『ベル・フックスの「フェミニズム理論」-周辺から中心へ-』 第1章「黒人女性」
ウーマン・リブから現代フェミニズム黎明期、中心となったのは中産階級から上流社会の白人既婚女性で、そこには非白人女性や、経済的に恵まれない白人女性の存在、受ける苦悩、偏見が語られることはなかった。
女性たちは性差別主義により抑圧されている。そうした抑圧に対して声を上げることは当然で、必要なことである。しかし、「全ての女性共通の抑圧」という概念は、丁寧に、彼女たちの階級差別的、人種差別的視点を覆い隠す働きをしてきた。
そうした階級的、人種差別的社会に対しても声を上げるフェミニストも登場したが、いつしか脇によけられ、労働における平等を訴え、金や地位や名声を手に入れる女性が増えるにつれ、自分勝手な日和見主義が横行し、集団闘争の土台は崩された。
家父長制社会、資本主義、階級差別、人種差別に反対する気のない女性たちが、みずからを「フェミニスト」と称するようになった。特権階級の女性たちは自分達と同じ階級の男性との社会的平等を望んだが、それは容易に、資本主義的な家父長制に取り込まれることになった。
もちろん、そうした矛盾に気が付くフェミニストもいた。しかし、確立されたフェミニズムの概念に対する批判や代替の考えが歓迎されることは困難であった。運動から排斥された女性の集団は、批判を通じて、排除された要因に気づき、自らの居場所を見つけ出すこともできた。
黒人女性は、フェミニズム思想を特定の集団が主導権を握るような支配に対して、理論は過程であり、理論を批判し、検討し、新しい可能性を追求することが必要だと、主張し、抵抗する。著者は、自身が初めての黒人女性として女性学の講座に参入した時の、あくまで部外者としての歓迎に言及している。
フェミニズムにおいても人種差別の問題に焦点が絞られるようになってきているが、白人フェミニストの態度が大きく変わることはない。人種に関する言語表現において、黒人女性はあくまで「客体」として扱われる。
特権階級フェミニストたちは、性、人種、階級における抑圧の相互作用を十分に理解し、真剣に受け止めることができていない。黒人男性は女性に対して抑圧的に振る舞え、白人女性は非白人女性に対して、抑圧的に振る舞える。黒人女性のみ、抑圧者として振る舞える「他者」が存在しない。
黒人女性は、差別し、搾取し、抑圧してもよいとされる、社会制度上のいかなる「他者」も持たない。社会構造やそれに付随するイデオロギーに、直接立ち向かった体験をもつものも多い。だからこそ、黒人女性は、フェミニズム 理論を形作る上で、中心的役割を果たすことができると考えられる。
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