[連載:VUCA時代の教育デザイン11] 私が教える日本語クラス(2): CLILについて

前回に引き続き、私の中級レベルの日本語の授業で採用しているCLILという言語の教育手法について、他の類似した手法と比較しながらより詳しく書いていきたいと思います。私は現在日本語を教えているのですが、元々専門は第二言語としての英語教育(TESL)で、さらに現在勤めている大学で英語のみ留学生が学位を取るプログラムのコーディネーターをしているという背景を持っています。 

CLILは前回の投稿でも紹介したように、ヨーロッパ発祥の言語と科目(内容)を同時に教える言語教育の手法です。実は、同じように内容を外国語で教えるメソッドはいくつか存在します。CLIL以外に有名なところでは、EMI(English-Medium Instruction/英語を媒介とする授業)やCBI(Content Based Instruction)があります。ただこの3つは実際のところ似て非なるものなのです。大きな相違点は、教える上で内容と外国語のそれぞれにどれくらい重点を置くか、あと誰が指導するかという2つの点だと言われています。 

EMIとCLILの違い 

EMIがCLILやCBIと趣旨が異なります。EMIは外国語教育ではなく科目教育を目的にした教育活動で、教える教員も言語教育の専門家ではありません。英語圏以外の教育機関で英語を第一言語にしない学生を対象に行う教育がEMIです。

私がコーディネーターをしている学士課程国際コースでは、世界の様々な国地域からの留学生が、英語での教育を受けています。教員は英語ネイティブもいますが、日本人も含めて非英語圏の教員が多くの専門教育科目を担当しています。

そういった科目では、語学力ではなく、内容や授業の理解度で評価をします。今英国、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどの以外に世界中でEMIの教育を提供している大学が増えてきています。

CBIとCLILの違い

CBIとCLILは、どちらも外国語教育の手法であるという点では一見似ているのですが、その背景が異なることで教育の目的も違っています。CBI/CBLTは、カナダのイマージョン教育が発展して、1980年代に北米で始まった言語教育手法で、言語を教えることが目的なため指導者も外国語教育の専門家です。

CLILは、ヨーロッパで生まれの教育方法で、外国語または科目の専門家が科目(内容)と外国語のどちらにも重点を置いて指導します。人の往来の多い陸続きのヨーロッパではEUの統合とグローバル化に対応して、高度な語学力を身につけるための効果的な外国語教育が必要だった、ということが背景にあります。  

CLILが重視している理論

CBIもCLILも過去に主流だった外国語教育の手法や第二言語習得の理論から発展をしたという点では共通しています。しかし、CLILがより実践的で革新的であるとされているいくつかの理由があります。一番よく取り上げられる  「4Cs(4つのC:Content、Cognitive、Communication、Culture/Community)」については前回紹介しましたので、その中でも特に重要な点のみ説明したいと思います。  

Language Triptych(言語の3点セット) 

これは4CsのCommunicationに関してですが、CLILでは言語の学習を、「学んでから使う」ではなく、「学びながら使い、使いながら学ぶ」という考えであることが基本にあります。そのため、語彙や文法を学ぶlanguage of learning(言語知識の学習)とディスカッションの仕方やレポートの書き方等のスキルを学ぶlanguage for learning(言語スキルの学習)を学ぶことに加えて、授業中のコミュニケーションで目標言語を学ぶlanguage through learning(学習を通した言語使用)の3つがあります。

低次思考力から高次思考力へ

次に、4C’sのCognitiveに関することですが、CLILでは低次思考力(LOTS:Lower Order Thinking Skills)から高次思考力(HOTS: Higher Order Thinking Skills/高次思考力)へと次第に難しくしていく手法を取り入れています。思考力は「記憶」、「理解」、「応用」、「分析」、「評価」、「創造」の順番で並びます。れは、ブルームの目標分類学(Bloom Taxonomy)の6分類(知識、理解、応用、分析、統合、評価)にもよく似ていますね。  



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