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ベルジュラック11/サンテミリオン村歩き#52

La Tour des Vents(D933, Lieu dit, 24240 Monbazillac)のランチ食後、ガルソンにお願いしてフロマージュとシャトー・モンバジャクの白をお願いした。
「あら、珍しいわね。デザートワイン?いつも蛇足だとか、馬から落馬したようなもンだという癖に」
「そんなこたない。モンバジャック城をフランス革命から守ってくれたバカラン家に感謝して献杯しよう」
「パネルに有った人ね」
「ん。1777年にフランソワ・イレール・ド・バカランFrançois Hilaire de Bacalanがあそこを買った。彼は子爵だった。モンバジャックの市長にもなった。フランス革命勃発の時、彼はパリにいたが急遽ベルジュラックへ戻り、町と城を革命の狂乱から守ったんだ。おかげでモンバジャック城は無傷のまま現存している」
「あの城は革命のときに売却されなかったの?」
「ん。バカラン家のものだった。彼は市長は退任したがな。城はそのままバカラン家のものだった。20世紀に入って・・1929年までね。ところで・・1929年って何があったろ?」
「なにがあったの?」
「世界恐慌だ。1929年9月4日にNYから始まった。ようやく世界がネットワークとしてつながり始めた時だったからな。ブラックフライデーは世界へ波及したんだよ」
「あ・そうね。わかってるけど、パッとつながった事件に結びつかないわね」
「フランスは、1930年12月に最大大手だった植民地向け銀行SFFC(Société financière française et coloniale )が倒れた。これが始まりだ。そして翌年5月11日にオーストリアのクレジットアンシュタルトがデフォルトした。
ここはロスチャイルド男爵が起こした銀行で不沈艦のはずだったんだけどね、彼は連鎖が自分の致命傷にならないようにするために此処の破綻を即断したんだよ。そのため煽りを食らって数日後、ドイツのダルムシュテッター・ウント・ナティオナールが倒れた。ここはドイツで二番目に大きい銀行だった。そして7月13日にダナート銀行が倒れて、ドイツ政府は国内銀行をすべてバンクホリデーにしたんだ。たちまち世界に波及して多くの資産家が破産した」
「・・ああ、なるほどね。バカラン家は、フランス革命は逃れられたけど、大恐慌は逃れられなかったのね」
「ん。生産力を持たない資産だけの金持ちは、この1929大恐慌でその金融財産を、たたの紙くずにしちまったんだ。
このとき本当の意味で貴族は破滅したといえるだろうな。
働かない金持ちはすべて、この恐慌によって引きずり倒された」
「すごい話ね」
「たしかに。そんな悲劇は古今東西なかった。実はね・・このデフォルト劇は、とても大きな国家救済法を支配者たちに刷り込んだんだ」
「なにそれ?」
「資産はゼロサムだからな。国家的な経営破綻のときは、躊躇なく生産していない金持ちたちを潰せばいい・・というやり方な」
「なにそれ?」
「第二次世界大戦で膨大な負債を受けた日本国は、この方法でゼロサムした。戦後すぐに行われた渋沢敬三の金融封鎖だ。日本はこの時に華族の資産を簒奪したんだよ。GHQの財閥解体命令に乗じてね」
「ふうん。そうなんだ」
「いま日本国は当時と同じくらいの負債を背負っている。おそらく日本の支配者たちが考えるのは同じ仕掛けだろうな」
「どういうこと?」
「日本の個人資産の大半は、65歳以上の人々が持っている。次のゼロサムの狙いは、そこだ・・ということ」
「ん~なんかよくわからないわ」
胡乱な話をしているうちにフロマージュとワインが出た。
目の前に出されたのは、小振りなグラスに収められたCHATEAU MONBAZILLAC1968だった。嫁さんが口にした。
「ん~上品なワインね。あなたには合わないわね」
出てきたフロマージュをモリモリと食べる僕を見ながら嫁さんが言った。
https://www.wine-searcher.com/find/cave+de+chateaumonbazillac+monbazillac+south+west+france/1968/japan
「セパージュはセミヨンとソーヴィニヨン・ブランそしてミュスカデールSemillon, Sauvignon blanc, Muscadelleだ。ミュスカの使用で際立った個性が出てるな。
モンバジャックの白は、バカラン子爵が此処の領主になる前から作られていた。売り先はオランダ商人だ。大恐慌後、モンバジャック城とワイナリーは転々と持ち主を替えた。いまはペリゴール歴史考古学協会の会長を長年務めていたジャン・シークレットの管理下に入っている。博物館にしたのは彼の功績だよ」
「あ。それで彼の名前が幾つも資料の中に出てたのね」
「ワイナリーは、カーヴ協同組合ドモンバジャックの管理下に入ってる。日本でも買えるよ」

無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました