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バネ作りの話

お久しぶりです。
御神楽 樹林です。
ふと思い立ち記事を書いております。

今回はバネのお話です。
なぜこんな話をするのかというと、私自身がバネを作る仕事に携わっているからです。

とはいえ、実際にどのようにバネが作られているのか、なかなか想像が出来ない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
私自身も今の仕事につくまでは、どのようにバネが作られているのか、まったくといっていいほど想像が出来ませんでした。

今回は、バネがどのように作られているのか、少しでも皆様に知ってもらえたらと思います。

○バネは身近なところに使われている

みなさんは「バネ」と聞いて、どのような形のものを思い浮かべるでしょうか?
ボールペンに使われているバネを想像する方もいらっしゃるかもしれないですね。

その他にも、農機具や自動車、ビニール傘など、バネは様々なところに使われています。
また、その形状も様々です。

私たちの生活のいたるところで、当たり前のように使われているバネ。
それにも関わらず、バネそのものはあまり目立つことはありません。
まさに縁の下の力持ちのような存在です。

しかしそんなバネであっても、作るのは結構大変なのです。

今回は、そんなお話をしていきたいと思います。

○ただ作ればよいというものでもない

バネを作るにあたり、まずはその品物の寸法等が記載されている作業標準書を確認します。
基本は書いてある通りに作ればよいのですが、だからといって、ただ作ればよいというわけではありません。

しっかり形を整えた上で、外径・自由長(バネに何も力が加わっていない時の全長)・荷重等が指定されている交差内に入っていなければならないのです。

指定されている項目は、バネによって違います。(以下はいくつかの例です。)
①外径・自由長
②外径・自由長・荷重
③外径・自由長・荷重・ばね定数(バネに負荷を加えた時の荷重を伸び(縮み)で割った比例定数)
④内径・自由長・荷重
※荷重については、1段指定・2段指定等あります。
※場合によっては、バネの傾きが何度以内というものも。

私が作っているものは、圧縮コイルバネ(押しバネ)と呼ばれる、如何にも「バネ」といったような見た目の品物です。
それでもざっと思いつくだけで、上記のようなバリエーションがあるのです。
おそらくまだまだあると思います。

ですので、その時々によって調整を繰り返し、それぞれの項目をできるだけ中央値に近づける事が大切です。

ただ作るだけでは終わらないのです。

○機械の操作を覚えるのも一苦労

現在、私が担当している機械は、小型のものが2種類。
それぞれ操作方法が異なります。
(例えば機械のハンドルに関しては、片方は右回し、もう片方は左回しといったように逆の操作をする事も。)
これがまたややこしいのです。
慣れないうちは混乱する事になる要素のひとつです。

ですので、まずは機械ごとの操作方法を、バネを作りながら覚えていくわけですが、これにはやや感覚的な部分もあり、基本的な操作の他は、自分で少しずつ機械のクセ等を把握していくしかありません。
把握をするためには、とにかく触ること、そして数をこなす事が1番の近道なのです。

私は、1番最初にバネを作った時は、出荷できる品質まで持っていく事が出来ませんでした。
それからしばらくは、私が慣れていない事もあり、バネを作った後に、先輩から手直しが入ったりする事も日常茶飯事でした。
それぐらい、セッティングにはデリケートな部分があるのです。

○あなどるなかれ 切断刃の位置・芯金の位置

バネとして加工された線材は、最終的には機械によって切断されます。

線材を切断するための切断刃の取り付け方に関しては、感覚によるものが大きいため、その感覚をしっかりと掴む事が重要です。
この部分に関しては機械ごとに取り付け時のコツがあるようですが、私は未だにそのコツを掴みきれていません。

この切断刃がうまく取り付けられていないと、バネが切断された際、先端にバリと呼ばれる突起物ができてしまったり、はたまた切断面が変に押しつぶされたような形になってしまったりする事もあります。
さらに、うまく切れている時と切れていない時とでは、カラッとした音がするか、鈍い音がするか、といったように、切断時の音も違います。

その音を聞くことも、取り付けが上手くいってるかそうでないかの判断材料のひとつとなります。

この他にも切断刃に関しては、取り付け位置ひとつをとってもコツがあって、切断刃が前に出すぎていたりすると、バネが切断された際に品物に予期せぬ傷が入ってしまったりする事もあります。
さらには、切断刃の先端の幅も、線材の線径によって太くしたり細くしたりといったような加工をしなければなりません。
(グラインダーで削って形を作ります。)
先端は、太すぎても細すぎてもいけないのです。

これに付随し、芯金の位置も重要になってきます。
こちらも前に出すぎていたりすると、線材が2本切れてしまったりします。
また、切断刃と芯金の合わせがうまくいっていない場合はやや大きめのバリが出ます。
さらには、芯金のサイズもバネの外径によって変える必要があります。
(やはりグラインダーで削って形をつくります。) 
芯金は、大きすぎても小さすぎてもいけないのです。

何にせよ、ツールの位置ひとつで、傷が入ってしまったり、線材が2本切れてしまったり、バリが出てしまったりするわけです。

○まだまだ半人前の私がバネを作る時に意識している事

オペレーターとしてはまだまだ未熟な私ではありますが、私なりに意識している部分もあります。

①密着巻はしっかりやる。
→バネを作る際、まず1番初めに調整する部分です。
円形に加工された線材と線材とが互いに密着するように作ります。
(バネを手で押した時に、これ以上縮まないところまで行った際は、隣合う線材同士が密着した状態になりますよね。
見た目のイメージとしてはその状態とほぼ同じです。)

この時の加減が強すぎると、機械のワイヤガイドと呼ばれるツールにバネの頭がぶつかってしまい、変形してしまいます。
また加減が弱すぎるとバネの頭が浮いてしまったり、外径がバラついてしまったりします。
良品率も落ちます。
と、悪い事ずくめになってしまうのです。

②巻き始めと巻き終わりの座巻(端の平らに見える部分)の付き具合はどちらも同じようにする。
→座巻の付き具合が違うと、巻き始めと巻き終わりとで荷重が変わります。
交差の範囲内に安心しておさめるためにも、どちらを上にして測っても同じような荷重が出るのが理想なのです。

③できるだけ真っ直ぐに立つようにする。
→立ちが悪い(傾きが大きい)と荷重がバラつく事があります。
また、品物によっては、傾きが何度以内等、交差がある場合があります。

④バネによっては、巻いている時にボディが痩せてしまうので、なるべくボディが痩せないようにする。
→品物によっては、内径の指示があるものがあり、その場合はそれぞれの内径に対応したピンゲージ(イメージとしては、金属製の棒のようなもの)を使用し、それをバネに通して、どこが通るか、どこで止まるかを確認するのですが、ボディが痩せていると、うまくピンゲージを通りません。

また、同じ材質で同じ線径の線材であっても、材料ごとの個体差のようなものはあります。
その時々によって、線材そのものの巻きグセや、テンパー処理(熱処理)した時の伸び縮みの具合も違うのです。
(よく使われる線材3種のうち、ピアノ線や硬鋼線(こうこうせん)は、熱を加えると縮みますが、ステンレス鋼線は熱を加えると伸びます。)

また、バネを作る時のツールに関しても、線材の線径に対応したものを使用するのですが、どのツールを選択するかによって、密着巻がうまくいかなかったり、あるいは外径や巻数がバラついてしまったりする事もあります。

このように、各々の要因が複雑に絡み合ってくる部分があるのです。
ですので、どうしてもうまく行かない時は、原因と思われる箇所をひとつずつ調整していくしかありません。
何が原因で不具合が起きているのか、手当たり次第に当たっていかないとわからない部分があるのです。
(セット自体に問題はなく、線材そのものが原因である場合もあります。)

○バネ作りの世界は奥が深い

いかがでしたでしょうか。
バネ作りの奥深い世界が、少しでも伝ったのならば嬉しく思います。

バネの製造に限らず、モノづくりの世界は奥が深いものだと感じます。

その人なりのこだわり、向き合い方。
どのようなものにも、そんなドラマが隠されているのかもしれません。 
完成したものはシンプルかもしれないですが、その品物が形作られるまでのストーリーを探ってみたり、想像してみたりするのも面白いかもしれないですね。

長文をお読みいただき、ありがとうございました。

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