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さよなら、おひめさま

2015年から続けてきた"おひめさまにがおえ"を、やめることにしました。

いま、自分が表現したいことはなにか。作家としてこう思われたい。こうは思われたくない。そういった理想像がだんだんと変わってきたのが理由です。

にがおえを描きはじめたのは、2013年2月の初個展のとき。
当時は、"おひめさま的存在"を守りたい、かわいいものが好きという気持ちを肯定したい、という気持ちで作品制作をしていました。
来場者の皆さんをおひめさまとして描くことで、そのコンセプトがより伝わりやすくなると考えました。
それまで似顔絵を描いたことはありませんでしたが、私自身のもともとの見え方も相まって、"おひめさま的に"かつそっくりに描くことはあまりにも簡単でした。見たまま、写実的にスケッチしている感覚。そんな、私にとってはごく簡単なことで、たくさんの方が喜んでくださいました。
おひめさまにがおえを描くことは、私の見方は間違っていないとつよく思わせてくれる、大切な機会でした。

2015〜2017年の初め頃は、世界中から愛されている美しい人物像を描いていました。その人物は、自分でもあり、鑑賞者でもある。優しい世界で、可愛らしく着飾り、可愛らしいものに囲まれ、幸せそうな表情を浮かべています。そんな人物像を「あなたです」と言うことができれば、それはそのままその人を肯定することに繋がるのではないかと考えていました。

▲ばら園にて (2012年3月)
"ゆううつ"がテーマのグループ展に出展した作品。"ゆううつ"という言葉(そして、その時主流だった"病みかわいい"系の文脈)と、私の作品はかけ離れたところにあると感じるきっかけになった。
この人物にとって生涯で一番辛かったことは、ばらの棘で人差し指を切ってしまったことである。

▲すべてはあなたのために (2017年2月)
このタイトルは、描かれている人物の言葉ではない。人物のまわりの花、空気や水分、ひいては描き手である私自身の言葉である。
大きな絵を描くことになった画家(=私自身)は、材料を買い揃え、下準備を終え、時間と体力を削って画面に向かう。絵の中に人物の顔を描いたら最後、さまざまな花や光が、その人物を最高に輝かせる位置につく。服も特別に仕立てられ(布地ももちろんオーダーメイド)、髪でさえもたっぷりと優雅に流れる。
世界のすべてに愛されるとはどういうことか、を考えながら制作した作品。

2017年2月、できる限りの愛を注いだこの作品が完成したことで、"愛される人物像を描くことで人間を肯定する"という制作フェーズは一旦区切りにしようと思えました。

ちょうどそのとき8月の個展の開催が決まったので、方向性を変える機会にしようと考え、大学院を出てから2年ぶりに油絵を描くことにしました。
日々、深夜までキャンバスに向かうなかで、"人間(=愛される側)"よりももっと大きなものを描きたかったんだということに気づきました。
自分の作品に守ってもらいたいのは、私自身であると。
それから幼少期の記憶や自分の考えを整理して、個展のステートメントが完成しました。

https://note.mu/miiik/n/nc80d638820e9

思えばここで、"おひめさま"というモチーフとは完全に決別していました。私の描くべきものは、もっと大きな安心感・空気感であるとか、幸せなムードに由来するうつくしさ、崇高性、そんなふうな事柄であると気づきました。
鑑賞の仕方は自由なので、私の作品を見て"おひめさまみたい!"と感じていただくのはもちろん間違ったことではありません。表現したいことが変わっても、ぱっと見ただけでは私の作品には"少女"が描いてあります。画面自体を楽しんでいただけるのもありがたいですし、そこから意図などを掘り下げて楽しんでいただけたら、作家としてこんなに幸せなことはありません。
表現したいことがあるかぎりものをつくることはやめられないし、生きている限りそれは移り変わっていくものだと思います。いろんな表現方法を試してみたいし、自分にはもっといろんなことができると信じたい気持ちがあります。
そんな展望が見えてきたいま、今までのように自らを"おひめさまを描く画家"という枠にカテゴライズするのは本意ではないと考えるようになりました。

個展以降、にがおえを描いてこなかったのはそんな理由からでした..!
今までにがおえを描かせていただいたことは、そのとき表現したかったことを伝える手段として最善の方法だったと思います。にがおえを描くことで喜んでいただけたのももちろん幸せでしたし、たくさんのご縁もいただき、本当によかったと感じています。
ただ、表現したいことが変わってきたいま、中途半端な気持ちで描くことはできません。
3,500円をいただいて、その場で完成させる。私の描き方では、どうしても納得するクオリティまで持っていくことができなくなりました。自分に求めるレベルがどんどん上がっていったのも要因です。
それなら、発表してもいいと思えるうつくしい作品を展示し、3,500円でお買い上げいただく方がいいなと思うようになりました。
同じお値段でも、似顔絵屋さんではなく画家として、作品を購入していただける方が、私はずっとずっと幸せです。

今回の展示では、"愛される側"を描いた最後の作品と、最新の作品(ちいさなもの数点)をならべて展示いたします。
それぞれの作品の纏う空気感を、ぜひ見比べて楽しんでみてください。

また、今回の新作はサイズを小さくして、お求め安い値段に設定したつもりです。
にがおえよりも時間をかけているのでもちろん同じ値段にするのは難しいですが、なるべく、気に入ったものをお求めいただけるように..

また、普段はスマートフォンやPCの画面で作品を見ていただいていると思います。ですが、私の絵は写真ではうまく色が出ません。線も細く色も淡いので、細かく描き込んだりすることで画面のバランスを微調整しています。表現する上で色彩に頼ることが少ないので、生で見るととてもやわらかな色合いです。絵の具の照り、生々しい筆の跡も、写真ではまったく映りません。ぜひ、生の絵画を体感していただきたいです。

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みく・ふらんそわ〜ず mini exhibition
Harutonari -春隣-

2018.1.13-15
12:00-20:00
marienkaferにて
東京都渋谷区神宮前1-15-1
via原宿202号室
(JR原宿駅・地下鉄明治神宮前駅より徒歩約5分)


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