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法隆寺と登呂遺跡とマイホーム

法隆寺と登呂遺跡の建物に使われている木工技術はほとんど変わらないと言われている。

世界一古い木造建築といわれる法隆寺の優美な姿が、弥生時代の集落の素朴な建築技術で作られているとは誰も信じないだろう。大陸からもたらされた先進的な建築術の要は斬新なフォルムでも民間の技術を利用して作ることができるところにあった。誰でも普通に使える技術で未だ見たことのない建物を作り上げる。そこに革新があった。それが支配の道具として利用された

法隆寺の建物の部材を実測すると屋根の垂木の寸法が揃っていないそうだ。当時は木材を鉈で割って槍鉋で削って形を整える。現在の昇降盤ような一定の寸法で部材を切り出せる道具はない。大きく割れてしまったり鉋が木目に沿って流れたりと寸法は揃ってこない。しかしその頃は誤差のある部材を調整しながら組み合わせる技術があった。古代寺院の垂木の軒先には真鍮の化粧金物が付いている。大きさの揃わない垂木部材が不揃いに見えないように同じサイズの透かし金具をつけて整えている。

古代の建物には不揃いな部品を組み合わせて見事な一体感を作り上げる建築術があった。現在はそうした技術は失われている。その代わりに高精度の部品を大量に作る技術は発達した。同じものを作ることには長けているが、そうでないものを許容することは難しい。ハウスメーカーの現場に寸法が1cmも間違った部材が届いたらどうするだろう。

寸法誤差に対応できない未来の住宅と寸法が不揃いな未開の建物。どちらが優れているかを問うのは愚問だ。それぞれの側から見ればどちらも幼稚な技術に見えるはずだ。見方を変えれば価値基準は反転する。そんなものだ。

どちらでもない場所からフラットに眺めることはできるのか。

(2023/9/4 Postに掲載:2024/5 一部改稿)

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