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春に会いましょう

先日、電動車椅子でおさんぽをしていました。この町で今現在ある公営住宅で一番歴史のある団地で、半分くらいは空き家になっています。
ここにおさんぽで来るのは初めてでした。イメージ的に、もの寂しい雰囲気がありそうで足が向かないエリアでしたが、来てみるとのどかで懐かしい風景が広がっていて、とても和みました。

気に入ったので2日続けて来て散策したり、芝の広場でコーヒーを飲みながら読書をして過ごしました。
 2日目、広場で読書をしていると背後に人の気配を感じ振り返ると年配の女性でした。「こんにちは。昨日も来ていたでしょ。広場に人がいることなどないから、珍しくて気になったのよ。私の家の玄関からここが見えるのよ」と教えてくれました。
 20年前にご主人の生まれ育ったこの町に引っ越してきたこと、ご主人が先に旅立たれてからもこの町に住み、この先も今の暮らしを続けるつもりでいることなどお話ししてくれて「私は人付き合いをほとんどしないの。だからこんな風に突然話しかけたりなんかすることないのよ。」とご自身でも驚いているような様子で、私の姿を見て声をかけてみたくなったのかと思うと、とても嬉しく感じました。
「またぜひ来てね♪」と社交辞令には思えない、けれど依存するような重たさもない純粋な希望のような言葉に私も社交辞令ではなく「はい♡また来ますね」と伝えて帰りました。
 その翌々日「また来てね♪」の言葉が思い浮かんであの広場へ向かいました。
 気づくかどうかわからないけれど、ゆっくり読書して過ごそうと思い、本を出して開かないうちに「来てくれたのね〜寒いでしょ」とモコモコに厚着をしたあの女性が手にニットのショールを持って現れました。「ちょっと背中を起こして」と私の腰回りにそのショールを巻いてピンで留めてくれて「これは使わないでしまい込んでいたものだから気にしないで」と私にプレゼントしてくれました。

腰回りがふわっと暖かくなり背もたれに身体を預けると程よいホールド感も増して座り心地も良くなり、それを伝えると本当に嬉しそうに小さく拍手をしながら喜んでくれて、それを見て私もまた嬉しくなりました。
 それからまたいろいろお話しをしてくれて「さっきね、お昼寝をしていてパチっと目が覚めて玄関を開けたらあなたがいたのよ。あ、来てくれたー!と思って、でも風が冷たかったからこれを引っ張り出してきたの。よく来てくれたわねー。」と楽しみにしていてくれたことが伝わってきて「私もまた会えるかな?と思って来てみたんです」と応えました。
その方の言葉で印象に残ったのは「今を生きているから」と、とても凛として素敵でした。
 あとは「親友にもらった帽子があってね、その人はもう亡くなってしまったんだけど、その帽子を被って出かけたときにうっかり忘れてきてしまったの。でもそれは執着を手放す時だったんだろうね」とか「すぐに忘れてしまうことは憶えておかなくていいってことなのよね。じゃないと頭の中がごちゃごちゃしてしまうから。スッキリさせておきたいもんね」など、私の心に響き共鳴することばかりで、この出会いは互いに引き寄せ合った必然のように感じました。
 最後にその方は「ここ数日、季節の変わり目のせいかとても孤独感に襲われていたの。あなたに会えて良かった。もう寒い時期になったから次は来年の春に会いましょう。それを楽しみに寒い季節を乗り切ろうね。」
 私は「そうですね。私実は冬の間は外出ができなくなって乗らなくなるから、その間に病気が進んで来年の春になったらこれに1人で乗り降りができなくなっているかもしれなくて、だから簡単に1人で外出できるのは今年で最後かもって思っていたんです。だけど来年も来たいです。勇気が出てきました。ありがとうございます」
と春の再会を楽しみにふんわりとした約束をして別れました。
 きっと会えると思っています。


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