見出し画像

夫婦で歩くシャンパニュー歴史散歩/1-7-3/シャンパンボトルの地を訪ねてアルゴンヌの森へ03

https://www.youtube.com/watch?v=akVOXKXOXgE

アルゴンヌの森の陶工たちについて史的な資料は殆どない。それでも工房がラヴォアとアヴォクールに有ったことは知られていた。とくにエール渓谷にあったラヴォワの工房は19世紀から知られていた。アヴォクールは1960年代になってからの発掘だった。
「アルゴンヌはラヴォワ、アヴォクール、レ・アリュー、ヴォー・ミュラール、クロワ・デ・プレシュールが工房の中心地だったんだ。何れも石灰岩の基質上の粘土と砂の浅い土壌な地帯でね。農作物には向いていない。地域特有のゲイズと呼ばれる細かい砂岩の土地を覆っている」
「農業には転用できない土地だったのね」
「ん。しかしゲイズは加工が比較的容易な砂岩だったんで、建築石材として採掘されている。それとゲイズはガラス製造の原料としても有用でね、これがこの地に沢山の工房が出来上がった理由なんだ」
「とても珍しい地域だったのね」
「ん。だからガロ・ロマンの時から、すでにアルゴンヌは砂岩、砂、粘土、薪が豊富にある鉱物資源/森林資源の地としてローマ人たちには知られていたんだよ。
とくにゲイズと粘土採取場所の中で、最も知られていたのは、ヘッセンの森のヘルモント・ゲイズ山塊を取り囲むゴー粘土台地だった。ヘッセンの森のラ・クロワ・デ・プレシュールで幾つもの工房跡が見つかっている」
「見て歩けるの?」
「ん。でも今回は工房跡には行かない」
「どうして?」
「残念ながら、痕跡があるだけで何も残ってないんだよ。アルゴンヌは第一次世界大戦のとき、ほとんどのモノが灰燼と化した。行っても見れるのは、ただの荒れ地だ。
・・この地だけで第一次世界大戦の時は若者たちが50,000人戦死したんだ。映画「西部戦線異常なし」の世界だ。それに被さって第二次世界大戦でもこの地は戦火に荒らされた。史跡も街も住民も何もかも全部燃えたんだ。だから昔を偲ぶには難しい場所でもある。・・それでもアルゴンヌがガラスと陶器の地であったことは間違いない」
「なるほどねぇ」
「いわゆる『アルゴネーズ』『シャンプノワーズ』と呼ばれるタイプのグラスが現れるのは18世紀に入ってからだ。基本的な技術を産み出したのは英国だった。彼らが木炭による精製ではなく石炭での精製を考え付いたからだ」
「木炭じゃなくて石炭?」
「ん。石炭にすることで燃焼温度が遥かに高いものが得られる。1634年ころだと言われている。高温度炉を使うことで分厚い黒色のガラスが作られるようになったんだ。これをアルゴンヌの森の職人たちが取り入れた。底が広くて、分厚い耐久性のあるボトルが作れるようになったんだ。
ドン・ペリニョンDom Pierre Pérignonは1638年12月に産まれている。。彼は17歳のとき、ヴェルダンの町近くにあるサン ヴァンヌ修道院に入っている。サンピエール・ドーヴィエ修道院に移ったのは1668年だ。亡くなったのは1715年 9月 14日。彼は生涯この修道院で過ごした」
「そのときに発砲ワインの開発をしたのね」
「ん。彼はサンピエール・ドーヴィエ修道院のワイン・セラーの責任者になった。ドン・ペリニョンはとても有能な人物だったからね、彼の管理下に入ったことで修道院が所有するブドウ畑の規模は2倍になったんだんだよ。そして、そのときに彼はドン・ティエリー ルイナールに出会ってる」
「ルイナールってシャンパンが有ったわよね。あの創設者?」
「創設者ではない。甥っ子だったニコラ・ルイナールが1729年に興したメゾンだ。ここも素晴らしいcaveを持っている。
Champagne Ruinart
4 Rue des Crayères, 51100 Reims,
https://www.ruinart.com/fr-FR/
ドン・ルイナールはドン・ペリニオンより11歳年上だった。学者として有名で各地を歩いていた。そして1696年、ロレーヌへの旅行の帰りにオーヴィエに立ち寄ったんだよ。そこでドン・ペリニヨンに運命的に出会ったんだ」
「高名な学者だったドン・ルイナールと地方の無名な僧侶ドン・ペリニオンの出会い・・ということ?」
「まさにその通りだ。実はドン・ルイナールも僚友ドン マビヨンと共に発砲ワインについては強い興味を持っていた。しかし「どう貯蔵するか?」という部分で課題は停滞していたんだ。サンピエール・ドーヴィエ修道院で出会ったドン・ペリニオンも「ワインを発砲させて飲む」という手法に魅了されていた。その無数に繰り返した実験の上で、彼はアルゴンヌの森の職人たちが作り上げた強力な分厚いボトルを使うようになっていたんだ。ドン・ルイナールは驚嘆し、二人の生涯にわたる親交がここから始まっている。
シャンパンの登場は、アルゴンヌの森の職人たちが作り上げたボトルなしではなかったんだよ」
「なるほどねぇ~だからあなたはこの地を訪ねたかったのねぇ」
「そうなんだ。もう既に形骸しか残っていないけどな」



無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました