感覚
2年くらい前になる。
音楽ライブに行ったときの物販列でのこと。雨が降り出し、たまたま後ろに並んでいた女性と「雨降ってきましたね。」と、会話をした。そのままなんてことないことを話していて、お互い一人で行動していたことから開演まで一緒にいましょうということになって、近くのファミレスで腹ごしらえをしながら時間を潰していたときのこと。
普段は人と話すなんて苦手なのに、ライブ前のテンションだったせいか、これから同じ空間を共にする同士だったせいか、そんなこととは関係なく話しやすい雰囲気の方だったせいか、会話が弾み初対面で意気投合、そんなような感じだった。
思ったよりも深く自分のことを話したし、相手のことも聞いた。たしか5、6歳年上だった。お互いの環境だったり、状況だったり、過去や未来のことも。私がウソ下手ということもあるけど、言っても大丈夫だという直感的なものがあった。
少しばかり似たような境遇であったために、驚いたのを覚えている。
そんな会話の中で聞いた言葉が今も心に残っている。少し、悩みを口にしたときだったと思う。
「自分の感覚は他の人にはわからないから」
わかっていたはずなのに。
耳にして頭の中で文字に起こしたときにハッとして、グサりと体に刺さった。
こんな当たり前なこと、わたしはスルーしてたのか。という自分にも衝撃を受け、なんとありがたいお言葉を頂いたんだろうと、初対面で意気投合中の方にとてもとても感謝した。
その後のライブは最高だった。
大箱ライブハウスの中にスタンディングのオーディエンスの中のどこかに、あの女性もいる。
同じ音楽、同じ匂い、同じ空間を味わっている。
また一つ価値観を共有できることが嬉しくて、思い出込みでいいライブになった。
ときどき思い出す。
人とすれ違っているかもと感じたとき、
「自分の感覚は他の人にはわからないから」と。
頭によぎる。
その言葉で絶望的にもなるし、救われた気持ちにもなる。