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春夏秋生の生えてきたインタビュー第9話

【聞き手:春夏秋生×はねたろう+チームびゅ】
秋生:みかのはら~とに出展しようと思ったきっかけは?
成田直子(以下、直子):はねたろう達3兄妹や、お母さんである炭本伸子さんとは2018 年に撮影で会ったのが初めてです。
秋生:目の写真ですね。
直子:そうです。まだその頃はねたろうは2歳とか3歳位でした。そこからですね、お付き合いは。
秋生:いつもやぎやを見守ってくれていて色々な面でサポートして下さってますよね。
成田貴亨(以下、貴亨):やぎやが面白いんですよね。
直子:今回、みかのはら~と自体には勿論関わるつもりでいましたが、出展よりもむしろ裏方的なサポートをと思っていました。そんな時にはねたろうが私の展示の手伝いをしたいと最初言ったんです。でもやるんだったら彼女と対等な関係で一緒に何かをやりたいと思いました。それで、「一緒にあなたのアルバムを作りましょうね。」と言って始まったんです。
秋生:そうだったんですね。

直子:アシスタントって使われる側ですよね。我々の指示があって動く立場ではなく、もう少し自立した一人の人間として彼女に関わってほしいというのがありました。
秋生:なるほど。それでアルバムを作ったらどうかと直子さんが思ったのですね。
貴亨:いえ、僕が最初ですね。兄妹で3人目だからアルバムがないという話を聞いていたので…。
直子:2021 年の木津川アートの時に炭本さん一家のアルバムを題材に使わせてもらってその話の聞き取りをしている途中はねたろうが「私のアルバムない…。」とはっと気が付いてしまった事もあって。
貴亨:僕はこれとは関係無くはねたろうのアルバムを作るイメージを持っていました。
直子:作品としではなく、はねたろうのアルバムがないんだったらあったほうがいいいよねというのが彼の中に思いとしてありました。
貴亨:はねたろうのおばあちゃんがすごく良い自分のアルバムを持っているんですよ。
それは自分で作っていて自分のおじいちゃん、おばあちゃんの写真から始まるアルバムで結構良いなと思っていて。
それは何故かというと写真って写ってる人がわからなくなるんですよ。そして写ってる人が誰かわからなくなった瞬間にわりとよそよそしいものになってしまう。先祖からだどってきて、はねたろうに至るアルバムを(結果的にそうはならなかったんですけど)聞き取りしながら、彼女のひいひいおじいちゃん、おばあちゃんの写真が入ったアルバムを作る事ができました。
秋生:自分のひいおじいちゃん、おばあちゃん知らないです。だいたい写真が無いですよね。
直子:残ってない事も多いと思いますよ。
貴亨:はねたろうから見て、ひいひいおじいちゃん、おばあちゃんまでの古い写真が残っている。
それはおばあちゃんがまとめたアルバム、そこに写ってる人が誰かわかる、名前までは書いていなくてもその事がすごい大事だなと思いました。2021 の木津川アートをやる時に自分達で撮る事もできなくはなかったのですが、2018 年の木津川アートで既に林直さんが若い頃から撮った20 数年分の写真を展示していました。
直子:今更我々がこの2年ばかしの間に何かをここで撮って意味があるものが作れるのだろうかという事を問うた時に、ちょっと難しいかなと思いました。私自身2018 年の木津川アートに参加していて、2021 年も同じみかのはらでの開催だったんですね。その時に2018 年からの人との繋がりや、その人を「知っている」ということから始められる、それは同じ場所で同じ作家が2回やる意味でもあるかなと思いました。ただ写真を集めるだけでなく、その持ち主の話を聞くことを大切に思っていて、地域の事などもよそ者なりにある程度分かった状態で聞く事で、より作品を深めることができるのではないかと。撮るより他の人のアルバムを使って作ろうとなりました。考えたというより必然的にそうなっていったという感じがします。

貴亨:写真って絶対的に今ここにいるところ、今しか撮れないです。逆を言うとそれ以外全部捨ててるっていう存在なんですけど、これは発想を変えるというか思考実験みたいなもので、すでに僕らが撮るべき写真はここにあるんじゃないか、僕達がその地域にある写真を掘り起こそう、それしかないなという感じでそれを見つける事で撮る代わりにしよう、と思いました。
直子:前回は、みかのはらに住む架空の人物のアルバムを作りました。様々な人のエピソードを一人の人物として扱う、つまりは横軸の作品です。今回は、実在する人物、はねたろうのアルバムを作り、「わたしのアルバム」というタイトルをつけました。彼女、母、祖母・・と繋がる縦軸の作品です。ここでのわたしは、必ずしもはねたろうだけを指しているわけでなく、作家である「わたし」でもあるし、それを見てくれた鑑賞者の「わたし」も含まれているんですね。写真って勿論それを見てるんだけど、写真そのものを本当に見ているのだろうか、実は自分の中の何かの記憶と照合しているのではないかと思うんです。自分の中に持っている記憶とつなげてその記憶をその裏に見ている。だから表面的に写っているものだけを見ているわけではないはずなんです。ひょっとしたら、その写真は見た人、それぞれの人の写真として存在してくるのではと思ってこのタイトルになりました。

秋生:「わたし」には色々な意味があるのですね。少し若い頃のお話をお聞きしたいのですが、写真を撮りだしたのは学生の頃からですか?
貴亨:撮り始めたのは18 とか19 位の時です。当時は写真自体が目的じゃなくデッサンをやるためにモノクロで静物のモチーフとかの写真を撮っていました。大学1年目と2年目にも写真の授業があり、そこで初めて自分でフィルムを現像する事ができ、「写真って良いな。」と思いました。
秋生:高校は普通の高校ですか?
貴亨:はい。高校に行く時も工芸高校とかデザイン学科に進みたかったのですが、先生にすすめられて自然に普通科の高校に行きました。
大学ではデザインを専攻していましたが、最終的には写真の方向に進みました。写真がずっと好きだったんですよね。10 代の頃から写真そのものに対する憧れがありました。2001 年に公募展で賞をいただいた事がきっかけで大阪によく来るようになりました。もともと10 年位前までは愛知にいたんです。その友人の経営しているギャラリー兼貸暗室で直子さんと出会いました。
直子:私自身、初めてカメラを手に持ったのが35 歳の時なんです。知人の出展を機にギャラリーに通うようになり、そのギャラリーでは撮影会というものがありました。カメラも貸してくれてフィルムだけを持って行って暗室で現像して展示までできる、というもので趣味的な事として参加していました。当時私は印刷工場に勤めていてその工場が1年後に無くなると急に決まったんです。それで、その工場への思い入れもあって「私が何もしなかったらあった事もゼロになってしまう。」という事がショックで写真展もやった事がないのに「私この印刷工場の写真を撮って1年後に個展をします。」とギャラリーの人に宣言したんです。
秋生:おー!そうなんですね!
直子:実際半年くらい通って3、40 枚位写真を組みました。それが2011 年のことで初めての作品かつ展覧会です。そして2016 年の木津川アートのテーマが「命」だったのですが、公募を知ったのが〆切の2週間前で、企画書を書いてギリギリで応募したのを覚えています。それがきっかけで2016 年2018 年、2021 年と木津川アートに出展させてもらっています。
秋生:自然な流れだったのですね。
貴亨:出展する際の実作業は僕ですからね(笑)

秋生:なりたろうさんはすごく器用ですよね。どうしてそんなに何でも上手に作ったりできるんですか?やぎやの小上がりとか本当に凄いです。
貴亨:デザインはデザイン系でも工業系のデザインで立体のデザイン専攻なんです。木工や陶芸、デザインなど色々な物を作って卒業していく人達がいる中で木工室を使ったり幅広く何でもやれる大学でした。
もともと工業デザインが好きで入ったはずが写真をやるようになり、写真をやるためには実際の物を作る作業などが必要になってくるので、それが僕には必要なんですよね。
秋生:以前やぎやに飾られていた、直子さんとなりたろうさんのモノクロ写真ありましたよね。本当に美しかったです。
直子:ふたりの身体をモチーフにした写真の掛け軸ですね。掛け軸でよく見るS字状に流れる川みたいなラインを身体で描きたくて、ライティングをしてPCのモニターで形を見てデジタルカメラで確認をしながらフィルムで撮りました。
秋生:自分達で撮ったんですか?
直子、貴亨:はい。結婚してすぐでしたね。狭い部屋で長時間かけて撮りました。今も家の中に吊り下げられています。
秋生:これからやってみたいことはありますか?
貴亨:撮りためている写真はあるんですけど、何かがないと写真を撮らないので…何だろう?
直子:毎回新しい事をしたいというのはありますね。
秋生:これからみかのはら~とも今年初で第2回、第3回と続けたいと思うので共に毎年続けていけるといいですよね。
直子:みかのはら~とでは実験的な事もできたらいいなと思っています。今回はワークショップをする予定で、それぞれの方に持ってきてもらった1枚の写真をもとにその人のお話を聞く事を皆でできたら面白いのではと思っています。「写真を読む」って言うんですけど、実際の持ち主の語りと受け取った人では読み取れる物語が変わってくると思うんです。写真はあくまで断片的な情報しかないので、その差異を楽しむようなことをやりたいと思っています。
秋生:最近やっていて楽しい事は?
直子:色々な事が制作で圧迫されているかんしで、余暇的なものがあまりないですね。
貴亨:1つの作品が終わると止まっている他の作品があるんですよね。3兄妹の写真をみるのは楽しいですね。
直子:3兄妹もみんな色々と忙しいので作品とは関係無しで焚火とかカードゲームしたりして、もっと私達と遊んで欲しいです(笑)
貴亨:今回のアルバム作るのに、ずっと写真見てて2018 年のピンホールカメラのワークショップの写真が出てきて、参加してくれた秋生さんの息子さんもめっちゃ子供なんですよ。だかだか4年前なのにこんなに子供なのという位子供でめちゃくちゃ可愛い(笑)
秋生:そのあたりの4年ってめまぐるしい変化ですよね。中学校になると急に顔つき変わりますよね。めっちゃ可愛かったのに…。大人なんて3、4年何も変わらないのに(笑)
貴亨:それを見てると面白かったです。はねたろうなんて半年くらいで全然変わる。これが成長ってやつなんですよね。
直子:ほんと会ったころは半分赤ちゃんみたいだったのに…
秋生:炭本さん一家との出会いは成田さん達の生活をがらりと変えたのですね。これからもどんどん面白くなって、チームびゅの新しい挑戦を楽しみにしています。

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