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猫田による猫田のための、『BEASTARS』。

『BEASTARS』。

BEASTARSとは、
肉食動物と草食動物が共存する世界で、
ハイイロオオカミのレゴシと彼を取り巻く者たちが織り成す
動物版青春ヒューマンドラマ。
を描いた板垣巴留氏による漫画作品です。

※BEASTARSのネタバレを含んでいる可能性があります※
※しかしできる限り配慮はしていく次第です※

動物版青春ヒューマンドラマ。
ってなんだ?
思いませんでしたか?
私は思いました。

しかし、
動物版青春ヒューマンドラマと言わざるを得ない。

話の舞台は動物たちによる社会。
さまざまな種の動物たちが共存し、
あるものは会社で働き、
あるものは学校で通いながら、
現代の人間社会のように生活を形作っています。

わたしたちが生活している現代社会は
およそホモサピエンスのみで構成されているかと思います。

少なくとも日本に限って言えば、
大きな戦争を知らない世代。
人類史の中で見れば平和な社会を生きているかもしれません。

しかしそんな社会と言えど、
国籍人種宗教思想政治性別諸々の要因によって、
事件やら論争やら差別やら…
今もまた絶えることはないでしょう。

それに対して、
多種多様な動物たちによって構成された社会。
それぞれの抱える事情も、人間社会同様に複雑になっていきます。
肉食と草食。混血と純血。種として抱える本能。
それらに苦悩し抗いそして受け入れながら、
生活を形作っているのです。

そんな動物たちの共存する社会の
中高一貫全寮制のチェリートン学園。
そこに通うハイイロオオカミのレゴシ。

彼もまた、動物社会において苦悩する若者の一人。
オオカミとしての本能、出生に関わる因縁、個人としての性格、恋愛。
周りの動物たちと自分自身に翻弄されながら、
彼が選択し続ける人生、いや獣生を追いかける。
そんな物語になっています。

くれぐれも、
学園漫画でも、推理漫画でも、バトル漫画でも、恋愛漫画でもない。
レゴシくんとその周りの動物たちの獣生を追う漫画なんですよ。

そのため、
彼の獣生に関わったすべての出来事が、
彼の主観によってどんどんどんどん進行していきます。

『BEASTARS』は現在18巻まで発売されています。
1巻から18巻まで、彼の人生はおよそ1年6ヶ月進んだわけです。
(まだ1年半しか経ってない…?)

レゴシくん本人は飄々としてますけども、
通常高校生が経験してこないであろうことを、
おそらく4倍濃縮ぐらいで彼は乗り越えていますね。

最初の食殺事件(1巻1話)なんてもう遠く彼方です。
読者でさえも「そういえばそんなことあったね」ってなります。

見返してみたらわかるんですけど、
あんな事(3巻24話)にも
そんな事(5巻41話)にも
とんでもない事(7巻60話)にもなってるんですよ。
今となっては「そんな事あったわ…」ってなります。

今も変わらず彼の獣生は波乱万丈に満ちており、
その結果一つ一つの重大さが気にならなくなってきます。もはや。

レゴシくん、結構重大なことをさらっと言ってしまうことあるので、
そういう部分をストーリー自体にもどことなく感じるんですかね。

ストーリー展開そのものも、彼の獣生を表しているかのごとく。
レゴシくんが歳をとって、
自分の孫に経験を語っているかのように、です。

もし本当にそんな風に本人に語られたら、
5分に1回は「ちょっと今の詳しく…」って聞き直してると思う。

事件は事件でざっくばらんに起きるし。
彼はその内面も経験ごとに迷い考えては、
どんどんと変化させていきます。

それはもう。ほんとに。

あの時(11巻96,97話)は正直「嘘だろ…」って思いました。
レゴシ、あんなにあんなだったのに…
最終的にそうなの…?
って思いました。

しかしそれもレゴシが歩み続けている獣生の一部なんですよね。
個々獣の考え方も一刻一刻移り変わるのが世の理です。
見返したらそんな気がしてきました。

どんどん変わっていくレゴシ。
その中でも変わらないレゴシ。
彼の変化に一喜一憂しながらそれを受け入れて見守っていくのが
読者、というか若者を見守る我々の在り方なのではないか。

1年半で良くも悪くも多種多様な経験を積んだレゴシ。
彼の18巻でのあか抜け方は尋常ではないです。

レゴシくんの今後の変化と動物社会の今後に、
これからも目が離せません。

レゴシ、内面が変化していくのはもちろんなのですが、
外見もとんでもなく変化してしまうんですよね。
本人が進んでやったわけでもなしに。
ほんとに大変だな彼は。

主人公の外見が変化する漫画でいうと、
『宝石の国』(市川春子さん)とかもそうですね。
フォスフォフィライト氏…。についてはまた機会があれば。

レゴシの他にもさまざまな動物たちが登場します。
各々が本能にも性格にも事件にも他獣にも翻弄され、
彼らもまた悩み考えて、
自分たちの道を進んでいきます。

それぞれが魅力的というか、
各々の価値観と考え方と性格と本能とがなんとなく透けて見えるような、
そんな個性を全員から感じ取れる。気がする。

アカシカのルイも、
ドワーフウサギのハルも、
ベンガルトラのビルも、
なんだか身近にいるような気がしてくる。
レゴシだけでなく、彼を取り巻く動物たちにも愛着が湧きます。

個人的には、ハイイロオオカミのジュノちゃんが好きです。
強い女の子であろうとするその姿が素敵。

『BEASTARS』は2019年10月にアニメにもなっています。
オープニング映像がハチャメチャにかっこいいので一度ご覧あれ。

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