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第7回 東京装画賞に出しました。

昨日、第7回東京装画賞の結果発表がありました。
結果は2点出してA案は一次選考通過、B案は二次選考通過。残念ながら、入選には届かず、ひとしきり落ち込んで、心の整理がてら筆をとっているところです。

出品作品 A案
出品作品 B案

公式の発表によると、
作品応募点数:937点(一般627/学生310)
一次審査通過:一般258点/学生132点
二次審査通過:一般111点/学生51点
三次審査通過:一般60点/学生30点(入選ライン)
とのこと。この中で「二次審査通過」どんな意味をもつのか、自分なりにまとめておきます。

コンペと言えば学生時代…もはや20年以上前になりますね、に一度出したきり。棒にも箸にもかからず落選して以来、怖くて一回も出品していませんでした。コンペ、怖いです。本当に怖い。同じテーマで日本全国にいる絵描きと比べられて、今自分がどのレベルで絵を描いているのか、否応ナシに評価されるのですから怖いに決まっています。

「落ちたら立ち直れないかもしれない」

そう思うと、何らかのコンペの案内を見るたびに、言い訳をつけては出品せず、別の道で活動してきました。

10月にギャラリーDAZZLEでLINKLINKポスター展というグループ展に参加しました。

ポスター展出品作品

10名のデザイナーと10名のイラストレーターがペアになってそれぞれに一枚のポスターを作り、展示するという企画でした。

これまで横の繋がりをほとんど持っていなかった僕にはとても新鮮な経験で、現役のイラストレーターさんが日頃どんな活動をしているのかを知る良い機会となりました。

話を聞いていると、みなさん当たり前のようにコンペに出品してるんですよ。受賞歴に驚く以上に「今年はアレとソレに出した」とか「あのコンペには間に合った」とか、自然な感じで。

会場の片隅に、DMが並んでいました。

そこに今回の東京装画賞の案内もありまして、ふと、出してみようと思ったわけです。まだ間に合う、と。

課題図書は2つ。『あん』ドリアン助川、『よだかの星』宮沢賢治。
いざ取り組んでみようと思っても、なんせ怖い。とてもとても怖い。どちらの作品にしようか悩みつつ…『よだかの星』に決めました。短いからです。長い小説を読み込んで、描いて、作ってダメだったらきっとダメージがデカイだろう…と本能的に短編を選びました。

宮沢賢治の作品は、電子書籍ですぐに手に入ります。サラッと読んでなんとなくイメージを膨らませて、これならすぐに描けるかも…と思ったところで気がつきます。

これだけの名作、いまさら僕が描かなくても沢山作品化されてるのでは?

Googleの画像検索に『よだかの星』を入れると案の定、山ほど出てきました。あぁ…やっぱりそうだよね。そうなるよね。

一読して頭に浮かんだイメージは既に誰かが考えた図柄とほぼ同じものでした。これではまず通らないだろうな、と。そこから何度も作品を読み直し、キーワードを拾っていきます。どの要素を、言葉を、心情を拾えば新しい切り口で絵になるのかな、と。

ラフを重ねて、勢いで描き上げる。とにかく恐怖心が大きすぎて、一度手を止めたら出品を見送ってしまいそうな自分がいました。それで生まれたのがA案。手数は少ないけれど、とにかく形にはなった。

A案

今僕が描けるベストだ。この一枚で出品しよう。

一夜あけて、スケジュールを確認すると締切までまだ1週間ありました。もしかして、もう一案作れるんじゃないだろうか。と少し余裕がでてくるわけです。とにかくひとつは作品が出来ているわけだから、もう一つは気楽にできるはずだ、と。

そこで、もう一枚は過去作品を研究するところから始めました。マジマジと、発表されている入選作品を眺めたり、SNSで発表しているイラストレーターさんの作品をみたり。

沢山みているうちにね、また気付くわけですよ。東京装画賞の出品作品はレベルが高い。A案で僕が考えたレベル、潜ったレベルはみんな到達していて、もう一段かそれより先に入選ラインがあるんじゃないかって。

A案のことは忘れよう。どうすればもっと深くこの作品のイメージを作れるかな。初案のイメージを壊しつつ、なんどもラフを描き直す作業を繰り返します。そのうちに、たぶんここから先は「突き抜けた個性」が物を言うんだろうな、と自分なりの答えが見えてきて、「個性」をどう打ち出すか、自分が持っている技法を洗いざらいリストアップして検討していきました。

最終的には元に戻ってきて、王道の構図でいこう、と決めます。その上で描き込み量を増やし、作中の『よだか』に対する僕のイメージと合う技法を選んで作り上げました。万年筆インクとボールペンで組み合わせた、僕だけの技法。もう、ないよー。これ以上いくら絞っても出てこないよーっていうところまで考えたし、出し切った作品になりました。それがB案。

B案

締切当日までデータに手を入れて投稿。ここから先は何もできることはありません。気になるので、毎日SNSで「東京装画賞」をエゴサーチして、審査状況や他のイラストレーターさん達の声を拾ったりします。

さほど日数は経っていないはずなのに、ずいぶん待ったような気がします。その日は息子を少し遠くの公園に連れていくところで、妻からメッセージが届きました。

「二次審査、通過の発表あったよ」
「迷惑メールに通知の連絡入っていたよ」

ん?僕のメールアカウントまで確認したのか!いや、それはいいんだけれど、マジか!本当に???

二次審査を通過したのはB案でした。

なんてフェアなコンペだろう。
そもそもコンペってフェアなものなのか…。
ちゃんと、考えた分だけ評価してもらえるんだ。
だとすると、考え方やアプローチは間違ってなかったってことか。
A案でやめなくてよかった。
なにより、僕の絵を評価してくれた人がいて嬉しい。

コンペを怖がって、王道を避けてきたこともあり、はじめて自分の画力が社会に認められたような気持ちになりました。抱えていた劣等感が溶けていくような、不思議な感覚。これまでの活動が肯定されたような安心感。

出してよかった。もっと早く出しておけばよかった。

「とーさん、ちょっといいことあったんだよ。まだけっかはわからないんだけど、おおきなしょうで、ちょっとだけみとめてもらえたんだ」
と隣にいる息子に言うと
「へー、とーさん、おめでとー!よかったねー」
なんて返事をしてくれました。

この日遊びにいった公園

まだか、まだかと東京装画賞の公式サイトをリロードしては最終結果を待つ日々。二次選考を通過した作品は、出力できる品質の高解像度データを送付して改めて三次審査にかけられます。そこで入選作品が決まり、さらにそこから入賞作品が選ばれるわけです。もうあとは、5名の審査員の方々に選んもらえるかどうか、だけです。

結果は落選。

実行委員長の山田博之さんは公式サイトでこうコメントされていました。

年々作品のレベルがアップしており、僅差で入選ラインに入らなかった作品がたくさん残っていました。その差は5名の審査員との共鳴という点にある思います。画力や構成力といった作品の差ではありませんので、入選に届かなかった方は、落ち込んだり作品の欠点を探したりしないでくださいね。みんな素晴らしい作品でした。次回も是非、ご応募をお待ちしております。

東京装画賞実行委員長 山田博之

東京装画賞公式サイトより

これは、二次審査を通過した作品と作者達に向けた言葉と思いますが、「落ち込んだり作品の欠点を探したりしないでくださいね」のくだりはとてもユニークで、励みになりました。言葉通り受け止めようと思います。ありがとうございます。

出品作品制作中、妻に作品を見せては何度も感想をもらっていました。

結果を受けて
「せめて入選できていたら仕事にも活かせたんだけど、ごめんね」
と言うと
「こんなこと言うとアレなんけど…もちろん、入賞していたらそれはそれで良かったんだけれど…落ちて良かった、とも思ってるんだ」
「どどど、どういうこと…???」
「だって、入選してたらキミはもうコンペに出さなくなってたかもしれないでしょ?もういいやって思ったんじゃない?しんどいしって(笑)今回の作品を作っている間にさ、みるみるうちに絵が上手くなって、どんどん作品が良くなっていくのをみてたから、無責任だけどすごく楽しかったんだよ、端から見てて。だから、落ちたから、またコンペに出してくれればもっと良い作品作れるようになるんだろうなって」

妻なりの慰めでも励ましでもあるんだろうけれど、本心でもあるんだろうこの言葉で、気持ちが落ち着きました。あれだけ怖かったコンペも、これからはもっと気楽に、自然に出していこう、という気持ちになったわけです。

落選作品、、、いえ、一次審査通過作品と二次審査通過作品。

入選したわけではないけれど、この2作品は「公開してしまおう」と決めてこの記事を書いています。入選したかったし、本気で狙って取り組んだけれど、入選できなかったからこそ得られるものもあったはず。

もっと早くから。若いときから怖がらずに出していれば、といった後悔もあります。でも、今からでもまだまだ成長できるかもしれないと考えると気持ちが前向きになってきました。

なによりも、絵描き、画家をこれからも続けていきたい、というきっかけになったことは間違いありません。

東京装画賞に関わるみなさまや、同じ条件下で出品したイラストレーターのみなさまには、心から感謝とともに、またどこかでご縁ができることを願っております。

それと、これからも「画家を続けて欲しい」と言ってくれた妻と応援してくれた息子にも、ありがとう。

絵はね、面白いんです。

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