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脱毛広告観察記 6 「キレイは、強い。」か?

コロナウィルス災禍の世の中である。仕事に影響が出始めた2月上旬から危機感を抱いていたが、学校休校措置に伴い、子どもとともに実家のある京都に退避している。人口が密集する首都圏に身を置いていることに心身共に耐えられなくなったからだ。世界中が深刻な事態に及んでいるのに、「脱毛広告観察記」かと思わないではないが、身辺雑記として目にしてきたものを記述しておきたい。

「首都圏に身を置いていること」の耐え難さは、この災禍が直接的な原因というよりも、数年前からの更年期に伴う私自身の心身の変化・不調にも関わっている。3年ぐらい前から人混みや公共空間のノイズ(音響・視覚的なものの両方)に対する耐性がかなり低くなり、外出に伴う疲労が増していった。私にとって、とりわけ強いストレスを与える「視覚的なノイズ」は、脱毛広告と東京オリンピックに関わる広報物である。
招致活動が行われていた段階から、私は東京でのオリンピック開催には強く反対していた(今ではオリンピック自体が廃止されるべきだとも思っている)。招致から開催決定に到って、年々街の景色がオリンピックに関わる広報物、スポンサー企業の広告によって塗り込まれていき、子どもが通う都内の小学校の校舎内にも至る所にポスターが貼られ、学校のカリキュラムの中にも「オリンピック・パラリンピック教育」という名のプロパガンダが展開されていることを苦々しく感じていた。

オリンピックの延期が発表された3月24日、私は京都市営地下鉄・御池駅構内の店舗の外壁に一枚のポスターが貼ってあるのに気がついた。2012年に招致活動の際に制作されたものだ。レスリング選手でロンドン五輪で金メダルを獲得した吉田沙保里の写真が使われている。招致決定後に、「祝」「2020年 東京五輪開催決定!」とステッカーが重ねられている。おそらく、このステッカーは開催決定後に配布されたものなのだろう。8年前に制作された招致活動のポスターがまだ、剥がされずに貼られていることに驚いた。ポスター、広報物が頻繁に取り替えられる東京の公共交通機関ではあり得ないことだ。オリンピックの延期決定を受けて、このポスターは剥がされるのだろうか、それともそのまま放置されるのだろうか。

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「この感動を次は、ニッポンで!」というキャッチコピーが踊るこのポスターを「脱毛広告観察」の目線で見てしまうのが私の性である。弾けるような歓喜の表情で日の丸を掲げる吉田沙保里選手の逞しい腕と脇の下に目が惹きつけられた。勿論、脇毛一本生えていないスベスベの肌だ。アスリートは、観客から見られることへの意識からのみならず、競技のパフォーマンスを高める(ムレによる不快感から集中力の低下を招かない、空気・水の抵抗を減らす)ために脱毛をすることが多いという。
「アスリート脱毛」とも呼ばれる、アスリートによる体毛の処理に関連して、広告ではジレットのカミソリのCMには過去に北島康介選手が登用され(2007)、最近では東京五輪水泳に内定している瀬戸大也選手が登用されている。「スベスベの美しい肌」を保つことは、選手としての強さに直結することなのである。

脱毛広告を観察していると、昨年頃から、さまざまな企業の広告の中に、オリンピックスポンサーに名を連ねていなくても、スポーツを連想させるものが増えてきたことに気づく。たとえば、英会話教室のGabaの広告などが挙げられる。

エステティックTBCの広告「私の道は、私がひらく」で採用されている、ローラがジムでワークアウトをするというシチュエーションも、オリンピック開催前の機運に連動しているといえるだろう。

テレビCMでは、「誰に何を言われても、自分の信じた道を行こう。自分を貫く強さ、それこそが美しさ」というナレーションが重ねられる。

エステティックTBCのように直接的にスポーツを連想させるわけではないが、キレイモの広告は渡辺直美と千鳥を起用し、海賊という設定で演出して「キレイは、強い。」というキャッチコピーとともに、コントラストとインパクトの強いビジュアルで迫ってくる。


キレイモは、2018年にKIREIMO 100% GIRLS!! PROJECTというキャンペーンを展開し、100人の女性たちがピンク色の空間の中で踊るCMを放映していた。ガールパワー(Girl Power)的な雰囲気を、いわゆる「女子力」にかけ合わせて表現しているようで、違和感を抱かずにはいられなかった。

日本のモデルを起用した「KIREIMO 100% GIRLS!! PROJECT」の後に続いた外国のモデル(ほぼ白人で一人だけ黒人の女性がいる)を起用した「キレイは、強い。」。長身の外国人モデルたちを登用することで、「無駄毛と戦う海賊」という設定に視覚的なインパクトを持たせようという意図とともに、東京オリンピックという、強さを競う「戦いの舞台」への意識も見え隠れするような気がする。

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TBCの「強いことは美しい」、キレイモの「キレイは、強い。」。オリンピックを目前に控えた時期に、美容や脱毛広告として繰り返されるメッセージは、結構な圧力を持っている。コロナウィルス災禍の到来以前から、私はこのようなメッセージの圧力に押し潰されそうになっていた。オリンピックは延期されるというが、果たしてこのような、「強さ」と「美しさ(キレイ)」を結びつけて押しつけてくる脱毛広告はまだ今後も作り続けられるのだろうか。病に対して誰しも等しく弱い存在であることを思い知った今は、もうこれ以上やめて欲しい、というのが正直な気持ちだ。

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