【30分で読める】プロスポーツクラブにおけるサポーターの存在
はじめに
僕は2018年11月から2年弱にわたって、J2クラブの経営に関わり、マネジメント側からクラブを見てきました。2020年8月末にクラブを退職してからは、フロントスタッフ向け・スポーツ選手向けに2本のNOTEを投稿させていただきましたが、今回は「プロスポーツクラブにおけるサポーターの存在」をテーマに書いてみようと思っています。
「サッカーの仕事がしたい」と前職で勤めていた証券会社を辞めて、当時J2昇格を決めたばかりのFC琉球のフロントスタッフの一員として働くことを決めました。しかし、そこで待っていたのは、サッカーの仕事以上と思える情熱的な仕事でした。
学生時代に好きでハマっていた「サカつく」というゲームですが、実際に似たような立場で仕事をして、思うのは、Jクラブの場合は「街つく」の方が近いということです。クラブは、地域に愛され、地域のシンボルになり、街の象徴となる存在を目指すのです。
そしてクラブには非常に多くのかかわり方があるということも学びました。選手・監督・コーチ・育成部門・クラブスタッフなどはいわゆるクラブ側の人間であり、パートナー企業、株主、そしてファンサポーターの方々です。
これまでスタッフや選手の目線でNOTEを書いてきましたが、【30分で読める】プロスポーツクラブにおけるサポーターの存在では、スポーツ界の熱量をさらに広げていくためにも必要な考え方になるのではないかと感じ、初めてサポーターの立場で書いてみようと思います。
それでは本題に入っていきましょう。
▼目次
1. クラブにとってのお客様はだれなのか?
2. サポーターの存在
3. 勝敗を超える
4. 作品を共に作り上げる仲間
5. サポーターの仕事
6.
1. クラブにとってのお客様はだれなのか?
まず、皆様ファンベースという考え方をご存知でしょうか。
ファンベースとは
ファンを大切にし、ファンをベースにして、中長期的に売上や事業価値を高める考え方です。
企業やブランドが大切にしている価値を支持してくれるのがファンであり、ファンベースはファンの共感・愛着・信頼を増やし共に未来の価値を創出していきます。
そして、ファンは売上の大半を支え、伸ばしてくれます。多くの小売、BtoBでは、ファン上位20%が売上の80%を支えているという、パレートの法則が適用されます。また、「より熱量の高いファン(コアファン)」が30%から40%の売上を支えていることがわかっています。
これだけを見ると、スポーツクラブにおけるファン、そしてコアファンとはゴール裏で休むこともなく声を上げ、どんな時でも声援を送り続けるサポーター集団であると考えると思います。実際に僕もそう思っていました。でも今は少し異なる見解を持っています。
サッカークラブとは言え、運営しているのは基本的に株式会社であることが多く、本来的に利益を得ることを目的として設立されたものであるため、売上や事業価値を高める必要があります。
そして商売の原点は、「お客様のために」あると思っています。
ユニクロの柳井さんにしても、著書で以下のように書かれています。
「会社は誰のためのものなのか」と聞かれたら、「お客様のため」というのが本質です。MBAの教科書では「株主のため」と書いてあるかもしれませんが、本末転倒です。
では、スポーツクラブにおけるお客様は一体、誰を差すのでしょうか。ここが意外とわかっているようで、わかりきれていないポイントなのではないかと思っています。
ここで再び重要になるのが、これまでしつこく繰り返してきたクラブの存在意義なのです。
根っことして、理解するべきなのは、クラブは “商品”や”広告”を売るのではなく、“クラブの「理念」への強い共感” を売っているということ。
僕の考えるクラブ理念は、スポーツクラブを超えて地域のシンボルになるためのものです。その地域にクラブがある意味は何でしょうか。そこには勝敗を超えた価値があります。
ここまでで、なんとなく理解された方もいると思います。このクラブ理念を実現することでハッピーになるのは、そして地域のシンボルを求めているのは、サポーターではなく、そこに住む地域の人達(もちろんサポーターも含まれる場合もある)なのではないでしょうか。
だからこそ、明確に定義するとスポーツクラブにおけるお客様は、その地域に住む人々なのです。阪神タイガースにとってのお客様は、甲子園に応援に駆け付ける人ではなく、関西人全体であるのと同じだと思っています。
もう一つ言えることは、ゴール裏で声援を送るサポーターはすでにファンの域を超えている存在なのです。つまりクラブ側の人間になっているということです。これはこれから詳しく説明します。
■定義
スポーツクラブにおけるお客様は、その地域に住む人々
2. サポーターの存在
こうなってくると、クラブとして見つめるものは比較的シンプルになってきます。「お客様はどう思っているの?地域の人達は喜ぶの?」ということだけです。
誤解を恐れずに言うと、ファンサポーター特にコアであればコアであるほど、クラブへの共感よりも競技寄りになっていく傾向があるということがあります。つまり勝敗に対しての感情の比重が強く、勝てば喜び、負ければ怒るというシンプルな感情で動いています。「強いチームを作ること」や「優勝して結果を出すこと」はもちろん大事ですが、それ以上に大事なことはクラブがそこに存在する意義です。
僕はファンサポーターの皆様は、存在としては同じベクトル(理念)を目指す仲間であるという認識です。お客様というより、大切にしあう価値を共有し、喜び合う仲間なのです。
これは北海道コンサドーレ札幌の一例です。
ここで野々村社長は以下のようにコメントしています。
「強いという価値基準だけでサッカーを見たいのであれば、テレビでFCバルセロナの試合をずっと見ていたらいい。でも、サッカーは水戸黄門のドラマとは違い、勝って溜飲を下げる以外の楽しみがあります。地域のみんなと一緒にいいチームをつくっていく楽しみです」。
野々村は「1万人のファンはコンサドーレの社員のようなもの」と公言し、積極的にファンの前に出ていき、チームの経営状態を説明していった。
この写真は、「債務超過に陥ったコンサドーレを助けてくれているスポンサーへのお礼」としてサポーターたちが自主的に掲げた横断幕だそうです。サポーター、企業、スタジアムを巻き込んだこの写真が脳裏に焼き付いて離れません。
そうです。サポーターは、クラブにとってのお客様ではなく、クラブの一員なのです。大切にしあう価値を共有し、喜び合う仲間なのです。サッカーの世界では、サポーターは12番目の選手という表現をしますが、至極理にかなった表現であると考えています。まさにその通りです。
サポーターは、クラブにとってのお客様ではなく、クラブの一員なのです。
3. 勝敗を超える
実はこう思うようになったきっかけがあります。
色々なクラブでフロントスタッフとして働かれている皆様とお話しをさせていただいた際に、勝敗により受けるインパクトが大きいという話がありました。つまり負けた試合の後では、同じものを発信しても、勝った試合の後に発信するのでは反応が大きく異なるということです。
さらにもう一つ考えさせられたきっかけは、FC琉球に所属する田中恵太選手です。彼は今年の自粛期間あたりからyoutubeでVLOGなどを通して、自身のサッカーへの取り組みなどを発信するようになりました。
多くの選手たちが、自粛期間中に精力的に上げていたSNSもシーズンが再開するようになってからは、なかなか発信できなくなっている中で、彼は試合に勝っても負けても頻度を維持して、アップし続けています。
そんな彼に、頻度を維持して、アップできる理由について質問をしたことがあります。そうすると、
FC琉球のサポーターに向けてというよりは、サッカー選手としての生活を見てもらって、自分自身やクラブに対して少しでも多くの人に興味を持ってもらいたいと思って、アップしている。
という答えが返ってきました。僕には、これまでなかった感覚だったので少し驚きましたが、だからこそ彼は負けた試合の後でも維持することができたのかと感心しました。
通常の心理で、クラブにとってのお客様、そして選手にとってのお客様が、サポーターであるという認識のまま行くと、負け試合の後の発信は全てが、負けた言い訳として捉えられることも多く、そんなSNSやってる時間があるのであれば、次の試合に向けて練習に時間を使ってくれ。とも拒絶反応が出てしまうことがあります。
クラブが負けた試合と勝った試合で、発信する内容に気を使うのは、クラブにとってのお客様が明確になっていないからだと考えるようになったきっかけになりました。スポーツクラブにおけるお客様は、その地域に住む人々だと考えると、クラブにとって大事なのは、勝敗を超えて地域にシンボルとして存在する意義になります。
しかし、僕はサポーターの勝敗に対する感情を否定しているわけではありません。スタジアムでの勝利に向けた強烈な後押しがあってこそ、スタジアムでの熱量と一体感が生まれるのを知っているからです。
だからこそ、サポーターの勝利への渇望というエネルギーは、クラブ側の人間としての反応に近いと思っています。
例えば、試合で簡単なボールをトラップミスをした若手選手に対して、そんなプレーで勝てるわけないだろ!とベテラン選手が𠮟咤する。サポーターの声は、これに近いと思っています。
改めて言いますが、
サポーターは、クラブにとってのお客様ではなく、クラブの一員なのです。
もっと砕いた言葉を使うと、サポーターは、お客様というより、大切にしあう価値を共有し、喜び合う仲間であり、クラブや選手が必要以上にへりくだる存在ではないのです。
4. 作品を共に作り上げる仲間
ここまでクラブにとってのお客様とサポーターの存在についてを書いてきましたが、サポーターをクラブの一員として考えるのであれば、クラブにおいて役割があるはずです。
それを僕は以下の2つだと思っています。
■スタジアムで12番目の選手として、勝利を後押しする
■スタジアムの外に熱量を伝播させる
今シーズンは、無観客試合を経験し、サポーターのいるスタジアムといないスタジアムでの熱量の違いを痛感しました。
特にJリーグは、見るものではないということを強く感じました。正確に言うと、映画や小説のようにエンディングが決まっているものを静かに見ているものではないという意味です。見るものではなく、参加するもの。ホームゲームという作品はプレーする選手だけではなく、多くのサポーターの参加で成立するのです。
筋書きのないストーリーを共に作り上げる。これは日常生活をしている中では、なかなか味わえない感覚です。喜怒哀楽を爆発させ、ピッチの上で戦う選手たちと同じ気持ちになって戦う時の熱量は、凄まじい迫力があります。
僕は来られている方が参加することで、熱量が生まれるイベントとしてはまさに「お祭り」がそうであると考えています。
2019年8月17日、FC琉球vs横浜FCの試合では1万2000人を超える方のご来場がありました。前年の平均が3000人強だったことを考えると、注目度の高さが伺え、実際にスタジアムは人であふれかえり、立ち見を余儀なくされる方も大勢いらっしゃいました。
FC琉球に小野伸二選手が加入したのと、横浜FCに中村俊輔選手が加入したことなどのニュースも重なり、口コミでこの試合のことが広まっていったのです。僕はこの日のことを忘れません。そしてこれがスタジアムが極まった状態だと思っていました。
しかし、その翌週に同じ市にある隣の会場で行われた全島エイサーというお祭りは3日で35万人を動員しました。もちろん会場には、小野伸二選手も中村俊輔選手もいません。そこに集まった人たちで、祭りの熱量を作り上げていました。そこには小さい子からお年寄りまで、全ての年代の方が楽しそうに足を運んでいる姿がありました。
その時、クラブの目指す世界観は、「祭り」に近いものがあるかもしれないと痛烈に思わされました。少し話はそれましたが、ここでお伝えしたいことは、スタジアムに足を運んでくれるサポーターの皆様とピッチの上で戦う選手たちで筋書きのない作品を仕上げるということです。
サポーターもこの作品の演者の一人なのです。
次に、スタジアムの外に熱量を伝播させるということについてご説明します。最初にクラブのお客様は誰なのかという問いかけをさせていただきましたが、改めて確認します。
■定義
スポーツクラブにおけるお客様は、その地域に住む人々
このように考えると、地域に住んでいながらもスタジアムへの足が重く、試合をまだ見に来られたことのない方に試合に来てもらう必要があります。1万人収容のスタジアムの1試合平均動員数が5000人だった場合、単純に考えると、次の試合に1人ずつ連れてきてもらえれば、スタジアムは満員になります。
ここまで書くと、「それはクラブ側の仕事ではないのか?」という疑問を持たれる方もいるかと思います。僕もこのような集客なども含めてクラブ側の仕事であると認識しています。そしてサポーターもクラブ側の人間であるとも認識しています。
もちろん自発的に「チラシを作成し、配布しろ」というような直接的なことを言っているわけではありません。クラブと共に大切にしあう価値を共有し、喜び合う仲間として、できることを考えようということです。
そしてサポーターの力が最も生み出される瞬間であるスタジアムの熱量を地域まで伝播させてもらうことが、最も力を発揮できる役割なのではないかと考えています。クラブにとってのお客様である地域の人達が何を考え、何を求めているのかに敏感で、一番近くで感じることができるのは、もしかするとサポーターの皆様かもしれません。
5. サポーターの仕事
僕は、サポーターは、クラブにとってのお客様ではなく、クラブの一員だと思っています。そして改めてクラブからサポーターに頼みたい仕事・役割というのは以下の2つです。
■スタジアムで12番目の選手として、勝利を後押しする
■スタジアムの外に熱量を伝播させる
これらの方法については、まさに地域それぞれに答えがあると思っています。例えば、FC琉球の場合で言うと、僕は当時「沖縄の愛に溢れたスタジアム」という言葉を用いていましたが、沖縄ではブーイングがほとんど起きないのです。子供たちが多く足を運ぶスタジアムの特徴もあり、相手を罵り、圧力をかけて優位に進めるというスタジアムではなく、愛でスタジアムを覆い、選手を後押しするのです。僕はこの雰囲気が最高に好きでした。
だからこそ、勝利のために時には相手を削り、審判の見えないところでの駆け引きをしてでも勝利するという姿に喜ぶスタジアムではなかったのです。
しかし、例えば、港町に拠点を置くクラブで、血の気が多く喧嘩っ早い県民性があったとすると、丁寧にボールをつないできれいに戦うというよりは、とにかく走って、ボールを追いかけまわして、戦い抜くという方が喜ばれるかもしれません。
そうです。あくまで答えは地域に転がっていて、クラブ側の人間が机上の上で考え付くものではないのです。
そして先ほども書きましたが、地域が何を求めているのかに敏感で、一番近くで感じることができるのは、もしかするとサポーターの皆様かもしれません。
またJリーグでは昨今デジタルマーケティングの言葉が取りざたされ、JリーグIDの取得など様々な趣向を凝らした活動を行っています。潜在的な視点を見つけ出すという意味合いでは、データが先行してしまっている感も否めません。先ほども書きましたが、クラブにとって都合のいい解釈を裏付けるものにデータがなってしまっていると僕は思っています。
やはり街におりて、答えを探すしかないのです。
2014年にJFL「FC今治」のオーナーに就任した岡田武史さんも以下のようなコメントを残しています。
あるとき、当時のスタッフ6人で夜中に話し合ったんです。「オレら、ここに来て2年になるけど、今治の友達いるか?」って。そしたら誰もいなかった。
終わりに
プロスポーツクラブにおけるサポーターの存在について、僕はクラブにとってお客様ではなく、クラブの一員であると書いてきました。しかし、この認識のずれが出てきてしまう局面を何度か目にしてきました。
特にチーム状況が悪く、なかなか思うような結果が出なかったタイミングで噴出しているような感覚です。クラブとサポーターのやり取りは空中戦で、お互いが「自分たちは悪くない!」と言っているように聞こえます。
しかし目指す世界観さえ統一し、お互いの立場で何ができるのかということを察知し、行動することができれば自ずと一体感のあるクラブになっていくのです。だからこそ、根っことして、理解するべきなのは、クラブは “商品”や”広告”を売るのではなく、“クラブの「理念」への強い共感” を売っているということ。そしてお客様が、その地域に住む人々であるということなのです。
地域を背負い、独特の世界観を持ったサポーターと一体感を持ったクラブができれば、Jリーグの魅力は一段と増すと強く確信しています。地方ごとに特色のある祭りが、それぞれのスタイルで根付き、継承され、育っているように、クラブが成長していく姿を夢見ています。
長文にわたり、お付き合いいただきありがとうございました。それでは。どこかでお会いできることを楽しみにしています。
三上昴
※参考までに
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