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ネグロス島へ 慰霊の旅...⑧

4月13日 パタッグ村


宿に戻り、暫くするとオーナーの妹のMARNIが来てくれた。お姉さんとは少し雰囲気が違い、小柄でふくよかな感じだ。笑顔がとても素敵だ。夫と10歳になるポメラニアンを紹介してくれた。「私達、子どもはいないんだけど、この子が娘なのよ。」と。

娘のキャリー

我々の荷物を積み込み、CHELLに「さよなら」を言って、MARNIの夫の運転する車に乗ってパタッグ村へ向かう。道中、たくさんの興味深い話をMARNIから聞けた。

彼女の親から聞いた話だと思うが、戦時中シライ市は日本軍に占拠され、現地の人は皆、畑に逃げた事。ただ日本軍は街を破壊せず、使っていただけだったので、戦後も昔のままの状態が残されたという。
他にも日本兵が上官に白亜の教会を爆撃せよとの命令で、飛び立ったものの、あまりの美しさに爆弾は落とせず引き返したこと。そしてその飛行機乗りは戦後にシライ市のあの白亜の教会を再び訪れ、現地の人と交流した事。

アメリカ軍がパタッグ村のMARNIのキャンプ場に爆弾を落とし、池が出来てしまった事。「その池は、まだあるから見られるわよ。」と言っていた。

のどかなサトウキビ畑を走りながら、当時に思いを馳せた。MARNIは私が日本人だから日本軍の悪いことは言わなかったが、きっと悲惨な出来事も起きていたと思う。サトウキビ畑のはるか向こうに大きくそびえたつ山脈が見えてきた。あの山を隔てて、東ネグロス州と西ネグロス州に分かれている。

大叔父が亡くなったのはあの山の向こう。。。

新しく出来た道路らしく、軽快に車は走る。林が現れ、空気も少しづつ涼しくなってきた。MARNIの夫が「ココナツジュースは飲んだ事ある?」と聞くので、「ないです。」と言うと、レストランのような場所で止めて、5~6個のココナツが付いた枝を買ってくれた。

パタッグ村へ着く。MARUNI夫妻はパタッグ村のレストランでランチを食べるそうで、私達も誘ってくれた。HILL‘S CAFEというレストラン。名前にふさわしく丘の上にあり、そこからシライ市が見渡せた。

レストランからの眺め

食事後に日本神社近くの宿泊施設で降ろしてくれ、ここで一旦MARNIたちと別れる。
宿の従業員の女性2人が案内してくれるそうだ。彼女が飼っている犬も一緒に。

日本神社

なんだか、バタバタしてしまったが、旅のメインイベントの日本神社はもうすぐそこ。
気持ちを落ち着かせ、靖国神社で買ったお香、白菊のアレンジメント、大叔父の写真を持って林の中の1本道を歩く。 

日本神社へ行く道すがら、79年前にこの島で起こった事を想像した。
湿度の高い熱帯雨林、重たい装備に泥だらけの軍服、空腹、飢え、渇き、木の陰に潜む敵軍への恐怖、いつまでも続く行進、蚊の大群、、、

79年前に確かにここを彼らが通ったんだ、、、遠い昔に思いを馳せると風に揺れる木々のざわめきも決して心地よいとは言えず、敵兵に狙われているような気味の悪さを感じる。故郷を思い、家族を恋い慕い、こんな遠くの異国の地で誰からも顧みられず寂しく散った命たち、、、
そのうちの一人が今、私の胸に抱かれている大叔父だった。私の半分も生きていない、子孫も残していない、やりたいことがたくさんあっただろうに。

日本神社までの道

数分歩くと、赤い鳥居が見えてきた。やっと着いた、良かった。 鳥居は日本から持ってきたのであろう、朱色も、形も日本で見る鳥居そのものだった。一応、私たちなりの供養を時間を掛けてしたかったので、ガイドの2人にお礼を言って「もう大丈夫だから、ありがとう。」と言ったが、ここで待つと言う。チップを渡そうとするも、断られてしまう。

それならば仕方ないと、鳥居の前でお辞儀をし、中に一歩足を踏み入れる。
ガイドの2人が、説明をしてくれる。 
コロナ前は慰霊団が毎年訪れていて、その頃は花壇や池などもあったが、今は誰も来ないので、なくなったと。
それでも中に入ると、整備された道に草木が植わっていて、石灯籠などもいくつかあり、ヤシの葉で覆われた東屋もあった。

辿り着いた「日本神社」

碑には「この日本神社は第二次世界大戦で世界平和の為に亡くなった全ての日本兵、フィリピン人、アメリカ兵を忘れないように作られたものです」と書かれていた。 

大叔父の名前を呼び、長い間、参らなかった非礼を詫び、一緒に日本へ帰りましょうと呼びかけた。写真を立て、お香を焚き、白菊をお供えし、あらかじめ録音しておいた、私のおじさんが唱えた般若心経も流す。目をつぶると日本の神社に居るような気分になってきた。大叔父の魂は呼び起されただろうか、、

大叔父の遺影と白菊の花

もっと長く居たかったけれど、鳥居の外で待つガイド2人がこっちを見ているので、腰を上げた。案の定、「なんでそんなに長い間いるの?」と不思議な顔をされた。犬も待っていてくれた。

来た時とは違う道を通り、山道から道路にたどり着く。私達だけでは迷っていたかも知れなかった。最後にお礼とチップを渡そうとするも、またも断られてしまった。本当にただの親切心からだけだったんだ。

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