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占いの最初のお客様
こちらは登場される方ご本人に、了承を得てお話させていただいてます。
数十年前、私は東京にて対面の占いを始めました。
占い師として駆け出しだったその頃、当時は全くお金が無く、タロットカードも買えず神秘的な衣装もなく、霊視のみを専門として、小さなスペースに場所を借り、占いの商売を始めたのです。
周りはベテランの占い師ばかり、愛想もない私に当然客はつかず、来るのは酒臭い冷やかしのおじさんばかりでした。
ある日、私の暇そうな様子を見ていたのでしょう、大学生くらいの年齢の青年が寄ってきて「小説を書いているので読んでくれないか」とipadを差し出しました。「明日とりにくるから」と占いの代金3000円を机の上に置いて。
当時高価だったipadを見も知らぬ自分にぽんと渡したことや、その小説が1000ページを超える量であることに驚きながらも、初めてきちんとお客様が来てくれたのがとても嬉しくて、私は徹夜で小説を読み耽りました。
次の日、青年はipadを取りにきて、読んだ感想を聞かれました。
「僕には才能はあると思うか」
私は思ったままの感想を口にしました。発想は面白いと思う、しかし誤字脱字が多い、文章の表現もわかりにくい、情景が浮かんでこないと。
「仕事をしながら小説を書いてるんだけど、小説一本に絞ったほうが良いか迷っている」
その際に霊視した際、彼の背後には二つの未来が浮かんでいました。分岐する未来を私は初めて視ました。その事を告げると、無言で彼は帰っていきました。
それから三年たった頃、その青年がまた占いにやって来ました。
ずっと仕事をしながら小説を書いていた。執筆業が忙しくなったから仕事をやめようと思う、と報告しに来てくれたのです。
「あの時仕事を辞めていたら、小説を書くのも辞めていたと思う。ありがとう」と告げて帰っていきました。
私は、あの時 ”仕事を続けろ”とも "辞めろ"とも言っていません。ただ「未来が分岐しそうだ」と伝えました。
その青年曰く、「自分が二つのどちらかを選べば、未来がはっきりわかれてしまう」「僕の技術はまだ未熟だ」「今はまだ答えを出す時ではない」 と思った、と。
彼は、限られた時間の中で働きながら努力を重ね、表現の技術を磨き、自分の飛び立つ時を自分で判断し、満を持して羽ばたいたのです。
ちなみにその青年は、その後有名な賞を取り、今も第一線で活躍している小説家の方です。私はずいぶん後にテレビのインタビューを受ける彼をみてその事実を知りました。
何十、何百人と同じような境遇の悩みを鑑定した中で、小説家として成功しているのは(私が知る限り)その青年ただ一人です。
君もあのヘンな占い師にみてもらったの? って
モノ書き同士で話す未来とか、最高じゃないっすかw
(LINEの原文ママ)
もし、貴方が昔を語る際に、登場人物として、笑いながら懐かしんでくれたなら。
こんなに嬉しいことはない、と。思いながら今日も占いを続けています。
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