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ジダーノワ・アリーナ✖️櫻井類展。人の記憶に分け入ってみる

京都新聞 2022年9月3日掲載
ストップモーション(コマ撮り)アニメーションで作品をつくるジダーノワ・アリーナと、抽象的な絵画を描く櫻井類の二人展。上賀茂の元古民家を会場に、ジダーノワが開放的な空間を生かした展示を構成した。

屋根裏では、櫻井の子供の頃の作品が並べられ、「自分の一番古い記憶」を語る櫻井の声と、それをジダーノワが画用紙のコラージュやクレヨン画でアニメーションにした映像が上映されている。

誰にでも過去と思い出はあり、その記憶は個人的なものだと思っている。果たしてそうだろうか。

櫻井は映像作品になった自分の記憶を見て、「これは、本当にあったことだったのだろうか?」と不思議に思ったという。

鮮明でありのままだと信じていても、記憶には夢や空想が出入りして、常に揺らいでいる。そんな揺らぎを再現するように映写するスクリーンは二重にされ、焦点はぼやけている。

古民家の会場は、記憶の隠れ家がつくりやすい環境かもしれない。


ジダーノワは、これまで自身の記憶を題材にしてきたが、今回は、インタビューやリサーチで櫻井の記憶を探り、それをもとに制作を試みた。他人の記憶に触れ作品にするプロセスの中で、記憶を抽象化し、観客が内にしまい込んでいる記憶とつながりを結べるように計らった。
作品が、観客の内なる記憶に働きかけ、文化や属性を超えて共通言語になるという希望も込めている。

 櫻井の絵画は、学生時代にさかのぼる過去作品と近作とが混ざって展示されている。茶室にあるのは約10年前に描かれた無彩色の幾何学的な作品と鮮やかな近作で、趣の違う絵が時間を超えて向かい合っている。玄関と蔵の展示室、入り口と最後で見るのは、顔を描いた大型の新作だ。こちらは抽象から具象へ、あたかも徐々にまなざしを得てゆくような作品の変化で、揺れる「記憶」から目醒めてゆく画家の軌跡をしのばせる。


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