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東欧の女性

「あぁ、もうあかん。日本に帰りたい。普通の大学生に戻りたい。」

長い旅に出て4ヶ月の折り返し地点、私は初めて心が折れそうになっていた。

当時約3ヶ月間のアジア旅の後、
刺激的なサファリを抜け、
未知の国ジョージアから移動したトルコで感情が溢れ出た。

厳密に言うとそれは、
トルコからブルガリアへ、
1人陸路で国境を越える夜行バスの中だった。

イスタンブールで友達とワイワイ過ごす中、
薄々その感情に気付いていたのだけれど、
感じてないふりをし、その原因も知らないふりをした。

でも1人になった瞬間、
それはやっぱり溢れ出して、
どうしようもなくなりそうなくらい旅の意味を見出せなくなっていた。

そんな感情で窓の外のハイウェイを眺めていた私に、隣から声が。

「ブルガリアへ行くの?どこ出身?」

私の隣に座っていたのは同年代の女の子。
少しハスキーな声が、ロック風の服装によく似合っていた。

ブルガリア人の彼女はイスタンブールに留学中で今から帰省するところだそう。
日本出身と話すと、嬉しそうに最近彫ったタトゥーを見せてくれた。
それは勾玉のタトゥーで、
「隠と陽の意味合いがあるでしょ。それにしびれたのよ。」
となぜか興奮気味に話してくれた。

休憩時にタバコを吸いながら、
自分の国への不満を話す彼女の風貌は、
やっぱり様になっていて
東欧の女性を感じた。

クールな彼女とは長話しすることはなく、
国境を越えてると2人とも大人しく就寝。
早朝、バスを降りるまで会話はなかった。

そしてバスターミナルから出ようとした頃、
ポツリポツリと雨が降り出した。

簡単なカッパしか持ち合わせておらず、
しまったなーと思ったところへ

「雨降ってきたけど大丈夫?宿分かる?」

とお世辞感満載に気にしてくれた彼女。

「カッパあるから大丈夫!宿もたぶん分かると思う」

できたら助けてほしいけど、それなりに強気で返すと

「そう。それじゃあ。気を付けてね!」

走り去ってしまった。なんとも呆気ない別れだった。
東欧の女性はこんなものなのか?と思いつつ
雨の中、iPhoneに落とし込んだ地図に目をやる。

できるだけ地図を頭に入れてバスターミナルを出発するも
雨がかなり激しくなり、途中カフェで雨宿りを。

カフェの店員さんに宿の場所を尋ねるが
「知らないねー」
と連れない返事。
やはり東欧の女性は冷たい。

カッパは風でめくれ上がるわ、
20キロのバックパックは肩に食い込むわ、
メガネは雨でビチョビチョで前が見えないわと
悲惨な風貌になる私。

最後の与力を振り絞って
路面キオスクの開店準備をしている女性に声をかけた。

「わぁ、そんなビチョビチョになってー!大丈夫?こっちの屋根に入りな!」

「ありがとうございます。ここの宿に行きたいんですけど、、近くのはずなのに見つからなくて。」

差し出す住所を見て

「うーん、近くだけど聞いたことない名前。でもこの住所ならそこを真っ直ぐ行ったところよ。」

日本で道を尋ねられたらこれくらいの対応をするのが普通だが、
ここブルガリアでは違った。
だからこそ、この日本の当たり前の感覚で
道を教えてくれた女性に大感動。

「ありがとうございます!!行って宿探してみます!」

違うよ私。これが東欧の女性だ。
旅の面白さはここにある。
東欧だからって冷たい人ばかりじゃない。

まだまだ知らないことだらけの世界なのに
何帰りたいなんて弱音言ってるんだ私は。

まだ出会うべき人がいるから旅を続けよう。

彼女との出会いで私の心はまた前向きに。


でもこのあと出会う東欧の女性は、やっぱり冷たい人が多かったのはここだけの話。

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