詩集「水辺の寓話」水野ひかる著
 
詩集の舞台は総本山善通寺の背後に連なる山並み。五岳山、香色山・筆の山・我拝師山・中山・火上山。著者が朝に夕に眺める風景である。詩がうまれた場所は宮池の三十分くらい散歩コースで、池の周りは、南西には善通寺の五岳山、北東には讃岐富士といわれる飯野山が見渡せる美しい水辺という。
 

詩の魅力は、美しい自然描写、著者の観察力と自然の捉え方だ。一瞬にして、その風景にひきこまれる。
『一月の水辺に』一連目「虫食いの冬菜のレースの網目を/冷たい風がとおりすぎていく」

夏の虫食い跡がリアルに脳裏に浮かび、冬空に溶け込んでしまう。三連目「砂地に現れた溜池に/錆びた空缶/ペットボトル」人盛りの夏が去った余韻、時間の重さが実感として触れられ、冬の冷たい風が皮膚を抜けていく。
『九月の水辺に』一連目「曼珠沙華が紅い帯を解くと/真葛が原に/月が昇る」お月見の月が鮮やかに浮かび、燃える美しさに魅了されていく。『十一月の水辺に』二連目「水辺を辷ってゆく鳥影に/靡く秋の麒麟草/白く蓬けた藤袴/懸命に結んできた気持ちが/ゆっくりと 解けてゆく」十一月の季節とこころがぴたり溶け込んでいく。

著者のやさしいタッチは、あちらの水辺の風景から手を差し伸べられているよう。すっと連れ込まれてしまう。一緒に四季折々の風景を散歩し、その美しさにうっとりとこころが奪われる。

*「詩と思想」2015年11月掲載

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