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さくらいともか展「はりこのほとけ」の、厳粛さとユーモア

京都新聞2024年3月30日掲載

郷土玩具でおなじみの張子人形は、粘土などでつくった型に紙を貼り付けて固め、割って中の型を抜いて着色してつくる。軽くて中身は空っぽ。「張子の虎」は、見掛け倒しのたとえでもある。

さくらいともかの展覧会「はりこのほとけ」に並ぶのは、持仏のような小さなサイズのものや、顔や頭部がない不完全な姿、欠けた部分の像。のっぺりとして衣紋も単純化され、印を結んだ手は、緊張感よりもゆるやかさが感じられる。色は経年変化した青銅や木のように黒光りしている。興福寺の阿修羅像に用いられた張子状の漆工の乾漆なのかと思ったら、紙の張子に墨を塗ったものだという。トリックアートのようでもある。

絵本作家の、削ぎ落とした柔らかな問いかけ


 さくらいは、十代の頃から仏像に深く感銘を受け、つくってみたいと思い続けてきた。この展示ではその思いから「自分の仏像から、仏性は感じられるのか」という問いを立てた。あえて用いた紙の張子という、仏像には素朴すぎる手法は、観客にとっては「空洞を抱えた紙の像が仏像に感じられるか?」という謎かけにも思える。

さくらいは、これまで絵本を多く手がけてきた。仏像のイメージを造形や解釈の型から解放し、やさしい語りから問いの世界に誘う「はりこのほとけ」には、いい絵本の読後感に似た愉しさがある。
(Art Space Korin=東山区大和大路通古門前東入ル 31日まで)

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