前に、預金封鎖は大蔵省で決定していた事案なのだ。

実は、30日に開かれた日銀内部局長支店長会議で、新木本行総裁は「通貨問題は頗る重大な問題で通貨整理のみでは到底解決出来ない。広く財政の問題と見合せて考へねばならない。財政問題は国民経済の上に立つてゐると共に物価問題とも結び付いてゐるから其等を綜合的に考へて行く必要がある。
外国の例でも単に通貨整理のみで効を奏したことはない、 財政問題は如何しても税制の整理が付き、予算の均衡が得られなければ解決は困難である。そこで凡ゆる努力を財政問題に向けることが必要である。御意見の中には預金の封鎖、切捨て等の話もあったがかかることは実行すべきでないと思ふ」と発言している。
日銀はモラトリアムを望んでいなかったのだ。

しかし大蔵省は現実路線としてモラトリアムだけが、かかる火急事態に即応できる唯一の方法であると認識していたようである。この大蔵省の認識を受けて、日銀もようやく重い腰を上げて11月2日付で「財産税実施二伴フ通貨ノ引換及預金ノ取扱ニ関スル件(案)」を作成し、同月9日、総務・発券・営業・国債・考査・調査の各部局長会議を開いている。

こうして時間軸を追って経緯を整理してみると判るのだが、じつはGHQがSCAPIN337を発令するより前に、財産税と預金封鎖は"決定事項"としてほぼ纏まっていたのである。つまりSCAPIN337は、まってました!という外圧だったわけである。

しかしここに日本側大蔵省の大きな誤算が有った。GHQの目的は「財閥の解体」であり、戦争益利得者からの簒奪であり、富の再分配である。ようするに日本が再軍備出来ないようにするのが目的だったのだ。まさかそのために、打ち合わせの席に座っている日本側要人が持っている資産がターゲットされているとは思っていなかったのである。
GHQ側が示した累進課税率は以下のものだった。
課税価格 税率
10万円超-11万円以下 25%
11万円超-12万円以下 30%
12万円超-13万円以下 35%
13万円超-15万円以下 40%
15万円超-17万円以下 45%
17万円超-20万円以下 50%
20万円超-30万円以下 55%
30万円超-50万円以下 60%
50万円超-100万円以下 65%
100万円超-150万円以下 70%
150万円超-300万円以下 75%
300万円超-500万円以下 80%
500万円超-1,500万円以下 85%
1,500万円超 90%
これではまさに自分たちが簒奪されてしまう対象者になってしまう。日本側の要人は慌てふためいた。

中核となる被課税者をどの収入層にするか?GHQと大蔵省の折衝はまさにこの一点に集中した。
大蔵省は最大税率を70%とし、最小化税率を上げ、緩やかなカーブに拘った。均一に資金を得ようとした。しかしGHQは高額取得者をターゲットにすべきであると固執した。
その鬩ぎ合いの末の2月5日の会合だったのだ。
渋沢敬三の決断に僕は鳥肌が立つ。男としてもっとも筋を通すべき道を選んだ男に心服し、敬愛する。

翻って、いまこの瞬間はどうだろうか?
ここ数年のうちに、過剰負債のために今の日銀BOJは破綻するだろう。新日本銀行へシフトするだろう。新円が発行されるだろう。
このグレートリセッションは多くの犠牲者を出す。そしてその旗を振る者の人間性によって、犠牲者が変わる。僕はそのときをこの目で見たいと切望している。

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無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました