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おかえり

「えっ…?」一瞬、歩いてる足が止まった。

前を歩くお爺さん、似てる。

9月に逝ってしまった父に似てる。

背格好も雰囲気も歩き方も、ほんの少し覗ける髪や顔の感じも!

私の家に向かう方角の信号待ちをするその人に少し近づいてみる。杖も少し色味が違うし、トレードマークだった帽子がハットじゃなくて、キャップ。でも、やっぱり似てる。

もしかして

もしかしてあの世では、お誕生日月に好きな日を1日選んでこの世に遊びに来れるのでないかしら。

そんなことを考えた。

杖が違うのは母が形見にもらったから、きっとあの世で新しいのを手に入れたんだと思う。持って逝った帽子がキャップなのは、きっと忘れて出ちゃって出口の関所?みたいなところで借りたんじゃないのかな。
「あ〜!帽子を忘れたよ。取りに行ってもええかいの?」『大丈夫。これで良ければお貸ししますよ?』みたいな感じで。

お誕生日や月命日は、みんなが墓参りに来るから留守にできないでしょ。だから、お誕生日月のどこか好きな一日。

だとしたら、孫との思い出の道をくるりと廻って、大好きなデパートの物産展巡りでもするのかも。残念ながら、今は何処もチョコレートだけど、きっと雰囲気が好きなのよね。

ゆっくり見て廻ってる姿が浮かぶ。

「ほ〜。こりゃすごいじゃないか。ねえ!」って、売り子さんに話しかけてそう。えへへ……。会いたいなぁ。

『じいちゃん!』って、走っていってギューッってしたいなぁ。

でもでも、誰かに見つかってしまったら強制終了〜だったりするかも知れないから、会わないでおこう。のぞかないでおこう。

声はかけないでおこう。

おかえり。

そしていってらっしゃい。

またね。


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