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熊野結縁#04/岩橋千塚古墳

僕が和歌山市に入ったのは、リゾート博が始まる前の年だから1993年だったと思う。訪ねたのは土砂採掘現場だった下津町である。一週間ほど滞在した記憶がある。仕事は・・結局成立しなかった。客先予定だった松下はあまりにも日本的な企業体質でウチとはすり合わせが如何ともし難かったからだ。間を取り持ってくれた大倉商事も、最後は匙を投げた案件になった。
でも僕自身は、わりとエンジョイした。
紀の国を訪ねるのは10年ぶりだった。以前訪ねたのは熊楠の生家と熊楠の軌跡を追うために日高川町を訪れた時だ。
まだ阪和自動車道はなかったし「特急くろしお」もなかった。その時の足は、買ったばかりのBMW-R100Rsだった。同行した友人・拓はKawasakiに乗っていた。実は、そのときはそのまま古座まで降りて、古座川に沿って走った。その話を大倉商事の現場担当に言うと、彼が驚いていた。
「林道というわけじゃないけど、当時は未舗装な部分が多かったでしょ?」
「ん。でも、赤城山や丹沢も平気でロード車で走り回ってましたからね。なんともなかったです」というと、なんとも困った顔をして笑っていた。理解できない・・ということなんだろうな。でもさ、ドイツじゃ未舗装の田舎道をガンガンBMWは走ってる。べつにそのことに奇異はないんだけどね。

すり合わせ効かない仕事の合間に、彼の案内で歩いたのは岩橋千塚古墳だった。
これもまた、そんなところへ行きたがる僕に、大倉商事の人間はあきれていたが・・
でも千塚古墳群というの日本でね最大規模の群集墳なんですよ。ここまで来て、それを見逃す手はない・・
吉田町にある「ちひろ」へ連れ行かれた時「どこかご案内しますか?」と言われて、僕が即座に「岩橋千塚古墳へ行きたいです」と言い出したので、彼は急いで調べたらしい。翌日顔を合わせた時に「すごい広大なんですね」と言った。
https://www.amazon.co.jp/%E7.../dp/4787718363/ref=sr_1_1...
「花山/大谷山/大日山/岩橋前山/和佐/井辺/井辺前山/寺内の八支群です」とスラスラと言ったら、目を丸くしていた。
その古墳総数は700基にちかい。一日ですべてを見て回るのは不可能だ。
岩橋千塚古墳は、紀伊国造紀直一族とその家臣達が葬られていたらしい。和歌山市立博物館に出土品は展示されている。大倉商事が用意してくれるという和歌山市内のホテルを博物館の傍にしてもらった理由がようやくわかったようだ。

「マイクさんは歴史マニアなんですね」と言われてしまった。
マニアねぇ~なるほど、マニアねぇ。
それでも彼に案内されたときは、問わず語りに紀氏の話をしたのだが、北京で共産党の人間に紫禁城を案内してもらった時より興味はもってもらえなかった。帰りにうまいラーメン屋があるという話を、しきりに繰り返してた。

紀氏は旧い渡来人一族だ。古すぎで出自がよくわからない。令制施行によって「国造制」はなくなっていくが、それまでは紀伊国を"国造"の長として支配していた一族である。洲羽国造/尾張国造/宇佐国造/阿蘇国造などと肩を並べる旧い家系だ。宮地区には紀国造家が祀る日前神宮・國懸神宮がある。紀氏は、代々日前/国懸神社の神主と名草郡領を世襲している。
「国造本紀(こくぞうほんぎ)」を見ると、神皇産霊尊5世孫天道根命)に始まる神別氏とある。

岩橋千塚古墳では、出土品として無数の朝鮮半島製の土器/武器/金銀銅をふんだんに使った装飾品が見つかっている(博物館で見られるよ)ので、彼らが日本海の向こうと深い関係を長い間維持していたことは間違いない。これら古墳が作り始められたのはAC500年ころからだ。まだタカマガハラ王朝は完全に機能し始めていないころである。それでも「日本書紀」には小弓/その子大磐/男麻呂らが朝鮮半島を跋扈したとあるからタカマガハラ王朝時代になっても半島側とは強いパイプを持っていたようだ。
「古事記」には葛城・平群・蘇我・巨勢と同族とあるから渡来人である品部が持っていた華人の先進技術を背景に持つ一族だったことは間違いない。

律令後、中央の管理下に収めるため、紀の川北岸沿いに官道・南海道が整備された。この道沿いに紀の川市東国分の河岸段丘上に紀伊国分寺が建立された。霊的な支配を地神から中央からの出前で切り替え、タカマガハラ王朝の管理下に納めたのである。同時に、日高川に道成寺(日高川町・御坊市/国建造物・国史跡道成寺境内)が建立され、田辺市三栖にも寺院が造営された(国史跡中飯降遺跡竪穴住居三栖廃寺塔跡)。

こうした背景の上に空海が登場する。空海が帰唐して嵯峨天皇から高野山の地を賜ったのは弘仁7年(816)である。空海は私費で遣唐使に参加し、長安で買えるだけのものを買い込んで翌年、これもふんだんな資金を注ぎ込んで帰国している。そのことは別項で書こう。

無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました