妻のこと。
家事が好きではない妻は、いつも楽をしたがった。
朝に使ったお椀は洗わずにお昼に使い回し、掃除は来客がくる前日に見える場所だけ、洗ったバスタオルはカーテンレールにかけて干した。
家事のやり方に不満はなかった。自分自身、だらしないところがあるし、結婚前はほとんど妻と同じことをして生活していたから。
花粉も落ち着き、暖かさが吹いてきた頃、会社の後輩と飲む約束をした。妻と会いたいというので家に連れて来るつもりだと、妻には1週間前に言っておいた。
妻はいつも通りに、前日に掃除を始めて家をきれいにする。
その日は、いい天気だった。
きれいで居心地の良い部屋を後にして会社へ行き、後輩とまた帰る。玄関先で妻と後輩の挨拶を見届けて中へ入ると、南向きの窓辺に妻のバスタオルがかかっていた。
3人で、ビールで乾杯をする。
「加藤さんのことは、ほとんど毎日夫から聞いてるんです」
「えー恥ずかしいですね。ということは、仕事の話も家でするんですね」
「ええ、よく話してくれます」
「仕事の話ができる奥さんなんて、先輩羨ましいですねー」
「かなり噛み砕いた話だけだよ」
「いやいやそれでもすごいですよ。確か、全然違う業界なんですよね?」
「Webデザイナーです」
そう言うと、席を立ってどこかへ行く。
あれから部屋は、ずっと暗いままだった。
風だけが、暖かさを知らせてくれた。
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