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IDEAL COPY展「Copyleft」

京都新聞 2021年3月2日掲載

京都市京セラ美術館で開催中の「平成美術:うたかたと瓦礫(デブリ)」は、平成期に顕著だった、集団で制作したアーティストを紹介している。「平成第一期 1989−2001」を代表するのは関西を拠点としていたComplesso Plastico、DIVINA COMMEDIAとIDEAL COPY。80年代、関西には学生やアーティスト同士が盛んに自主企画展を行い、密なネットワークが醸成されていた。そこからいくつものユニークなグループワークが生まれたことを、東京からみていた同展キュレーターの椹木野衣は刺激的に感じていたことだろうIDEAL COPYは、匿名の構成員によるクリエイティブプロジェクトで、社会のシステムをターゲットにしたコンセプチュアルな作品で注目された。たとえば93年に発表された《Channel: Exchange》は、鑑賞者が持参した外国硬貨を、同じ重量のオリジナルのコインに両替する「作品」だ。(「平成美術」展会場で、3月13日、4月10日に開催)硬貨が貨幣価値のないオリジナルコインに交換され、集められた硬貨はオブジェとして展示される。貨幣価値やグローバル化に言及した作品だったが、美術品が天文学的な価格で取引されるいま、小銭とオリジナルコインという「アートオブジェ」を交換するパフォーマンスは、ターゲットとする社会システムが違って見える。

《Channel: Copyleft》は、著作権を持たない音源を募集し、それをギャラリー空間で再生。鑑賞者はその音をIDEAL COPYのロゴ入りカセットテープに録音して持ち帰ることができる。もともとは著作権のないものだったのが、ギャラリーで展示され、アーティスト名の記された記録媒体に収められることで、それは著作権を持つ「作品」になるのだろうか? 「Copyleft」とは、Copyright(著作権)に対する考え方で、著作権を保持したまま、二次的著作物も含めて、すべての者が著作物を利用・再配布・改変できなければならないという考え方である。(Wikipedia)

いまクリエイションの世界で、著作権と表現の自由との衝突は、極めてゆゆしき問題になっている。作品には、そんな社会システムへの申し立てが込められている。と同時に、レトロでフェティッシュなカセットを媒体にした展示は、アートが社会問題をスタイリッシュに安全に「鑑賞」する装置として機能してしまう、という皮肉にも見える。(HAKU =寺町通四条下ル 28日まで、火休)


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