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「ジェンダー・クィア」日本語版出版に向けて (06) 自分のヴァギナに向き合う

マイア・コベイブさんは、女性の身体を持って生まれ育ち、現在はノンバイナリー・ジェンダーとしての自認を持ち、生活をするに至っています。
『ジェンダー・クィア』の中でも、特に強い印象を残すのは、20代に入ってパップテスト(子宮頸がん細胞診)のために婦人科受診をして、ヴァギナを持つ身体であることを思い知らされて打ちひしがれる経験を描いたところです。
今年公開された映画「バービー」の終盤で、人間の世界で生きることを決断したバービーが婦人科を受診する場面が描かれていますが、身体的女性であることを他者の視線から確認される場所として婦人科が設定されています。

シス女性でも婦人科受診(内診)は結構心理的なハードルが高いものだと思いますが、身体的性と自分の意識のあり方との間に食い違い、ずれを抱いている人にとっては、医療行為がある種の境界侵略的な経験になるものとして描かれています。

(医師)「さて、これを手で温めましょう。でも、潤滑剤がちょっと冷たいかもしれません。」「 仰向けになって鎧(あぶみ)に足を入れてもらえますか?
」「リラックスしてくださいね。」 私が次に経験したのは、人生の中で最も酷い苦しみの45秒だった。
全身を貫通するように突き刺されたかのように感じ、ものが体の中に入り得ると気づいた時に、心理的な恐怖が波のように襲ってきた。
もちろん、この事実をすでに頭では知っていたけれど、実体を伴う知識は、全く別物だ。 外の世界のものが私の身体の内側にこのように侵入してくることは、言葉では言い表すことができないレベルで間違っている、それが体でわかった。
(検査が終わって)服を着たことや、診察が終わって病院を出たことは特に覚えていないが、自分の車に戻るや否や、涙がどっと溢れてきて、30分泣いた。 その後、家まで運転するには不安定だと感じたが、一冊本を持ってきていたので、最後まで読み終えた。
もしあの経験の後に自分の体からヴァギナを摘出できたのなら、そうしていただろう。その代わりに、私はもう二度とヴァギナにものを入れないと誓った。


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