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My らいとにんぐ♡Lady in マグマク島

※Magnet様の「MMSW CONTEST」、『あなたの書いた作品のキャラクターを登場させ、マグマク島に到着し、出会った自作品のキャラクターたちとのファーストコンタクトを中心に書くこと。(サイトのマスコットキャラも入れろ)』と言う無茶ぶりに対応した作品となります(白目)。ギャグです。


<起>

「やっとついたぜ、マグマク島ーー!!」

 私こと佐伯みかんは、マグマク島の空港のロビーでスーツケースを放り投げ、雄叫びをあげていた。

「物語の創作者は自分の作った物語の世界からキャラクターをマグマク島という限定された空間でのみ具現化することができる」という今話題沸騰中の超人気観光地「マグマク島」への搭乗チケットを、ありとあらゆる手段とへそくりを駆使してゲット! 家族にジャンピング土下座して二泊三日の猶予をもらい、必死な思いで乗り込んできたのだから、大目に見て欲しい。

 とりあえず美人好きな作者として、呼び出すと言ったら彼女しかいない!
 自作の、戦国恋愛小説「雨夜の星」の主人公の「小春」ちゃん!

 ギョギョ民か、殺る茶か、敬老乃滝あたりで、美少女小春と美男子の才四郎を連れ込んで、酒弱い才四郎に飲ませて、小春ちゃんとからかって、いじり倒そう! これほど美味い極上のツマミがかつてあっただろうか!? いやない! そうしようったらそうしよう!


「いでよ、こは……」

ーーバチン!!


 いい年した大人が恥ずかしいポーズで自キャラを召喚しようとしたまさにその瞬間だ。突然目の前が真っ暗になった。え? 何これ? どういうこと?? なんで真っ暗なの!? まさかの停電!!??

 ロビーの他の客たちのざわめき。あたりが騒然としてくる。どうやらマグマク島全体で何かトラブルが起きたらしい。暗闇の中で目を凝らしつつ戸惑う私の耳に、どこからかともなく古いメガホンの音割れしたヒドイ音声が響いた。

「マグマク島で非常事態が起きました! どなたか電気系の魔法が使えるキャラクターを召喚できるお客様がいらっしゃいませんか!? 繰り返します! 電気系の魔法が使えるキャラクターを召喚できるお客様あ〜〜!」

 電気系……その言葉に私は思わず思案を巡らせた。

「そういや最近マグコンのために書いた新作の主人公とそのお相手。電気魔法にしたんだよなぁ〜」

 そう何気無くつぶやいた瞬間だ。暗闇に溶け込むような肌色、黒スーツの男たちが突如現れ、私はいきなり両脇を掴まれた。え? 何ですのこれ?

「召喚者様、一人、ご案内!!」

 男は胸元のピンマイクで誰かにそう報告しつつ、

「申し訳ございませんが緊急事態ですので、強制でご足労をお願いいたします」

 とだけ言い放った。

「え!? 強制!? ごそく、え!? ちょっとどこへええええ!?」

 そのまま私は文字通り、暗闇の中を飛んでもないスピードで引きずられていく。どこかへ連行されてるらしき自分。なんなのこれ!? この黒服一体何者なの!? それに、緊急事態って!? 一体何がどうなってんのーー!?


<承>

 ハッと目がさめると私は椅子に座らされていた。隣にご丁寧に投げ捨てた自分のスーツケースが置いてある。

「急にこんなところに連れてきちゃってごめんなさい!」
「……桜来は全く。いつもノリだけで後先考えないから」

 空港についた時点で日が暮れてたけど、さらに辺りは暗くなっている。どれくらい時間が経ったんだろう。

 前方を見ると、小さなランプの光が二人分の人影が映し出している。妙にテンション高い赤娘と、反してテンション低くボソボソしゃべる青娘! あ! あの二人! 見たことあるうう!

「あ! なんかいつもマグネットマクロリンクのトップページに表示されてる赤いのと青いの!!」

「神々廻桜来と!」「……和音」

 二人がものすごーく不満そうなジト眼でそう続けた。

「マグコン出してるくせに、公式キャラ知らないって、どういうことぉ!?」

 ぐ。桜来のツッコミが痛い。

「ごめんねえ。年とると漢字3文字以上のキャラ名覚えられなくておばちゃん。申し訳ない、堪忍な」

 そう謝りつつ辺りを見回す。

「これ一体どういうこと?」

 私の質問に和音が恥ずかしそうに下を向き小さな声で、

「マグマク島全体で停電が起きてしまいました。発電施設のシステム誤作動が原因です」

 そう言った。

「ライフライン直結のシステムが誤作動って……」

 ありえない。こんなに有名な観光地で停電なんて。私の心の声が聞こえたのか桜来がムッとした様子で言い返す。

「突貫工事だったからしょうがないでしょ!?」

 そういや冬ごろに二人とも、公式マンガそっちのけで高飛びしてからここ作ったと考えると……まだ数ヶ月しかたってないものなあ。言わずもがな、かあ。

「で?」

 首をかしげる私に桜来が腕を組みながら偉そうに続ける。

「とりあえずシステム復旧はできたんだけど非常電源使い果たしちゃって。再度システム起動させるに当たって、手動の発電開始スイッチをONにしたいんだ。でもそのスイッチ自体、セキュリティシステムがかけられたボックスに入ってて……」

「つまりセキュリティ解除するための電気も使い果たしちゃったってこと?」

 うわああああ。せめてそれぐらいは考えて作れや。

「しかもほら、人間離れしたキャラクターが出てくる島じゃない? 大切なスイッチをそこらへんに置いとけなくて。で、あそこに」

 桜来は、気まずそうな笑みを浮かべて窓の外を指差した。窓の外には黒い巨塔。窓枠からはみ出すほど、恐ろしく高いタワーがそびえ立ってるのが星明りで見える。私は姿勢を低くして塔を見上げた。これスカイツリーぐらいあるんじゃないの? 

 桜来の指先はさらにその先、夜空に突き出たタワーのてっぺんを指している。

「あそこって。あの塔のてっぺんのなんか棒が立ってる下の見晴台みたいなとこ? あそこに登ってスイッチ入れてこいってこと?」

 私は席を立ちくるりと背を向けた。

「無理です。アディオス・アミーゴ」

 ナイスミドルな作者に何をさせようというのか。立ち去ろうとした私の服を力任せに引っ張り、桜来が叫ぶ。

「大丈夫! パルクールなんてさせないから! 私たち姉妹が力を合わせることで動作する、この磁力を動力源としたマグネットフライヤーで飛んでってもらうから!」

 彼女が部屋の真ん中に置かれた何かを指差した。小さな灯りに必死に目を凝らしてみると。なんじゃありゃ。遊園地のキッズコーナーであるような、半身をそれぞれ赤と青で塗り分けたファンシーな形の4人乗りの飛行機が、でーんと置かれている。

「で、見晴台に着いたら、電気魔法を使ってもらってセキュリティーシステムを起動。このカードキーでセキュリティを解除して、ボックスの中にあるスイッチを押しあげて欲しいワケ!」

 私はおもちゃみたいな飛行機とカードを手にした桜来を交互に見つめながら言う。

「そのシステム起動するのに、電気系魔法が使えるキャラが必要ってことね」

「そゆこと!」

 桜来が胸を張って大仰にうなずいた。

 ってか。

「そもそもそのエラソーな態度はなんじゃい?! 人に頼み事する姿勢じゃないじゃん!」

 どう見てもこれ命がけ案件なんですが!?

「ごめんーー! どうか! 何卒! よろしく! お願いしますうう」

 やっぱ帰る! 全速力で逃げようとする私に、桜来がまたまたすがりつきペコペコ頭を下げて叫ぶ。後ろの和音も申し訳なさそうに頭を下げた。

 うーん。悩ましいところだけど、ここで私が何もしなければ居酒屋で酒は飲めない。そもそも飲みにもいけない。これはもう、いっちょ腹をくくってなんとかするしかないかなあ。

 ……全ては酒(アルコール)のために。

「……わかった。やってみる!」

 仕方なく頷くと、私はさっきと同じ要領で。でもイメージはさっきと違う新しい作品「My らいとにんぐ♡Lady」のキャラを思い浮かべながら声をあげた。

「出てこい、アーミーとサクヤ!」

 直後、ぼわん! という間抜けな爆発音と煙と共に……!

「え? ナニコレ!? アーミー! すごくね!? ってかちょっと! おばさん誰!?」

「え!? ……あ、あの一体これは」

 煙が搔き消えると同時に、目の前に美少年と美少女が姿を現した。

 一人は転移転生してきたラノベキャラにありがちな細身に黒づくめのシャツとパンツ姿。今風のマッシュショートの黒髪、片耳にひし形のピアスをした大学生くらいのイタズラそうな美少年。破壊のアクマこと、サクヤと。

 もう一人は低身長、白い髪に真っ黒などんぐり眼。可愛らしい白のレースのブラウスにグリーンのミニスカートとレギンス。白く丸い耳に長く先だけ少し黒い尻尾を持つ、オコジョの獣人(ネオテール)美少女。禁断の雷魔法の使い手、主人公のアーミーが立ってるじゃないか!!

 うおおおお。すごい! 本当に出たーー! 内心かなり荒ぶるテンションを必死に抑えつつ、一応立ち位置的に神である私は、威厳のある風を装って二人を見つめた。

「私は……信じられないと思うけど、一応あなたたちと世界を作った作者です。神様みたいなもの。でこっちも同じような立場の神々廻桜来と和音。つまり私は神A。あっちが神B、神C」

「何その脇役の村人みたいな紹介」

 桜来の不満げな反論を聞かぬふりして続ける。とりあえず今起きた状況を説明しないとね。

「つまり、カクカクシカジカ……というわけ」

 言い終えるが早いか、作者も驚きの適応力とノリの良さでサクヤが叫んだ。

「へええ! おっもしろそうじゃん! アーミー! ここはいっちょ二人で力を合わせて!」

 しかし一方のアーミーの顔色が優れない。悲しそうに潤んだ目を私に向け、力一杯頭を下げた。

「……ごめんなさい神様! 私、できません。サクヤと力をあわせるなんて、ムリです!」

「マジでか! なんでだよアーミー!?」

 その言葉に見てて哀れなほど慌てふためくサクヤ。……これはもしや。

「えー何。もしかしてあんたら喧嘩中なの?」

 呆れて果ててボヤくと、アーミーが顔を上げて、拳を握りしめながら必死な様子で訴える。

「神様! ひどいんです! サクヤと久しぶりに二人でショッピングに行ったら。彼、店員さんに、胸すごいっすね! やっぱりでかいのはいいなぁ! なんてナンパして。しかもその気になったお姉さんに、夜食事に誘われちゃったりして」

 サクヤが必死になって弁解する。

「ちが! くはないけど、ちゃんと断ったでしょ!?」

「女の子とデート中にサイテー。男の風上にも置けないヤツー」
「次のダンジョンで、星になってもらおうか。あんた次から回想シーンのみの登場ね」

「ちょ、違う! これには訳が!」

 ふわもこの獣人アーミーを抱きしめてナデナデしまくる私に、桜来も加勢してくれる。二人でサクヤに一斉援護射撃をしていたんだけど……。

 ん? 背後の空気が薄ら寒い。

「……ムネ?」

 え? 誰の声? ゆっくりと後ろを振り返ると、なんか青い子が禍々しいオーラを放って立ってるんですけど!? な、何がどうして、そうなった!?

「胸が小さいからなんだっていうの!? 大きければエライの!? これだから世間一般のオトコってのは!」

 あわわ、和音!? さっきまでの大人しいキャラは崩壊。まさしく般若の顔で怒ってるうう!

「わかります! 毎日胸体操してるのに大きくならなくて。レトみたいに生まれながらに大きいなんて羨ましい」

 便乗してアーミーも丸い耳をピクピクさせながら怒鳴る。うーん。なんか初対面でシンクロしてるし二人とも。そしてその怒りの矛先は……。

「べ、別にアタシだって好きで大きくなった訳じゃ」

 二人に嫉妬の目で睨まれた桜来が、胸を隠しながらタジタジ後ずさる。あ。その発言、地雷……。

「無意識に小さい人を傷つけるような発言……、ヒドイです」

 顔を伏せ泣くアーミー。

「桜来なんて知らない。もう助けてなんてあげない」

 さらに火に油を注がれた和音。

「そういや、桜来って神様もすげえイケてる! 着てる服もなんかこう、グッとくるよね」

 相変わらず空気読まないサクヤ。

「……サクヤのバカ!! もう絶交なんだから!!」

 ぐあ! 加えて痴話喧嘩も始まってるうう!

 くー。地雷を踏む前に止めるべきだった! 収集つかなくなってるし! ってか、磁石娘がケンカしてたらそもそも飛行機動かないんじゃないの?

 これはもう身を呈して止めるしかない!


「ええい、みなさん落ち着いて!! カミサマ兼年長者の意見をきいてください!」


 皆一斉にこちらを振り向く。私は一度大きく息を吸った。……そして。

「胸は大きさじゃない! カタチよ!?」

 そう思いっきり叫んだ。


「大きさなんてみんな違って、みんないいじゃない? おばちゃんから見たら、みんな向きが上に上がってていいな〜って思うわけよ!? 若さっていい! みんな可愛らしくて、魅力的! チ……じゃなかった、胸の内側も外側も未来と可能性が詰まっててウラヤマシイ!」

 とりあえずまくし立てる。ってか、なんでこんな話しなきゃならんのだ(泣) 全部公式キャラ紹介に胸ネタを持ってきた運営様のせいだ! 的外れに運営様を責めながら心中、涙しつつ、私は皆をゆっくりと見渡した。

 静まり返る部屋。口を開けて固まる若人たち。この自虐ネタでなんとかイザコザを止められたか……!?

「そういう風に考えたことなかったです。ありがとうございます。やっぱり神様ですね!」

 アーミーが可愛らしく瞬きしながら、深く頭を下げる。

「カタチ……なるほどね。いい意見を聞けたわ……」
「私もタレないように気をつけよっと!」

 磁石娘らも納得したらしい。


「やっぱすげえな。年の功だなおばさん!」


 サクヤ……コイツは……。そもそもお前が余計なコトすっから!

 サクヤの後頭部を八つ当たりも兼ね、はり飛ばしながら、内心つぶやく。

ーーまあ。年取ったら重力に負けて、でかかろうが小さかろうが、しまいにゃ垂れるんだけどね……。

 しかし、この真相はそっと作者の胸の奥にだけしまっておこう……。

「んじゃ! さっさと飛行機乗って、スイッチ入れに行こう!」

 こちらの滞在のタイムリミットもある。一滴でも多く、楽しく美味しい酒を飲むには、一刻の猶予も許されないのだ!

 どうみても不安しかない危うげな飛行機に乗り込むと、私はアーミーとサクヤに向かって手招きし、そう声を張り上げた。


<転>

「マグネットフライヤー本当にこれ大丈夫なの!?」

 ごうごうと強く冷たい風が吹き荒れる真っ暗闇の中、ファンシーなマグネットフライヤーはひたすら上昇を続けている。

「乗っちまったらしょうがない! 後は信じるしかないじゃん!」

 前の座席に座っているサクヤが風の音に負けないような声で怒鳴り返す。彼にしては珍しく正論だ。正論だけど!

「こわい……」「アーミーしっかり!」

 一度下を覗き込めばそこは、真っ暗な奈落の底。恐ろしいほどの高さ。こんな高さ私もだけど彼女も初めてに違いない。
 もともと怖がりなアーミーは頭を押さえて小さく震えている。16歳で一番若い娘さんだものなあ。老婆心で肩を抱いて励ました。

 あの会話の後、サクヤは前、後ろに私とアーミーが乗り込んだマグネットフライヤーは、桜来と和音の合図で開いた天井の扉から飛び立ち、ひたすら上昇を始めた。
 聞くと動力源はこのサイトで飛び交い溜まりに溜まった磁界を糧にしてるらしい。

 ってわけでとりあえず宣伝を。


 新興サイトも楽しいみたいだけど、マグネットマクロリンクさんもめちゃ楽しいですよ!! みんなサイト盛り上げていきましょう! いや死ぬ気で盛り上げて! せめてこのイベントの間だけでも! ほんっと頼みますーー!!(心の底から)


 フライヤーは上昇しながらも、タワーの見晴台めがけゆっくりと舵を取り始めた。頭上に目的地が迫ってくる。5メートル、4メートル、2メートル……もう後少しだ!

「ほら着いた!」

 サクヤの声で顔を上げると、機体の手すりと、見晴台の手摺が同じ高さのところでフライヤーが停止飛行しているのが見えた。サクヤは長い足を出して身軽に立ち上がり手摺をまたぐと。

「いよっと! ひええ、すげえ高いなこれ」

 見晴台にさっさと降り立ってしまう。

「オイコラ! こっち!」

 私がすかさず声を掛けると、ヤツは気づいたように振り向き。ちょっと頭をかきつつも、決意を固めたようにこちらの座席を覗き込んだ。

「アーミー、ほら。オレが手を貸して支えるから。こっちに手を伸ばして」

 アーミーが顔を上げ、サクヤを見つめる。その真剣な表情を見て心を決めたらしい。震える足で立ち上がり、彼にむか手を伸ばす。サクヤがその手を握りしめる。そしてグッと彼女を引き寄せた。

「あ!」
「おっと! 大丈夫?」

 よろけて床に倒れそうになった彼女を抱きとめて、サクヤが支える。

「ご、ごめんなさい」「ううん」

 二人はパッと離れたけれど真っ赤だ。くううう! 見てるこっちが恥ずかしいわ! なぜか意味不明に照れながら、悲しく独り身の自分は半泣きになりつつ見晴台に飛び移った。

 さて、急いで仕事しちゃわないと!

「アーミー。明かりをくれる?」
「あ、はい!」

 私の声に、アーミーが首にした形見の星形の電気石トルマリンのペンダントを強く握りしめる。すぐさまペンダントから放たれたレモン色の光であたりがパッと明るくなった。

 なんだか風で微妙に床が揺れてる気がするけど……な、無かったことにしておこう。そう念じつつ見晴台の中央にある柱に取り付けられた私の背丈ほどある盤と、その横にあるカードリーダーを調べる。

「これがそのボックスね。アーミーが呪文を唱えて、サクヤがカードリーダの根元。この電源部分に魔力を押さえて時間長めに放電して。で、セキュリティカードリーダーが作動したら私がカードを切って、盤の蓋を開けて、電源をONにする。チャンスは一回だからね。息を合わせてやるよ! せーの!」

 私たちは同時に息を思い切り吸い込んだ。アーミーがすぐさま高らかに呪文を唱える。

「ライトニング・スピード!」

 彼女の右腕が電気を帯びて青白く光り始める。その手ですぐさま隣のサクヤの左手を握りしめた。

「よし行くぜ、おばさん!」

 サクヤが開いてる方の手で、むき出しのカードリーダの電流コードに触れた。しばらくしてカードリーダの電源ライトが緑色に……光った! よし!!

「おばさんじゃない! 神様だっつってんだ、こおぉのクソガキが!」

 言いつつ私は手にしたカードキーをリーダに通す。ピッピー! と軽快にリーダーが照合OKのブザー音を鳴らし、すかさず盤の電気錠がガチャンと音を立てて開いた。急いで盤の扉を開ける。中央の大きなハンドルのついた発電開始スイッチを力一杯掴むと、私はそれを思いっきり引き上げた。

 ……よいこらせ!


 その瞬間だ。


 タワーの下からだろうか? どこかで大きなタービンが回る低音と同時に、うん十年生きててもまだ見たことのない、美しい光景が眼下に広がって行く……。


<結>

 この塔を起点とし発電された電気が街中に行き渡る。赤青黄白……様々な色の光の洪水は、町の外に向けてすごい勢いで加速し、マグマク島全体を明るく照らし出した。

「わぁあ! きれい」

 アーミーの表情もぱあっとほころぶ。まさに「宝石箱をひっくり返した」という形容詞がぴったりな夜景を、両手を胸に合わせて、しっぽをゆらゆらさせながら、キラキラ光る目をまん丸にして、じいっと食い入るように見入っている。……耳もピクピクして。カワイイ。

 その背後には私とサクヤ。私はサクヤの背中をバシッと叩きながら小さい声で囁いた。

「ほら! 今しかないって! サッサと謝ってきなよ!」
「え? えええ……って、でも。何て言えば……」

 言うこと為すこと突飛押しないくせに、こういうときばっかと豆腐メンタルなんだから。

「夜景っつったら……「この夜景より君の瞳の方がキレイだよ」、「君の瞳に乾杯」、「君の瞳は1万ボルト、地上に降りた最後の天使(by堀内孝雄)だ」、みたいなこといえば、キューン!、キャー!、スキー! ってなるんじゃない?」

「古!!」

 ……コイツは。無意識なんだろうが、こっちの怒りのツボを的確にグイグイグイと刺激してきやがる。

「ネタがわかってる時点であんたも同穴貉じゃ! さっさと行け!」
「ゲフ!」

 ヤツの薄い背中を突き飛ばすと、サクヤはアーミーの隣の手すりに激突した。びっくりしたアーミーがサクヤを見上げる。

「アーミー。あのさあ……」

 サクヤは頭を掻きつつ、しばらくためらってたみたいだけど。

「さっきはその、ごめん!!」

 おー! 深ーく頭を下げて謝った。やればできるじゃん!

「なんかオレ、キミに出会った時からアーミーのことしか見ていないんだけど、その。なんか信じてもらえないし。実際ムネのデカさなんかどうでもいいんだ。ただアーミーの気を引きたくってさ。イジワルしたくなって。嫌な思いさせてごめん!」

 顔を上げる。

「でも……怒ってくれて、ヤキモチかなって、ちょっとうれしかった」

 小さくため息をつくアーミー。はぁ、いい年してやる事が小学生男子と同じなんだから。まあ、アーミーも鈍感だからなあ。サクヤの気持ちもわかるけどねえ。しょうがないっちゃ、しょうがないんだけど。

「キミと一緒だと、こんなすげえ景色や冒険が味わえる。普通じゃお目にかかれないとんでもない仕掛けのダンジョンとかさ! イイカンジの出会いもあるし……。オレ、アーミーでなきゃダメなんだ。でもかといって危険な目に合わせたい訳じゃない! そこは絶対、キミを守ろうって決めてるし」

 うんうん。いい事言うじゃん!

「私もサクヤ会えて色々な冒険ができた事、様々な出会いに恵まれた事、すごく感謝してるんだ。あなたにケガさせたくないのは私も同じ。だから一緒に力をあわせて頑張ろう!」

 アーミーはそう言ってニッコリとサクヤを見上げて微笑みかける。

「サクヤ、あのね。……いつも隣にいてくれて、ありがとう。でも、もう、ああいうのは、やめてよね!」

 少しほっぺを膨らませて怒ったふりをして、そっと右手を差し出した。

「これからも、よろしくね!」「おう」

 サクヤも手を差し伸べ、二人はそっと手を繋いだ。そのまま夜景を静かに見下ろす若人たち。

 物語の世界に戻ったら忘れちゃうかもしれないけれど、実際のところなんだかんだあっても、あの二人は仲良しなのよね。だからきっと私がいなくても仲直りできるはず! 頑張れサクヤ! 少しは奴に優しくしてあげるのだよ、アーミー!


 ……それはそうと。


 ぐうううう。はぁあああ! 悶えるわああ。萌えるわああああ。いいなぁあ。若さっていいなぁああ! 青春いいなぁああ。まぶしいいいいなぁああ! 私も若返りたい! エッセイで年齢偽ったりして召喚したら若い作者が召喚されるのかな?


 ……って、自分若返ってないから、意味ないか……。はぁ。


「んじゃ、とりあえず終わったし帰ろう! 桜来と、和音誘って、別作品のキャラ呼び出して。レトやラーテルさんも、全員呼んでさ! 敬老の滝あたりでみんなで打ち上げしよう!」

 私はしばらくして、青春を満喫した男女2名の肩をポンっと叩いてそう言った。

「え!? でも私、お酒とか……」

 アーミーが困った顔で私を振り返る。そのまま私はサクヤを見上げる。

「サクヤ、あんた20歳って設定だから、代わりに飲んで」

「え!? ちょっと待て、オレ18歳じゃなかった!?」

「今、書きかえておくから」

「え!? おい! おばさんちょっと!」

 お、おばさん!? もーー我慢ならん!! 私は手にしたネタメモ用のジャポニカ学習帳を投げ捨て、サクヤに飛びかかる。

「だからさっきからずっと女神様だつってんでしょうが!! 聞けや人の話!」
「イテテテ! ちょっ、ダメ! て、手すり! お、おぢるううう」
「神様やめてくださいー! サクヤが、落ちちゃいますううう!」

 私たち3人の声が満天の星空いっぱいに響き渡る。

 マグマク島の陽はまだ落ちたばかり。夜は……いや、真のお楽しみは、まだまだこれからだ……!!


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