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〜ハチロク〜

今日は8月6日。

父は長男だったので疎開中で被爆はしなかった。が、家族や友達、知人、そして育ち愛した町がひどく傷ついたことは、とても辛く、自分だけが無傷だったことも、とても複雑だったと語っていたように記憶している。
あまり語りたがらなかったし、私も聞きたがらなかった。

子供心に原爆の地獄絵図は余りにも衝撃で、今歩いているこの橋がこの川が、この町が……そう思うととても怖かった。怖いと思うことはいけないと思いながら、被爆した建物や樹木、石段に焼き付いたと言われる人影……どれも直視できなかったし、県外では広島出身だと気付かれると、放射能が伝染るって避けられる…なんて根も葉もない噂も聞き、広島から来たと言うのも嫌だった。

子供の頃のわたしは、8/6は学校か平和公園でその時を迎えるものだと思っていた。
大人になって就職すると、そこには日常生活があり、8/6は特別な日ではなくなった。
出勤しながら、あ、そうか。と思う時さえあった

結婚して、母になると今までと思いが一変した。
怖いと思ったあの時の自分に、今、この手を握る我が子に、ちゃんと寄り添って8/6を過ごそうと思うようになった。
小学校に上がるまでの間、二人ともなるべく8/6は平和公園へ連れて行き、ハチロクの広島に触れさせるようにしてきた。

正直のところはやっぱり怖い。この目の前の川は泣き叫ぶ人達で溢れたのだと思うと、この橋は水を求めて飛び降りる人達溢れたのだと思うと、いつもの景色を眺めるのにも躊躇してしまう。

今日は8月6日。

その時を、私はふくちゃんと亡くなった父の墓参りに向かう遊歩道で迎えた。
散歩やジョギングをしてる人達が足を止め、平和公園の方角へ黙祷をする。
私も黙祷をする。
不思議と怖くはなかったし、いつもの景色も静かに穏やかに見ている自分に少し驚く。

お墓の父に、
「少し大人になったでしょ。」と自慢した。

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