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大判焼と絵と言葉|智頭町滞在期②

現在私は『遊ぶ広報』のプログラムで、鳥取県智頭町に13泊14日しています。このnoteではそんな遊ぶような旅の記録を残していきます!

滞在の目的・やることはこちら

智頭町に到着して2日目。旅の疲れも少し取れて、宿泊中のゲストハウス楽之にも少しずつ慣れてきたこの頃、まちをふらふらしていると、なんとも味のある大判焼屋さんに出会った。

「営業中」の横のドアを開けるの、一見さんだとかなり躊躇いが……

けれど、昼食をとったばかりで正直お腹は空いていない。そしてこの時の外は大変な暑さ。一刻も早くゲストハウスに戻ろうと必死こいて歩いている中出会った店がこの、大判焼屋さんだった。ちなみに、少しトイレも急いでいた。

滞在は長いし、写真だけ撮って明日改めるのでもいいかな……とも思ったが、「大判焼」の旗の裏のホワイトボードに書かれた休業日が、この店に入る決定打になった。

明日、明後日、そして20日もお休みのようだった。

行くしかない、行け!

意を決して、「営業中」の赤い札がかかった軽い扉を引いた。

「夏は暇だから」と言ってご主人が描いた絵と言葉たち

「いらっしゃい」

6畳ほどの狭いスペースの奥に、店主のおじいさんは座っていた。大判焼の台の前ではなく、無数に荷物の積み上がったテーブルの向かいの椅子に、扉と向かい合わせになるように座っていたのだ。大判焼は、どこにもない。

「ええっと……クリームをひとつ……」
「はい、クリームね」

ご主人はよいしょと椅子から立ち上がり、会計の棚の下から大判焼を取り出した。どこにも見当たらなかった大判焼は、全種類きっちりそこにしまわれていた。

「観光?何日いるの?」
「実は2週間おりまして……」
「2週間?!どうしてそんなに?!」

智頭町が『遊ぶ広報』の場所に選ばれてから、私がおそらく初めての滞在。こういう取り組み自体がきっと初めてなのだろう、ご主人は大変驚いていた。
そこから「それ、すぐ食べる?」と訊かれて、「ここで食べてきな」と待合用の椅子に座らせてもらった。クーラーがよく効いていて、心地よかった。

「この店は長くやってらっしゃるんですか?」と訊ねると、「40年くらいかな。姉がやってたんだけど、脳梗塞で倒れてね」と、ご主人はこの店を守る経緯をお話ししてくれた。「姉が倒れてからお店はやめようと思ったんだけど、『続けてほしい』って地元の人からのリクエストがあってね」

私がこうして店内でお話している間にも、この暑さにも関わらず2、3名の地元民が顔を出した。大判焼は文字通り大きくて分厚くて、食べ応えがある。「季節限定の栗味も、地元の人のリクエストでね……本当にもう、リクエストばっかだよ……」嬉しそうでも悲しそうでもないご主人には「やれやれ」という言葉がぴったりだった。


「夏は暑いから、こういうのは売れないでしょう。でも暇だからって寝てるわけにもいかないから、こうして絵描いてる」
そうしてご主人が指したのは、壁に貼られている無数の色紙だった。

「え、これ全部ご主人が描かれたんですか?!」
「時間があれば誰でも描ける」

素人が描いたとは思えない絵と字のクオリティに、ただただ驚いてしまった。これが暇つぶしとは……。

「あなたの後ろに、鯉の絵があるでしょう。それ、文字になっているんだよ」

少し離れて、目を細めてじっと絵を見る。
「恋……目……?」

「目は英語でeyeって言うでしょう。『恋eye』、『レンアイ』って読む」
「……すごい!ロマンチック!」
「こういうのも書くんだよ」

そこからご主人とはいろいろな話をした。
「人間はみんな最後は自給自足の生活をしたがる」と、智頭町に移住する人のことを話したり、男女平等参画社会をはじめとする男女平等の問題、教育の問題……。

複雑な問題に対して、現代の問題も交えながら自分の意見を語れるところに、ただすごいと思った。ボーッと生きている場合じゃない。


大判焼を食べ終えて「ゆっくりさせてもらって、ありがとうございました」と締めると、「2週間もいるんだから、優しい人もいなきゃね」とご主人は笑った。明日と明後日の休業日は、稲刈りをするようだ。

「また来ます」

小さな約束を交わして、年季の入ったお店を後にした。
トイレのことはすっかり忘れていた。

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