見出し画像

ボルドーれきし ものがたり/3-8 "借金王カエサル"

カエサルのガリア北征の背景である「カエサルと彼を囲む人々の野心」について語るには、やはりどうしてもカエサルの出自に触れなければならない。

生誕はB.C.100年7月13日。名門だが没落した貴族(パトリキ系の傍系)である。決して豊かではなかった。84年に民衆派のキンナの娘コルネリアと結婚したため、閥族派のスラに嫌われ、彼が没するまで属州アジアおよびキリキアで従軍している。スラ死後ローマへ戻り、民衆派として政治の世界へ躍り出たが、政治の世界はいつの世も金がかかる。カエサルには才能と行動力は有ったが貧しかった。それ故、その成り上がりの行程で膨大な借金を作っていくことになった。

彼の「ガリア戦記」を読むとき、その陰に見え隠れするガリア人からの集金(略奪)行為は、この膨大な借金の返済と政治活動のための資金作りだったのだ。如何に彼が言葉を弄そうと言えど、彼が属州の総統になりたがったのは、そこが一番儲かるからだ。そしてもっともっと儲けるために・・借金を返し尚且つ皇帝への階梯を昇りつめるために、彼はローヌ川を遡ったのである。

当時、ガリア人の"ローマ化"は著しく進んでいた。特に飲酒の習慣が大きくガリアを蝕んでいた。ワインが大量にローマから交易品として売り捌かれていたのだ。この交易はガリア側にも豪商を幾人も生み出していた。もともとガリア人同士の間には、それほど巨大な経済行為が発生する要素は無かった。原則的にガリア人は半農半牧で、経済圏は各部族単位で独立しており、かなり自給自足だったのだ。

その経済構造をローマから持ち込まれた「ワイン」が壊した。

ガリアの地では当初ワインが作れなかった。買うしかない。一方通行の商行為である。ワインを買うための富が大量にローマへ流れた。ワインを買うためにガリアは採掘し、採掘された錫などの鉱物はガリア人の間を通り、最終的にローマの手へ渡った。そしてそのルートを逆流してワインが流れた。

当然、ガリア人の中にも"専業商人"が台頭し、彼らは部族の指導者その軍族並みに金持ちになっていった。この専業商人の多くが、実はガリア・ロマーナ(ローマ人とガリア人の混血)で、彼らは特有の「ガロロマン」と後代呼ばれる文化を生み出した人々である。ガリアのローマ化は彼らから始まり、次第にガリア人を浸食していったのである。

豊かになれば野望を抱く者が現れる。ガリア統一を夢見た男がいた。ヘルベティア人オルゲトリクスである。

オルゲトリクス自身は志半ばで亡くなってしまうが、その夢に憑き動かされた連中がローマへ向かって南進を始めると、それを未曾有の好機としてカエサルはガリア北征を遂行した。B.C.58年である。この戦いでカエサルはヘルベティア人の非戦闘者婦女子を含む23万人を殺し、残りのガリア人を片っ端に奴隷にして売り捌き、巨大な富を得た。

さらにゲルマン人のアリオウィストゥスを破り、翌前57年にはガリア北部のベルガエ人を抑え、さらに前56年にはブルターニュ、ノルマンディからアクィタニアに兵を進め、ウェネティ人も下した。

この3年間の戦果は膨大だった。積み上げていた借金を支払った上に、充分な蓄財が出来るほどだった。

カエサルは散財しない男である。彼が興味あるのは政治と権力と女だけだった。着飾ることなく粗食を好み(戦場ではいつも食事は立ったままだったという)無駄な浪費をしない男だった。しかし女癖は悪く、他人の女房だろうが関係なく片っ端に横恋慕したという。

翌年55年には、ガリア人を守ると云う「建前」を投げ捨てて、ライン川を越えゲルマン人の地へ侵攻。裏から操作しているという云いがかりをつけてブリテン島にも遠征している。この侵攻は、カエサルに思いのほか巨大な富をもたらした。なので翌年54年再度ブリテン島へ攻め込んでいる。 この年、ガリア諸族は存続を懸けて蜂起し徒党を組んでローマと戦った。しかしこの戦いがカエサルの勝利で終わったことで、ガリア/ローマの関係が決定したと云えよう。継いでカエサルは徹底的に抵抗勢力を殲滅する目的で翌年53年に北ガリアの諸部族(とくにトレウェリ人、エブロネス人)を征圧した。

52年。断末魔のようにウェルキンゲトリクスVercingetorixに率いられたガリアの最後の大蜂起が起きる。

戦いは、アウァリクム、ゲルゴウィアで行われ、最後のアレシアにおけるカエサルの包囲戦でローマ側の勝利で終わる。これがガリアの最後の抵抗になった。以降は小競り合い程度のもの落ち着いた。 ガリア(欧州)は、ローマの軍事政権の許に収まったのである。

この戦いで得た富と人気を背景に、カエサルは拠点である属州からローマへ進む。ルビコン川を渡るのだ。 49年1月7日の元老院保守派の最終決議を覆すための反乱である。

無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました