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黒海の記憶#05/夜明け前#02

ヒトは進化の過程の中で、何回か大きな曲がり角を超えている。
つい最近の曲がり角は「汎用計算機」という機械の花嫁を得たことだ。この花嫁は、ヒトがこなせる仕事量を爆発的に拡大した。・・実はこの曲がり角はまだ越えていない。花嫁は、より極小になり総ての間に遍在し、ついには「不確定性の壁-カオスという名」の堅牢な壁も破壊するだろう。この花嫁を得たことで、ようやくヒトは「幼年期」を終えるのかもしれない。

その前にあった大きな曲がり角は「火を鉄の器の中に閉じ込めた」ことである。内燃機という。閉じこめられた火は、汎用的動力となって様々な機械を動かした。そのことで機械は大きくなり、より精密になった。史家はこれを産業革命と呼ぶが、僕は革命という枠を超えてしまう大激変だった考えている。内燃機関の確立によって、ヒト類はその人口を一桁増やしたのだ。ただ200年のうちに・・

そしてその前に有った大きな曲がり角は、まちがいなく灌漑技術の確立である。これによって農作は飛躍的な進化を遂げた。
この時もまた、植物から得られる栄養によって、ヒトの数は爆発的に増えたのである。
もちろん、植物と動物を飼い慣らしてから灌漑技術の確立に至るまでは、とても長い時間がかかった。しかし始まれば、その伝搬と拡散は早い。たくさんの人々が集まる「王国」が幾つも世界各地で誕生した。

さて。黒海である。
「産めよ増えよ」という神の言葉を背負って、北アフリカから北へ薄く広く危うげな旅に出たヒトらがコーカサス/アナトリアの地に至ったころ、ヒトの中に大きな群れのまま定住できるグループが生まれ始めていた。牧畜と栽培の技術が芽生え始めたのだ。前述したようにヒトは狩猟採集によって糧をえるのでは群れを大きくすることは出来ない。分化し拡散するしかない。しかし・・彼らの一部のグループが辿り着いたコーカサス/アナトリアの地は、緑豊かで土地も良く雨量が多い地だった。家畜を飼い麦類を育てるには最適の場所だった。そして家畜になりうる動物がいて、栽培出来うる穀物が自生していた。現代考古学はそう云う。多くの発見がそれを裏付けている。

ちなみに動物の家畜化は難しい。ヒトはさまざまな動物を家畜化しようとしたが、成功例は意外に少ない。ぜひ数えてみてもらいたい。じつはその成功例となる代表的な動物は、中東の地のものが多いである。
こうしたいくつかの出会いと僥倖によって、夜明けの日が差し始めたのは・・まさに、この地からだったのだ。

無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました