見出し画像

占いの仕事

辰砂の出来事の後のお話です。


ホームレスのおじさんが去った後、私は抜け殻のようになってしまいました。

食欲は落ち、ガリガリに痩せていく手足。無気力に過ごす毎日。数ヶ月ほど経ったころ、とうとうバイトにも行かなくなってしまいました。

かろうじて占いのブースにだけは通い続けました。ただただボーっと机に座り、何時間も自分に問う日々。私は暗闇の中でどんどん追い詰められ、人を失った痛みの中で動けなくなっていました。

「私は何のためにここにいるのだ」

「自分には何が出来たのだろう」

未来が見えていても、救えないなら、占いなんてなんの意味もない。

唯一の特技であった、過去を垣間見る力。未来の糸を視る力。その能力を、自分自身が疑い、見失いつつありました。

何をしていても、どこにいても、おじさんの顔が浮かび、私は涙がでない飽和した悲しみの中に沈んでいきました。

——

日に日に痩せていく私をみかねたベテランの占い師が、ある日の昼、食事に連れて行ってくれました。

季節はすでに移り、アスファルトは熱く、空気には夏特有のむせるような匂いが充満していました。暑さが増し、空間は夏へと向かうのに、私の身体の芯は冷え冷えとしていました。視線を落とした先には、夏の光ではなく、濃い影が黒々と落ちています。

サラダをやっとのことで口に運ぶ私に、先輩の占い師は、これも食べなと唐揚げをプレートに置いてくれました。私は虚ろな目でその茶色い物体を眺めていました。

「引きずられては、駄目だよ」

「本当に人を助けたいなら、引きずられてはダメなんだ」

先輩の占い師の言葉を聞いて、唐揚げを口に運びました。少しだけ、味を感じたように思えて、一口、また一口と齧る。

私よりずっと年配の彼女は、私の目をまっすぐに見て言いました。

「何かを育てるんだ。一緒に生きていくんだよ」

その眼差しの中にある、自分にも覚えのあるその気持ちが、私の意識を呼び戻したような気がして、私は先輩の占い師を見つめました。

——

暗闇に浮かび上がるあのゆらゆら揺れる炎の色。心に灯るファイア。笑顔と消えていく煙。

答えの出ない問いはずっと胸の内に絶えず燃えていて、きっとこの先も答えは出ないのかもしれません。

この後、私は、自分の仕事をする為に三体の生き物と契約を結びます。

いずれ、このnoteにてご紹介をさせていただきたいと思います。

サポートしていただけると嬉しいです。星の情報をこれからも記載していきますのでよろしくお願いいたします。 →サポートいただいたら9割の確率で泣いてます