【コロナ禍における】スポーツクラブのスポンサーセールスのやり方

はじめに

2020年8月末でJ2所属FC琉球の運営会社である琉球フットボールクラブ株式会社を退職し、2カ月が経過しました。時間の経過はあっという間に過ぎていきます。そしてこれまでフロントスタッフ向け・選手向け・サポーター向けに3本のNOTEを投稿させていただきました。

今回はこのNOTEで、【コロナ禍における】スポーツクラブのスポンサーセールスのやり方と題して、より具体的なアクションについてまとめてみようと思います。

これまで心構えや概念的な考え方については述べてきました。それについてはこちらをご覧ください。

Jリーグによると、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、2020年度決算は全56クラブの約4割が債務超過、約8割が赤字になるとの見通しです。このNOTEがそんなクラブの見通し改善に少しでも役に立ってくれればと思って書かせていただきました。

僕自身、今はクラブの経営というスポーツビジネスの第一線からは退いてはいますが、「批評家」になるつもりはなく、むしろ自分だったらどう経営するのか、どうアクションするのかを常に考えるようにしています。

それでは、本題に入ります。

▼目次
1.全てはゴールデンサークル
2.時代の流れ
3.セールスの心構え
4.既存企業のマネジメント
5.新規企業へのアプローチ

1.全てはゴールデンサークル

基本的な僕の考え方は、このゴールデンサークル理論に基づいています。百聞は一見に如かずなので、こちらを必ずみてください。

このゴールデンサークル理論は、「why・how・whatの3つの円で構成されていて、物事の本質を説明するためのフレーム」です。結論からいうと、「人は、何を(what)ではなく、なぜ(why)に心を動かされる」ということがこのフレームの全てを表しています。

ここでは、Appleやキング牧師、ライト兄弟が成功したのか、この動画ではその共通点が紹介されています。

どんな人でも、自分が「what:何を」しているのかは理解しています。そしてある程度までは「how:どうやって」やるのかまでは理解しています。しかし「why:なぜ」やるのかを理解している人は少ないということです。

People don’t buy what you do; they buy why you do it.
(人は「何を」ではなく「なぜ」に動かされるのです。)


そして、ここでスポーツクラブで働く皆様に質問です。

スポーツクラブでどんな仕事をしていますか?

チケッティングの仕事、広報の仕事、グッズの仕事、運営の仕事。こんな答えが返ってくることが予想できます。これらのことはゴールデンサークルでいう一番外側にある「what:何を」です。みんな自分たちが「what:何を」しているのかは理解しています。


それでは、もう一度スポーツクラブで働く皆様に質問です。

なぜ、その仕事をしていますか?

ここで、どんな答えが返ってくるのでしょうか。「クラブの売上に貢献するため。」「クラブを多くの人に知ってもらうため。」「J1に昇格するため」こんな答えが出てくるかもしれません。しかし会社の利益はあくまで事業の結果であり、「why:なぜ」やるのかではないのです。そうです。意外とこれが浸透していないケースが多くあるのです。

結論から言うと、「why:なぜ」はクラブの存在意義です。クラブがその地域に存在する意義のために、これらの仕事(チケッティングの仕事、広報の仕事、グッズの仕事、運営の仕事)をやっているのです。

まず根っことして、理解するべきなのは、スポーツクラブは “商品”や”広告” を売るのではなく、“クラブの「理念」への強い共感” を売っています。だからこそ、クラブの目指す世界観であったり、目指す矢印は、理念という表現でセールスマンが語れないと相手には伝わりません。

ここまでは、スポーツクラブにおけるスポンサーセールスにおける前提です。これを前提としたうえで、今回のNOTEでは次に問題として出てくる「how:どうやって」「what:何を」にフォーカスを当てています。

■前提
スポーツクラブにおけるスポンサーセールスは、“商品”や”広告” を売るのではなく、“クラブの「理念」への強い共感” を売っています。

2.時代の流れ

これまでゴールデンサークルで言うところの「why・how・whatの3つの円」についてお話ししてきましたが、この中で絶対的に不変なものは何でしょうか。それは言うまでもなく、「why:なぜ」クラブの存在意義です。

一方で、それ以外の「how:どうやって」「what:何を」については不変である必要はありません。むしろ企業が毎年、同じ商品(what:何を)を同じやり方(how:どうやって)で提供することがあるでしょうか。まずありえません。そこにはこの章のタイトルでもあるように時代の流れがあります。いうなれば、マーケット環境の変化です。

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しかし、スポーツクラブにおけるスポンサーセールスは、ずっとこの時代の流れを受けずに不変でした。乱暴な言葉でわかりやすく説明すると、クラブの商品はずっと「スタジアム看板」で、スタジアムに看板掲載することで企業名がテレビやメディアへの露出する時間を広告価値として提供していました。

ここ2,3年のスポンサーセールスの資料を見比べてみてください。おそらくほとんどのクラブが過去の成績に多少手を加える程度なのではないでしょうか。それもそのはずで、これまでJリーグは「時代の流れ」の影響を受けてこなかったからだと僕は思っています。

ITは、例えばプログラムを一生懸命覚えても、どんどん新しいものが増えていきますし、1年前まで主流だったものが、今年はもう時代遅れという業界です。今、大手IT企業と言われている会社も10年後にはどうなっているか分かりません。一方、スポーツは10年単位で見てもほとんどルールは変わっていないですし、この先もスポーツが世界から無くなることはないでしょう。

これはスポーツにおける利点でした。スポーツは身体性があり、血の通った人間がエネルギーを発散させる方法として、テレビゲームや携帯ゲームは十分ではない中で、スポーツで体を動かしたり、スポーツ観戦などで日頃のうっぷんを晴らしたりすることが人間の本質だからです。

ただこれはスポーツにおける利点でしたが、スポーツビジネスにおける利点とはまたズレてきています。だからこそ、「why:なぜ」クラブの存在意義をブラさずに、「how:どうやって」「what:何を」を時代に合わせて調整していくことが求められています。

もう少し具体的な例を用いて、ご紹介します。

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僕の尊敬する経営者であり、V・ファーレン長崎の代表も務められた高田明さんの話です。彼が創業者でもある「ジャパネットたかた」は元々カメラ販売店だったことを皆さんご存知でしょうか。

「顧客満足主義」と「自前主義」を貫き、どんなときでもお客様を想像しお客様に喜んでいただけるよう取り組むことを理念としています。

彼らは、この理念をブラすことなく、一方で自分たちの扱う商品を少しずつ時代の潮流、お客様に喜んでもらえるものという視点で形態を変えていきました。だからこそ、元々温泉などの団体旅行に赴き、写真を撮って翌日に現像し、販売するというカメラ屋さんの仕事からこれだけ大きな会社に成長していきました。

しかし何度も言いますが、変わっていないのは、「顧客満足主義」と「自前主義」を貫いていることです。「why:なぜ」企業の存在意義は不変なのです。一方で、それ以外の「how:どうやって」「what:何を」については不変である必要はありません。

3.セールスの心構え

ここまでしつこいくらいに、セールスにいく前提としての話を書いてきました。それくらいクラブの存在意義は大事です。なぜならば、

People don’t buy what you do; they buy why you do it.
(人は「何を」ではなく「なぜ」に動かされるのです。)

これを理解したうえで、いよいよ「how:どうやって」「what:何を」にフォーカスを当てていきます。でもその前にまずこちらを見てください。

まだセールスに行く前の理解しておかなければいけないことがあります。それは現在のクラブの立ち位置です。ここでは、クラブの認知度と好感度という書き方をしました。

スポーツクラブで働いている人、特にメジャー競技におけるプロスポーツの認知度はそれ相応にあります。J2でさえ地域に行けば、かなりの知名度を誇り、名刺を出して、そのまま突き返されることなんてほとんどありません。でもはっきり言います。「それはただ名前を知られているだけ」で、関心が高いということとイコールにはなっていないのです。

しかし、僕の経験から感じたことはスポーツクラブで働く人間の前提は、こちらの認知度を基にしたケースが多いのではないでしょうか。言葉を選ばずに言うと「偉そう」な態度です。実際は会社の規模や事業内容もその認知度に追いついていません。だからこそ、認知度だけが先行している会社なんだと自覚しなければいけません。

むしろベンチャー企業などは認知度がない中で、どう認知度を高めることができるかについて必死に思考を巡らせ、トライ&エラーを行っています。一方でスポーツクラブはこの認知度の高さに対して、これまで事業を組み立てていくことをおろそかにしていたのではないかと思います。

だからこそ、今回のNOTEの軸はこの事業面での強化ということが話の中心になります。認知度が高いということは言うなれば、ポジティブ材料でしかありません。しかしこれがボトルネックになっている、僕は2年間と短い期間しかクラブ経営に関わっていませんが、本質はここにあるのではないかと思っています。

証券会社のリテール営業の新人たちが、「二度と来るな」とお客様に突き返されながらも、何とか関係を構築し、信頼関係を作っている。その一方でスポーツクラブのセールスは基本的に「話を聞いてくれる」環境の中で営業している。どちらがタフに育っていくでしょうか。答えは一目瞭然です。

4.既存企業のマネジメント

「クラブの存在意義」「セールスとしての心構え」について、しつこく書いてきましたが、ようやく本題に入ります。【コロナ禍における】スポーツクラブのスポンサーセールスにおいて、最優先事項は既存協賛企業のマネジメントです。継続して、来年度以降も協賛していただけるように交渉しなくてはなりません。

コロナ禍の影響をもろに受けているのは、何もスポーツクラブだけではありません。これまで協賛してくれていた企業も当然のように経営に影響を受けています。その上で、来年も同じように協賛してくれるかどうかは当たり前の話ではありません。だからこそ早くその話を、然るべき人としなければいけません。

前章では、「これまで事業をおろそかにしていた」と書きましたが、実はすでに協賛してくれている既存企業の皆様はクラブに対しての答えを持っています。それはクラブ自身でも気づいていない、見えていなかった「クラブの魅力」です。クラブに対して、魅力を感じているからこそ協賛してくれているので、そこを徹底的に分析します。

なので、既存企業のマネジメントについてすべきことは大きく2つです。

■来年度以降の協賛継続の確認
■協賛してくれている理由の明文化

来年度以降の協賛継続の確認

正直僕はこれについて5分で決着をつけるべき話だと思っています。しかし大事なのは企業における意思決定者との関係性です。「どれだけの話ができる間柄」かどうかがポイントです。すでに関係ができている状態であれば、コロナ禍で受けたインパクト、来年度以降の協賛に対してのスタンスは聞けるはずです。セールスの人間が自問してほしいのは、それを聞けるかどうかです。

今の時点で、それを聞けないのであれば、既存企業については「聞ける間柄」になる必要があります。それについては、自分のNOTEをゴリ押しする形になってしまい、恐縮ですが、こちらを見てください。

意思決定者を見極め、その企業に色々教えてくれる仲間を見つけ、何度も足を運び、従業員の実際に働いている息遣いを感じ、自分のことを知ってもらうのです。

試合の度に、広報が作る試合結果を送るのではなく、自分なりの感想を加えたり、選手について自分なりのコメントをお客様に送ったり、試合に来てもらって、スタジアムを案内してもいいですし、近くを通ったら必ず顔を出すとか、方法はいくらでもあります。

既存企業のマネジメントに時間をかけている暇はありません。それくらい全56クラブの約4割が債務超過、約8割が赤字という事態はひっ迫しています。だからこそ、普段からどれだけの関係性を作れているかどうかが問われるのです。

個人的な印象だと、ここに無駄な時間と労力を割くあまり、肝心な新規企業にアプローチする時間を取れていないのではないかとも思っています。もちろんこれまで支えてくれている既存企業に対して、時間と労力を惜しむ必要はありません。ここで僕が伝えたいのは「無駄な」時間と労力の話です。

関係性があれば、適切な話を、適切な人間にすることで圧倒的に無駄を省けるのです。時間と人がいない環境ならば、尚更無駄を省き、徹底的に効率を上げていかなければ会社は生きていけないのです。

■直面している現実
全56クラブの約4割が債務超過、約8割が赤字

■協賛してくれている理由の明文化

これは次の章でお話しする新規企業へのアプローチにもつながる重要な作業だと思っています。現時点での「これまでのクラブ」のどこを評価してもらっているのかを、自分たちで把握することは「これからのクラブ」を考えるうえで、色々なきっかけになる場合があります。

これは、既存企業のマネジメントという面から考えると、「来年度以降の協賛を逃さない」ということにもつながると思っています。既存企業が協賛してくれている理由を「クラブが体現する」ことで、より関係性は強固なものになってきます。

後により詳細に書きますが、僕が経営者の立場だったら、「これまでのクラブ」のどこを評価してもらっているのか「SDGsの17項目」に大きく分類し、どの項目としてクラブが企業側に見られているのかを徹底的に分析します。

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もちろんスポーツクラブですが、クラブの存在意義を振り返ってみた時に社会に貢献し、地域に愛されることで初めて存在が認められる会社だと思います。

そして時代の潮流として、大きくSDGsが扱われています。日経新聞には毎日のようにSDGsにまつわるセミナーの案内が広告されており、ESG投資などの関心も含めて、企業の注目度は高いです。

ちなみにSDGsとは、
持続可能な開発目標(SDGs)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。 SDGsは発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり,日本としても積極的に取り組んでいます。

例えば、昨年度FC琉球時代にパートナーとして関わっていただいたJICA沖縄ではコロンビアからの留学生をお招きして、サッカーを通じた平和学習を行いました。スポーツというルールのある中で、ルールを守りながら競技することの大切さを、ルールのない戦争を経験している彼らと共に、学ぶ場になりました。

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これはSDGsの項目でいうところの、「16平和と公正をすべての人に」「17パートナーシップで目標を達成しよう」に該当します。こういった形で、これまで協賛してくれている企業が、クラブ側を評価してくれている項目を分類していきます。

既存企業について、全て分類が終わった時にどの項目が突出しているのかを把握してみると、おそらく17項目で見た中で、クラブがどのように評価され、見られているのかを理解できるようになります。

皆様のクラブはどう見られていますか?それがわかったところで、今後のクラブの命運を握るであろう新規企業へのアプローチに移っていきます。

5.新規企業へのアプローチ

ついにここまで辿り着きました。直面している現実が、全56クラブの約4割が債務超過、約8割が赤字である以上、新規企業へのアプローチをせずして、この事態は回避できません。

セールスは気合と根性でなんとかすると思われがちですが、やはり仕事である以上、科学的に取り組まない限り、全ての出来事がまぐれになってしまいます。もちろん気合いと根性は大切です。むしろそれは、もはや当たり前です。

この章では、どうセールスに取り組み、再現性を高めながら、契約を勝ち取っていくかについてまとめさせていただきました。

営業成績を簡単な数式にしてみます。

1日訪問7件×5日営業日/週×4週/月=140件/月
140件/月×12月=1680件/年
1680件/年×成約率??%=「営業成績」

1日7件訪問したとして、週に5営業日とすると年間で1680件回ることができます。そのうち何%がパートナー企業としてなってくれるのかはわかりませんが、この成約率によって「営業成績」が決まります。つまり1日7件訪問とすると営業成績が1680件を超えることはありません。

個人的な経験から言うと、質と量を保ちながら、1日で回れる件数は7件が限界かなと僕は思っています。(※あくまで僕の感覚です。)

こうなってくると、考えなければならないのは2つの視点からのアプローチです。訪問できる件数をどれだけ確保できるか、いわゆる「量」の視点です。次に考えるのはこの成約率をいかに100%に近づけるのか、いわゆる「質」の視点です。

スポーツクラブは慢性的に人手不足です。平日開催のホームゲームがあれば、当然ながら駆り出され、その日はセールスに回っているはずの時間が無くなってきます。年間240日間しか営業日はない中で、他部署に駆り出されている時間で、その1日が失われていくのです。その感覚はありますか?

どうやって営業にだけ集中する環境を作るのか?これはもはや個人には委ねられている領域ではありません。クラブの方針として、前日準備から片付けまで全社員でやるという方針であれば、従うほかありません。それはクラブの方針なのですから。

では、セールスマン自身で改善し、解決できるところはなんでしょうか。それは「質」の視点です。成約率をあげることにより、営業成績をあげるのです。これは自分自身の努力と戦略によっていかようにも改善することができるはずです。

この章のタイトルにもある「新規企業へのアプローチ」については、この「質」の視点から考えていきます。僕は2通りの手法があると考えています。それは以下の2つです。

■徹底的にもらうことに特化する
■事業を共に構築し、レベニューシェアをする

■徹底的にもらうことに特化する

これについては、言葉を考えましたが思いつかず、あえてそのまま書きました。そうです。徹底的にもらうことに特化します。言い方を変えると企業側として、気持ちよく協賛できるような土壌をクラブが用意するということです。

前章で、「これまでのクラブ」のどこを評価してもらっているのか「SDGsの17項目」に大きく分類しました。これは企業側がクラブに求めていることの答えのようなものです。それならば企業側が求めていること、そして時代の潮流であるSDGsというものに沿って、徹底的に体現していきます。

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ただ、これを実行する上でさらに重要になってくるのは、「地域が何を求めているのか?」です。だからこそ、企業側が求めているもの、地域が求めているものを4項目くらいに抽出して、クラブが何に取り組むのかを明確化させる必要があります。

少し例を用いて、説明します。

これはオリオンビールの社会貢献活動にまつわる宣言です。「人を、場を、世界を、笑顔に。」というミッションを掲げ、活動の柱として、沖縄県の重要課題である首里城再建のほか、SDGsに沿った社会貢献活動を、オリオンとして軸を定め、活動を展開しています。

■もっと教育を、ずっと。(SDGs目標4*)
■もっと技術革新を、ずっと。(SDGs目標9,12)
■もっと美ら海を、ずっと。(SDGs目標14)

徹底的に地域からの声を聞き続け、求められているものを明文化しています。彼らにとってのお客様は沖縄県民であり、県民から愛され、必要とされる存在を目指していくという意思表示に近いものがあります。

また自分のNOTEの紹介のようで恐縮ですが、クラブにとってのお客様は誰なのかと問われたときに、どう答えるでしょうか。

スポーツクラブにおけるお客様は、その地域に住む人々

僕はこう考えています。そうです。だからこそ、あくまで答えは地域に転がっていて、クラブ側の人間が机上の上で考え付くものではないのです。

クラブの尖らせるべきSDGsにおける項目がはっきりしたところで、徹底的にホームタウン活動やクラブの発信するメッセージを抽出したSDGsの項目に沿って、明確化させていきます。冒頭に述べたように、ここでは「徹底的にもらうことに特化する」ことをイメージし、企業側が協賛しやすいモチベーションをクラブ側で際立たせるのです。

しかしさっきも書きましたが、クラブ側の人間が机上の上で適当に考え付いたものでは何も変わりません。徹底的に既存企業について考えぬき、地域におりてもがいた結果です。そうしてクラブが立てた仮説は検証する価値があるのです。

「徹底的にもらうことに特化する」ことをイメージし、企業側が協賛しやすいモチベーションをクラブ側で際立たせる。

■事業を共に構築し、レベニューシェアをする

2つ目の視点は、パートナー企業と共に事業を作り、収益機会をシェアしていくというやり方です。シンプルにパートナー企業もクラブに協賛してばかりで、自らの企業にとって投資価値がなければ、マーケット環境の悪化と共に協賛から身を引かなくてはいけません。

だからこそ、クラブの活動を通してできることで、パートナー企業にとっても収益があがりそうな事業を共に構築していきます。これでwin-winの関係を作るのです。

ただこれも個人的な感覚ですが、スポーツクラブで働く人間にとってこの領域は最も苦手な分野な気がしてなりません。スポーツクラブで働くということは、年間ほぼ決まったスケジュールの中で、ほぼ決まった動きをすることを毎年繰り返していくというルーティンワークなので、基本的に新しいことにチャレンジしていくという発想よりも、リスクをとらずに「前年踏襲でいきたい」というカルチャーが育っています。

なので、共に事業を作っていくという発想より、もらうものを先にもらっておいて、どこか他のクラブが先に手を付け始め、一般化したタイミングで取り組みたいという発想が根底にあるような気がしています。

これも例を用いて、説明します。

スポーツクラブのHPは、同規模の企業と比べると圧倒的なアクセス数やPV数を誇ります。日々アップデートされる選手情報や試合情報がファンサポーターに追いかけられているからです。例えば、これに目を付けたWebコンテンツ制作事業会社がいたとします。

そんなWebコンテンツ制作事業会社とクラブでできる事業を考えます。また地域の課題として、企業側が困っている課題は「リクルーティングで良い学生に来てもらいたい」だった場合、何ができるでしょうか。

これは一例ではありますが、クラブの公式HPに独自のリクルーティングフォーマットを準備するのもありなのではないでしょうか?Webコンテンツ制作事業会社のノウハウがあれば、そこまで労力はかかりません。そしてそこに企業側の採用情報などを掲載してもらい、企業側からもらう月額料金をクラブとWebコンテンツ制作事業会社でシェアすればいいのです。

もう一度言います。これはスポーツクラブに苦手な領域です。なぜならば、これまでやったことのない、前年にない取り組みだからです。しかしトライしなければ、成功はありません。そして「直面している現実が、全56クラブの約4割が債務超過、約8割が赤字」この緊急事態は乗り越えることができません。

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僕が直接聞いた話ではありませんが、オシムチルドレンとして大活躍をされた羽生直剛さんに聞いたオシム監督の話です。

『成功を掴むにはリスクを冒せ』ともよく言われました。ゴールを奪うためには、リスクを伴いますよね。オシムさんには、チャンスだと思ったら、自分の持ち場から離れてもいい、センターバックが持ち上がってもいい、誰でも行っていいぞと言われていました。チャレンジしていい、リスクを冒していい、それと引き換えにゴールを奪えと。もちろん、闇雲ではなくて、状況やタイミングを考えろというのが前提でしたけれど。『人生も同じで、成功するには、腹をくくってチャレンジしなきゃいけないぞ』と教わりました」

ついにフロントスタッフにも、腹をくくってチャレンジするタイミングが来たのです。リスクを冒して、成功をつかみに行くときです。

おわりに

今回のNOTEでは、より具体的なアクションということで「how:どうやって」「what:何を」にフォーカスを当てて書いてみました。もちろんこれに正解はないですし、地域性もあるので何事もやってみないとわかりません。

しかし今のJリーグの現状はどうでしょうか?どこかのクラブがコロナ禍を脱出するために行った投げ銭(ギフティング)、クラウドファンディングなどがほぼ横一線で行われています。その理由を紐解いていくいくと、「他クラブが成功したから、うちもやってみよう」に行きつくのではないでしょうか。

今見なければいけないのは、横で他のクラブがなにをやっているのかではなく、自分たちを支えてくれている既存企業、地域の声、そしてクラブに何ができるかということなのではないでしょうか。

初めてもろに時代の負のインパクトを受けたJリーグならびにJクラブがよりたくましく、強く生き抜くためには働く人間の強い意志が必要です。このNOTEが少しでも多くの方のお役に立てればと思っております。

長文にわたり、お付き合いいただきありがとうございました。それでは。どこかでお会いできることを楽しみにしています。

三上昴

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