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葛西城東まぼろし散歩#32/葛西葛飾なつ時雨なつ時雨#02

「ところで葛飾の葛には異体字が三つある。真ん中の部分が「ヒ・人・メ」と三種ある。東京都葛飾区では「人」の「葛」を使用しているが、奈良県葛城市は「ヒ」の「かつ(パソコン用字体がない)」を採用している」


「異体字?なにそれ?」
「渡辺さんが居たり渡邉さんが居たり渡邊さんがいたりするだろ?アレが異体字だ。同じ意味で同じ発音で書き字が違う」
「あぁそう言えばあるわね。なぜ?」
「なぜ・・と言われると奥深い話になるなぁ。白川先生の話あたりから始めることになる。ようするに漢字って、もともと中国で色々な民族から同時派生的に生まれて。それが統合されて出来たものだろ? だから、当初から同じ意味で同じ発音をしても書き文字は違う・・というのがいっぱい有ったんだ。
これを、唐代に入って『干禄字書』で、楷書の字体を整理し、標準字形を定めたんだ。正・通・俗の3種類に分類しんだよ。著者は顔元孫という人でね。すでに科挙制度が始まっていたんで、その為の準拠として定めたものだった。『干禄字書』は初めて統合された字様書だった。」

「唐代ということは、遣唐使の頃ね?もう日本に漢字が入ってきてたのね」
「ん。入ってきてた。しかし日本に漢字を持ち込んだ人は、字様書に従って漢字を使ったわけではない」
「ところで・・なに?その字様書って??判らない言葉がいっぱい出てくるわ」
「唐が実行させた偉大な仕事の一つさ。中国全土でバラバラに発生した漢字を整理統合して、正字を定め、標準字体の筆画を示した書物だ。・・大きな目的のひとつは四書五経の五経のスタンダードをつくることでね、顔師古が五経の文字の校勘して「五経定本」と言うのを作り上げた。これをベースに『五経正義』が編纂されてる」
「その人も顔・・さん?」
「ん。こうした功績を背景に、漢字を正・通・俗にまとめて統合整理させたのが顔一族の成果さ」
「すごいわね」

「ん。しかし日本へ無数の民族と共に流れ込んできた漢字は、当初そんな洗練は受けていなかった。異性体も何もかも満タンで日本へ五月雨式に入り込んできたんだよ」
「なるほどねぇ。まず日本語の話し言葉をどうやって漢字として表すかの方が大事だったわけねぇ」
「干禄字書が日本に入ってきた時期は正確には判らない。石刻から書籍化されたのが宝祐55年(1257)だから、鎌倉時代に入ってからだろうな。」
「じゃあ、平安時代には漢字辞典はなかったの?」
「いや。あったよ。『篆隷万象名義』『新撰字鏡』『類聚名義抄』なんかがそれだ。『篆隷万象名義』は空海が作った漢字辞典だ。9世紀前半にまとめられている。『新撰字鏡』は僧侶だった昌住が作ったものでね、発音・意味を万葉仮名で和訓を加えたりしてる。『類聚名義抄』は部首引きの漢和辞典でね、こちらも発音・意味を万葉仮名で添えている。万葉仮名そのものが統合整理されてきた時代だったからな。しかし『篆隷万象名義』『新撰字鏡』『類聚名義抄』とも、それほど大量の漢字の整合をしているわけじゃない。異体字は相変わらずボロボロと残ったわけだ。
特に葛みたいな古い言葉にはな。そのうえ官吏や宗教に関係ない言葉にはな、そのまま残ったんだと思うよ」

無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました